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未来の伝説  作者: 雲雀 あお
勇者と魔王と・・・
8/23

その2

 体中がとても痛いです。

 思わず敬語が出てしまうぐらい痛めつけられた。


よわ過ぎて話にならんな」


 壇上から男の声がする。何で、こんなことになったのか。俺の身に起こったことは単純明快たんじゅんめいかいだ。いきなり魔法で攻撃されたのだ。しかも連続で。反撃どころか、『シュトラウス』を抜く暇もなかった。そして、あっという間に意識は彼方かなたに飛んで行ってしまった。気を失っていたのは、そんなに長くはなかったようだが、おかげでダメージは少しも回復していない。

 動かない体で、男の苛立いらだった声を聞く。


「加減してもなお、避けることすら出来ないとは・・・。貴様、鍛錬たんれんは充分におこなったのか?それに、仲間を一人も連れてこないとは・・。「その胆力たんりょくは良し」というものだがな、勝つためには手段を選んでいる場合ではなかろう。おかげでこちらは随分と退屈だったぞ」


 なんだろう・・・。何で俺は、ぼこぼこにされたに説教されているんだろう?

 頭が痛い。攻撃を受けたから、だけではないだろう。どうしたらこんな、わけのわからない状況になるんだ。そろそろ限界だ。体的にも、頭的にも。


「うん?また気絶したのか?軟弱なんじゃくこの上ないな。・・・仕方ない」


 盛大な溜息が聞こえた。

 ふわっ、と体が軽くなる感覚がした。次いで労わるかのような優しいぬくもりが体を包み込む。心地良い風が頬をでる。体が動かないのをいいことに、ゆったりとその感覚にひたる。しばらくそうしていると、やんわりと包み込んでいた空気が薄まってきた。やがて完全に消え、俺は目を開けた。気がつくと、体の痛みが全く感じられなくなっていた。


「痛く、ない・・?」


 寝転がっていた体を起こす。あちこち触って確かめてみるが、どこにも痛みはない。不思議に思っていると、羊が目の前に飛んできた。


「貴様の傷を治したのは、魔王陛下である。感謝の言葉をべるのじゃ!」

「・・・・・」


 ああ、俺は本当に何と聞き間違えているんだろう。しかし、訊き返すのは躊躇ためらわれる。というか、普通に恥ずかしい。状況が許さなかったとはいえ、最初に聞き直すべきだったな。反省反省。


「何故黙ったままなのじゃ。魔王陛下に失礼であるぞ!」


 まだ良く聞こえないな。

 ・・・・・・・とか、現実逃避している場合じゃないか。ああ、本当に、何でこんな早くに、最終目標と出会ってしまったんだろうか・・・?

 ふと、シュナイゼルの愉しげな顔が頭をよぎる。考えまいとしていたが、ほぼ間違いなく、絶対、あいつのせいだ。でなければ、運命のいたずらだ。

 今となってはどうでもいいことを考えながら、立ち上がる。改めて、魔王と向き合う。

 魔王は、最初に見たときと同じように、椅子に座ってこちらを見下ろしていた。先ほどと違うのは、その足元に、聖剣『シュトラウス』が無造作むぞうさに置かれているところだろう。

 さて、どうするか・・。と考えるが、唯一の武器を取り上げられては、どうしようもない。とは言っても、完膚なきまでに叩きのめされた後で、もう一度戦う、なんて選択肢せんたくしは浮かびもしないが。かといって、このまま殺される、という展開にはしたくない。なんとかしなくては・・!

 せめてもの抵抗、ではないが、眼前の魔王を睨みつける。冷たい双眸そうぼうが、俺を見据みすえる。


「・・・何だ、その眼は。負けを認めないつもりか?それとも、言い訳でもするのか?」


 小馬鹿にしたように鼻を鳴らすさまは、「魔王」のイメージ通りだった。

 ここでひるんではいけない。腹に力を込めて息を吸い込む。


「違う」

「ほう・・?では、何だ?」

「・・・話を、聞いてほしい」

「話?」


 そこで魔王は、考えるように口を閉ざした。冷めた視線は、俺の考えを読み取ろうとしているのか、少しも逸らされない。と、魔王が微かに笑った。「面白い」。そんな声が聞こえてきそうな笑みだ。


「その話とやら、聞いてやろう」


***********


 またしてもというか、何というか。記憶を失ってからの俺が出会うのは、何でこう人の不幸を愉しんじゃう手合てあいばかりなんだ。


 あの時俺が話したのは、特に意外性もない、俺の現状だった。つまり、俺の記憶がないって話だ。その結果、俺は魔王の城に滞在たいざいすることになった。


「何でなんだ・・・」


 あれは、時間稼ぎを考えての発言だったのだ。そう、俺としては、あの場をどうにかできればよかったのだ。そういう点から考えれば、成功したのだろうが・・・。

 それにしれも、戦いを楽しみたい魔王に対して、「記憶を取り戻してから戦ったほうが楽しめるよ!」と言ったつもりが、何故こうなった。魔王は受け取り方すら予想外なものなのか?

 どう聞き取ったのか、俺の話を聞いた魔王は、こう言ったのだ。


『面倒くさいな。今から、強くなるために鍛えたほうがよっぽど有意義だ』


 思い出す度に、「どうしてなんだ」と思わずにはいられない。しかもその後、


『それに、ちょうど暇を持て余していたところだ。並みの戦士では、手も足も出ないほど強くしてやろう』


 とか言った。嬉々としてそう言った魔王は、何て言うか、悪意の塊のように見えた。俺に嫌がらせをしているようにしか見えない。

 それからは、必死で抗議する俺を無視して話は進み、今に至る。いつの間にか城に滞在することになったし、魔王直々じきじきに戦闘訓練を受けることになっていた。


「どこで間違えたんだろうか・・?」


 可愛い羊に案内された俺の自室、ということになった一室で、俺は何度目かの溜息を吐いた。

 何度思い出しても、現状を打破だはする方法がわからない。溜息ばかりが出てくるだけだ。そして、最後には必ず、あの魔王の嬉しそうな顔を思い出す。あれはどう考えても、俺をどのようにして痛めつけるか考えている顔だ。明日からの訓練とやらで、生き残れる自信がない。


「・・・・はあ・・。寝るか」


 うん、明日のことは明日考えよう。とりあえず今日は、これ以上何もないと良いな。そんな願いを胸に、やたらと豪奢ごうしゃなベッドに身を横たえる。目を閉じると、すぐに眠りが訪れた。



 

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