02
「魔王ですか……」
神殿の中で祈りの最中、降りた神託に眉を潜めた。
「面倒ですねぇ」
魔王復活! なんて神託は私の代はご遠慮願いたいのですが、と小さくため息をついた。さて、どうしたものか、と思案する。教会の厳かなる空気の中、ゆっくりと思考を巡らせ、ようやく答えにたどり着く。思考の海から顔を上げると背後の神殿の入り口に馴染みの気配がする。キラキラときらめく精霊たちが何も言わないところ思うと、それはどうやらあたりらしい。
「マルイ」
「テオ、ちょうど良かった。お願いがあります」
かけられた声に笑みが零れる。立ち上がって振り返る。出来るだけ、本心から笑って見えるように、手を広げてテオトバルドに近付く。すると、テオトバルドは片眉を器用にあげて、不快を露わにする。それをわかっていながら、何も気付いていないようにテオバルドとの距離を縮めた。
「神託を、陛下に伝えてくれませんか? 来たる花見月の三日に勇者現る。というのはどうでしょう? とってもいい考えに思いません?」
あぁ、でもやっぱり魔王復活の神託も出さないと、突然勇者だけ現れてもですよねぇ。
何の話だ、とその目が問い詰めてきているのは分かっているが、あえて答えず、1人で話を進めていく。
「やっぱり、18年前からお待ちしておりましたというべきでしょうか」
その一言を告げれば、テオトバルトは全てを理解したよう。深い深い息を吐いて、肩を竦めた。好きにすればいい、とその目が語る。
「側に居れるというだけでも腹立たしいのに、婚約者とは! 本当腹立たしいんです。」
「自分がしたんだろ」
「そうですけどね! それにこの国に骨を埋めるつもりも搾取され続けるつもりもありませんし」
愛の女神があの男に笑いかけたから、使えると思っただけ。なのにあの男は
「もともと私のものですから、そろそろ返して頂こうかと思います。いいように楽しんでるんだから、彼女に固執する必要はないと思いません? 彼女も彼女です! もっと……、ちょっと、テオ、テオトバルト聞いてます?」
付き合ってられんとばかりに背を向けて去っていくテオトバルトを追いかける。肩を並べたところで1番重要なことを告げる。
「それと、ちょっと数時間出掛けますので、不在の間、よろしくお願いしますね」
「おい! まっ!」
言い終えると同時に指を鳴らす。テオトバルトがこちらに向かって手を伸ばすのが見えたけれど、神官服を掴まれる前に飛んだ。