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未来の伝説  作者: 雲雀 あお
マイナスからのスタート
4/23

その3

 ここはリーガルという街にある宿屋やどやけん食堂だ。あの森から一番近かった街である。俺とシュナイゼル(森で出会った美青年びせいねんのこと。名前を訊いたらそう答えた)は、食堂のすみで顔を突き合わせていた。


「ではまず、君の記憶を取り戻すことにしよう」


 俺が記憶を失っていることを話した後のシュナイゼルの言葉だ。あっさり信じたし、仲間になることをひるがえしたりしなかった。本当に変わっている。大丈夫なのか、と俺のほうが心配になってしまう。


「さしあたって、一番に思い出してほしいのは、名前、かな。なんて呼んだらいいのかわからなくて困るからね」


 いや最初がそこかよ!とツッコミかかって止めた。なんだか無駄な気がする。それに俺自身、自分の名前を早く思い出したいと思ったから。


「でも思い出そうと思って、思い出せるわけじゃないし・・・。どうしたらいいのか、全然わからないんだけど」


 思考がづまって、もはや勇者っぽくしゃべることも止めてしまった。

 早く思い出して安心したい。それが俺の切実な願いだ。いや、それよりも先に風呂に入りたい。まだ泥だらけのきたならしい姿のままだし。

だがシュナイゼルは、そんな俺の願いなど知らない。よって適当な答えしか返ってこなかった。それは例えば、「頭を打ったら思い出すんじゃないかな?」とか「記憶を失った場所に行ってみるとか?」などなど、である。

 本気で言っているのだろうか?だとしたら彼は、記憶探しなど本当はどうでもいいと思っているに違いない。


「まあ、記憶を思い出すまでは「勇者様」って呼ぶよ」


 にこにこと笑ってそんなことを言う。それはそれで恥ずかしい。間違ってはいないが真面目にそう呼ばれるには抵抗がある。

 止めて欲しい。そう言おうと彼を見るも、とっても愉しそうな笑顔を浮かべているだけだ。なんとなく名前を思い出した後も彼は「勇者様」と呼び続けそうな気がしてきた。妄想ではない、恥ずかしい未来を回避かいひするため、頑張らなければならない。

 そんな決意をひそかに固めた俺の姿を見て、シュナイゼルは口を開いた。


「ま、とりあえず君はお風呂にでも入ってきたら?勇者様がそんな汚い恰好かっこうをしているのはどうかと思うよ」

「あ、ああ・・。じゃあ今日はこれで解散しようか」


 宿は同じだが取った部屋は別々。なんだか信用されていないような、逆に一応の警戒心けいかいしんはあってほっとしたような、微妙な気分になった。





 翌朝。俺の名前がわかった。




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