02
気持ちの良いほど晴れた日、王都はいつも以上に活気があふれている。神官さまが言っていたお披露目が本日王城で行われるらしい。予定されていた商談をすべて終えた私はそんな活気溢れる王都を去る予定。
行きとは商品も同行者も1人減ってしまった一行はなんだか力がない。
デューイは良くも悪くも私たちの中心だったし、なによりあの顔だけ男がいれば華がある。落ち込む女性陣はわかるものの、どうして御者の彼までも落ち込むのか。まぁ老若男女問わずのデューイだけあると納得しとこう。深くは考えない、考えたくもない。
王都から伸びる街道をゆっくりと進んでいるうちにドン、と大きな音が響く。振り返れば、王都の上空に上がる花火が見えた。
「そろそろかしら」
何事かと、街道を進む馬車が一様に止まり王都上空を眺める。もやもやとなにかが、と思っているうちにそれは映し出された。
魔法によって空に映し出されたスクリーンに映るのは王城のバルコニーで手を振る元婚約者のデューイと王家御一行さま。あの神官さまと目つきの悪い護衛の騎士と女性が1人、きっと魔王討伐メンバーとやらに違いない。
姫さまがデューイを見上げては頬を染める様子がはっきりと見えて、やっぱり、と思う。そして促されるまま、その手を姫さまの肩に回しているデューイが映る。
「デューイ様ですねぇ」
「姫さまと婚約するらしいわ」
「え?」
私の言葉にびっくりしたのか、隣に座る侍女は隠すことなく視線をくれる。
「なあに? どうしたの?」
「いい、のですか?」
「え? どういう意味?」
空に映る2人に見入っていた私は、その言葉に首を傾げて侍女に向き直る。数秒の沈黙があったけど、それ以上彼女はなにもいうことなく空へと視線を戻した。
声までは届かない魔法のため、何を話しているのかはわからない。けれど、討伐メンバー唯一の女性の口元が何かを呟き手に持った杖が力強く地を打った。
きらきらひかる光の残像の中、残されたのは王家御一行さまと、届くはずのない声がきっと更なる歓声へとつながった様子だけ。
そして、目の前に現れた勇者さま御一行。
「お待たせしました、サラ様。さあ行きましょう」
静かに映像を見つめていた街道に、突然現れた4人に一気に騒がしくなる。
デューイと神官さまと眼光の鋭いあの騎士と身の丈ほどの杖を持った女性。今のいままで空に映し出されていた人たちが現れ、混乱が巻き起こる。
その中で、何にも動じず私を見つめる神官さまは胡散臭い笑顔をその顔に張り付けたままのたまう。
誰もあなたたちを待っていませんでしたけど。悲しいわたしの叫びは三度感じる手の甲への口付けによって言葉として紡がれることはなく。
魔法使いの女性がつぶやく声が意味は聞き取れなくとも今度ははっきりと聞こえた。そして再度杖で地面を打つと目の前がきらきらと光って、その場に座っているはずの馬車が心もとなく消えていく感覚がした。