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未来の伝説  作者: 雲雀 あお
マイナスからのスタート
3/23

その2

 濃紺のうこんの髪。

 あおい瞳。

 全身を隠す黒いローブ。

 表情を見る限り悪い人ではなさそうだけど、何故だろう。あまり関わり合いになりたくない雰囲気をかもし出している気がする。

 俺とは知り合いではないようだし、善意ぜんいで声を掛けてくれたんだろうけど、正直声をかけないでほしかった。なんだかそう思わせる人だった。


 ・・・俺って実は人間不信にんげんふしんだったのか?記憶をなくす前の自分がわからない。それって結構不安なことだったんだな。初めて知ったよ。

 いや、初めてではないかもしれない。ひょっとして記憶を失うのは日常茶飯事にちじょうさはんじとか。そんな日常は嫌だがそうだったら面白いだろうな・・。「毎日が新鮮!」みたいな。


「て、そんなわけないし・・・」


 げんに今記憶喪失になっていて楽しいことは一つもない。


「どうかしたのかい?」


 青年が覗き込んできた。心の内まで見通されそうでつい顔をらしてしまった。失礼かな、とは思ったがとっさの行動は制御不能せいぎょふのうだ。


「いや、何でもない・・です」

「ふうん・・・。そんなに警戒しなくても大丈夫だよ。勇者を襲うなんてリスクの高いことはしないから」

「・・・・?」


 彼の言葉が引っかかった。今、変な単語を聞いたような・・・?何か、聞き逃してはいけないことを言ったような気がするが・・。

しかし綺麗きれいな顔で笑う人だな。思わず見惚みとれてしまって何がおかしいのかわからなくなってしまったぞ。


「何か気になることでも?」

「えっと・・」


 何が気になったんだ?ちょっと前の彼のセリフを思い出す。


『ふうん・・・。そんなに警戒しなくても大丈夫だよ』


 これじゃない。もっと後だ。


『何か気になることでも?』


 そう、気になることはあるんだ。これより前。


『勇者を襲うなんてリスクの高いことはしないから』


 ・・・・・。


『勇者を襲うなんてリスクの高いことはしないから』


 ・・・・・・。えっと・・・?


勇者・・を襲うなんてリスクの高いことはしないから』


 ・・・・・これだ!

 勇者?俺が?そんなバカな・・。何かの間違いだ!

 混乱が頭を支配する。ええいっ、考えてもわからないなら訊いてやれ!


「あの、つかぬことをお訊きしたいのですが」

「うん?何ですか、勇者様」


 面白がっている口調が不愉快だ。でも、今はもっと大事なことを確認するべきだ!・・というか今また勇者って言わなかったか?


「それ、何?『勇者』ってどういうこと?!」

「どういうこととは?君は勇者だ。その腰の聖剣『シュトラウス』が何よりの証拠。それ以外に、何の説明が要るのかな?」


 さっきとは打って変わって真剣な表情を見せる。その視線が差す腰の剣を見やる。高そうだとは思ったが、まさか聖剣とは・・・。

 いや、これが聖剣とは限らないんじゃないか?聖剣に似せて作った贋作がんさくである可能性もある。聖剣なんて皆真似したがるだろうし、騎士志願者(仮)の俺がげんを担いで聖剣モドキを手にしていても不思議じゃない。ああ、きっとそうだ!


「隠したって無駄さ。その聖剣『シュトラウス』は刀身が淡く光っているはずだ。自分が勇者じゃない、なんてあくまでしらを切りたいなら今ここでその剣を抜いて見せてよ」


 光る剣?確かにそれは特別な感じがする。それに、おいそれと真似できない神聖さも漂うのだろう。ならば確かに抜けばわかるというものか。どの道、俺なんかが持っているような剣が聖剣だなんて有り得ないだろう。

 ベルトから剣を外す。右手で柄を握って、ひとつ大きく息を吸う。胸がドキドキする。

 一瞬だけ息を止め、次に吐き出しながら一気に引き抜く。途端とたん緩い(ゆるい)光が目に入った。優しい光をまとった刀身に目を奪われる。

 綺麗だ。素直にそう感じる剣だった。これが聖剣以外の何だっていうんだ。どこから見ても聖剣にしか見えない。


「ほら、それは聖剣だろう?ということは、君は勇者であると主張しているようなものだ」


 そんな青年の言葉が、時間をおいてゆっくりと浸透する。

 ・・・・・俺が勇者?本当に?もしそうなら、勇者を信じる人にとても顔向けできない。世界を救う存在が記憶喪失なんて情けない。むしろ俺が助けて欲しいこの状況。

 どうして俺が勇者なんだよ。おかしいだろ、いろいろと。・・・しかし勇者は聖剣を持つ者の宿命。今からでも遅くない。勇者らしくするんだ・・!

 意気込み一つ、青年に視線を戻す。


「で?勇者が何故こんなところに居るんだい?」

「残念ながらその質問には答えられないんだよ」


 なるべく勇者っぽく威厳いげんに満ちた口調で話してみた。青年が美しく笑った。でもどこかたのしんでいるような様子だった。何かおかしな所でもあっただろうか?いきなり口調を変えたのがダメだったのか?


「魔王を倒すのが目的の勇者様に「何故」、なんて訊くほうが間違っていたね」


 俺は動揺を露とも知らず彼は勝手に納得してしまった。まだ愉しそうに笑っているし、元々こういう人なのだろう。


「勇者様はお仲間を連れたりはしないのかな?」

「仲間?いや、そういうわけじゃない、と思う」

「と思う?」

「あっ、いや、別に仲間を連れてもいいかなぁっていう意味だ!」


 危ない危ない。勇者っぽく言わなくては・・・。


「へぇ、じゃあ今仲間はいないってこと?」

「えっと、今はいない・・・多分」


 記憶がないからどうしても断言できないが。もしかしたら、今は別行動をしているだけで本当はいるのかも、と思うとやっぱり「多分」がついてしまう。これ以上突っ込まれるようだったらもう本当のことを言ってしまおう。


「じゃあ僕が立候補して良いですか?」

「えっ?!」


 予想外の言葉に驚いた。こんな得体の知れない勇者(勇者なんだから正体はわかっているのだが)に誰がついて来るって?

 思わず目の前の美しい顔をまじまじと見つめてしまった。


「認めてもらえたら嬉しいな」

「・・・・」


 魔王に挑むのだ、仲間はいるに決まっている。だけどまだ勇者としての心構えもできていない、どころか、記憶すらない自分についてくることが果たして良いことなのか・・。

 俺は悩んだ末に結論を出した。




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