表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
未来の伝説  作者: 雲雀 あお
「世界を救う」ということ
21/23

その5

 「君の記憶をうばったのは、僕だよ」


 その言葉が脳に浸透しんとうするまで、数秒かかった。突然何を言い出したんだ、こいつは。頭でも打ったのか?


「言いたかったことは、それだけだから。じゃあね」


 今度こそ、るつもりなのだろう。シュナイゼルの服が、穴から見えなくなる。


「ちょっと、待てよ!どういうことだよ?!」

「うーん・・・、説明してる時間は、ないんだよね。・・・・・そうだ!」


 たのしくてしょうがない、という声に警戒心けいかいしんあおられる。絶対に、ろくでもないことを考えたに違いない。しかし、俺が止める間もなくシュナイゼルは続けた。


「君が無事に出てこれたら、君の記憶を返してあげるよ」

「おい!だから、どういうことだよ!俺の記憶を、返すって・・」

「そのままの意味だよ。・・ああ、もう本当に時間がないね。じゃあ僕はもう行くね」

「ちょっ、おい!!」


 穴に向かって怒鳴どなっても、返事は返ってこなかった。どうやら本当に去ったらしい。

 どういうことなのか、よくわからない。いや、わかっているけど、信じられない。人の記憶を奪う、なんて可能なのか?うそであることも考えられるが、今そんな嘘を言う必要はないし・・・。


『・・・爆発まで、あと1分です。爆発まで、あと1分です・・』

「!!?」


 大きな警告音が鳴ったと思ったら、感情のない声が聞こえた。


「爆発って・・。ああっ、もう、わからないことだらけだな!!」


 連続して警告音が鳴り、止まる気配がない。

 爆発って、本当にするのか!?だから、あわただしかったのか!?というか、シュナイゼルが言っていたのは、本当のことだったのか!!?

 混乱する頭をって、悪い考えを払う。とにかく、今はこの部屋を出ることが先決、だよな。

 一度、ベリアスの様子をうかがって、壁に向き直る。穴はいたんだ。あとは、この穴を広げていけば良いだけだ。


『爆発まで、あと30秒です』

「って、30秒で壊すとか、無理だろ!!」


 言いながらも、剣を振り上げる。それ以外に俺ができることは、何もなかった。

 今までよりも、何倍も速く打つが穴は少ししか広がらない。警告音が、あせりを加速させる。


『爆発まで、あと20秒です』


 あと20秒。必死で剣を打ち下ろす。

 穴は、まだまだ小さい。


『爆発まで、あと10秒です。9・・・8・・・7・・・』

「・・っ!くそっ、・・・このぉおおお!!」


 秒数が減っていく中、掲げた聖剣に全身の力を集中させ、打ち下ろす。それでも、穴は全然大きくならない。

 焦り過ぎて、もう、何も考えられない。


『・・・4・・・3・・・』

「っあああああ!!!」


 頭の中が真っ白になった。そして、俺の手に確かな手応てごたえが伝わる。

 と同時に、『シュトラウス』がれた。


 目の前の壁が、崩れる。

 俺は、なかで折れた聖剣を握ったまま、一瞬呆然ぼうぜんとしてしまった。が、すぐに我に返る。


「・・っベリアス!!」

『2・・・1・・・0』


 閃光せんこうまたたいた気がした。



***********



 畑の続く田舎道いなかみちを、一台の馬車が走っている。それは、とある農村に向かう馬車で、乗客は、大きな荷物を持つ少女と、黒色のローブを身に付けた青年の2人だけだった。

 半袖はんそでのワンピースに、動きやすい七分丈しちぶたけのパンツをいた少女、エリトリカと、いつもと変わらない、何を考えているのかわからない笑みを浮かべた、シュナイゼルだ。

 れる馬車に乗って、エリトリカは先ほど出発した街で買った新聞に、目を落とした。その新聞の見出し部分を見る。



 『商業国の首都『コミューズ』に大地震。


 ×月×日、首都『コミューズ』を、大きな地震がおそった。その衝撃しょうげきで、街の地下にあった下水道や地下道が一部崩壊ほうかいし、地盤沈下じばんちんか家屋かおく倒壊とうかいが起こり、重軽傷者が多数でた。しかし、幸運なことに死者はでなかった。


 この空前の出来事に対し、商業国総取締役そうとりしまりやくであるオーガナイト・フィゼル・アスフィート氏は、「このような事態になり、国民の皆様は恐怖を感じたことと思います。しかし、死者無し、という報告を受けて安心いたしました。我々は、神に愛されている。そう思いました。」


 と語り、「しばらくは、街の復興ふっこうで様々な面での苦労が、我々を襲うでしょうが、恐れることはありません。我々議会を始め、行政各機関が総力を挙げてこの事態にあたりますので・・・」』



 そこまで読んで、溜息ためいきいて新聞をたたむ。そして、顔を上げて、窓の外に広がる畑をながめた。


 地下での出来事は全てされ、表向きには「大地震が襲った」ということにされた。その記事は、事件から1カ月経っても紙面しめんにぎわしていた。

 しかし、当事者たちにとっては只事ただごとではなかった。エリトリカと父オーガナイトとの間も、ぎくしゃくしたままだった。


まったく、父様は反省しているのかしら・・」


 小さく呟いて、再び大きく息を吐き出した。何もすることがなく、ただ窓の外を眺めるだけの時間が続く。

 時折溜息を吐いては、畳んだ新聞をちらりと見る。そんな仕草しぐさを何度も繰り返す。


「・・・ベリアス・・・、・・・・あ、あと、アリト・・」


 呟いて、また溜息を吐く。が、今度はすぐに、何かを振り払うように頭を振った。


「駄目よ。いつまでも、こんな落ち込んでちゃ・・!笑顔笑顔」

「そうだよ、お嬢様。落ち込んだって、起こったことは変わらないからね」


 一人ではげまし、笑顔の練習をするエリトリカに、シュナイゼルはたのしそうに声をかける。そんなシュナイゼルを、エリトリカはにらみつけた。


「何を言っているの?大体、全部貴方が悪いんでしょ」

「そうだっけ?」

「そうよ!私に自爆スイッチを押すように言ったじゃない!」

「違うよ、僕は指差しただけ。押したのは、君の一存いちぞんだよ」

「・・・・」

「そんな怖い顔しないでよ。僕だって、多少は悪いかなって思ってるんだよ?だから、こうやって道案内を買って出たんだ」

「・・ふんっ・・」


 笑うシュナイゼルから大げさに顔をそむけて、外の景色を見る。先ほどから変わらない、畑の群れを見るともなしに眺める。

 しばらく沈黙が流れ、馬車が走る音だけがした。


「・・・貴方、本当に知ってるの?」

「もちろん」

「どうして?」

「だって、」


 不自然に言葉を切ったシュナイゼルに、目を戻す。エリトリカは、さわやかな、けれど、とても胡散臭うさんくさい笑顔を浮かべたシュナイゼルに、冷たい視線を寄こす。


「だって・・何?」

「だって、面白いから」


 心の底から愉しんでいるシュナイゼルは、明らかにエリトリカの反応を待っていた。それに対して、エリトリカは何の反応も返さず、外を見て小さく溜息をらす。


「早く、着かないかしら・・」


 窓の外の景色は、ゆっくりと過ぎていた。





評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ