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未来の伝説  作者: 雲雀 あお
「世界を救う」ということ
17/23

その1

 朝。それは、とてもすがすが々しかった。・・・これからすることを考えなければ、だが。

 となりでは、不機嫌ふきげんそうなベリアスが身なりを整えている。その周りをバラシオンがいそがしく飛び回っている。ブラシで彼の服に付いたほこりを取っているのだ。しかし、ベリアスはそれを邪険じゃけんに追い払った。

 同じ部屋に居るのに会話をしないのもどうかと思うので、昨日から思っていたことを口に出してみた。


「な、良いのかよ?」

「何がだ」

「・・・シュナイゼルの言う通りにして、大丈夫なのか?ものすごーく、不安なんだが」

「さあな。俺は、あいつとは昨日初めて会った。どういう男なのか、判断する材料がない」


 淡々と答えて、口を閉じる。無駄むだしゃべらない分、腹の中で何を考えているのか分からない。バラシオンもベリアスから離れ、部屋のすみに待機していて、話しかけずらい。

 誰も何も言わない。

 広くもない部屋に3人(正確には2人と1匹だ)が、いるのに静かすぎる。朝の良い空気が台無しだ。これは、居心地が悪い。さっさと退散たいさんしよう。


「俺、ちょっとエリィの様子を見てくるよ」

「うん?エリィ?」


 ん?何だこの反応。不機嫌だった表情が、不可解なものに変わった。こっちがよほど不可解だぞ。すると、部屋の隅からバラシオンが飛んできて、ベリアスに耳打ちした。


「ああ・・!居たな、そんな奴も」

「忘れてたのか!?」


 昨日あれだけ話してたくせに、よく忘れられるな。いや、きっとちょっと寝惚ねぼけてただけだろう。うん、そう思っておこう。


「すっかり忘れていた。もう用済ようずみだったからな」

「・・・・お前・・・」


 いや、何も言わないでおこう。言っても無駄だし、理解されることもないだろうからな。


「そう、そのエリィだよ。昨日別れてからは、食事を届けたぐらいでまともに会ってなかったから。そろそろ帰してあげないと、可哀想かわいそうだろ?」

「ふむ、可哀想だという考えは理解できないが、・・・用済みなものをいつまでも連れていても、仕方ないからな。しかし、今行っても無駄だぞ」

「・・何でだよ?」


 用済み用済みと連呼れんこされると、さすがに怒ってしまいそうになる。確かに侵入ルートは別に確保かくほできたから、エリィを引きとめる必要はなくなったけど、言い過ぎだと思う。エリィは、今の状況を何一つ望んでいたわけでもないのに・・。まあ、こいつがこう言うのは予想できてたけどな。


「まだ寝ているからだ」

「そんなの、起こせばいいだろ?」

「魔法で眠っているものを起こすのは、容易よういではないぞ」


 魔法だって?何だってそんなもんが・・。そもそも誰だよ、そんな魔法をかけたのは。

 疑問が顔に出ていたのか、ベリアスが言う。


「あの腹の立つ魔法使いだ。この部屋に入ってくる前にかけていた」

「シュナイゼルが?てか、知ってたならめろよ」

「何故だ?話している最中さいちゅうに入って来られても、困るだろう?」

「それは・・そうだけど。・・・あれ?ちょっと待て、でもあの後、俺が夕食を持って行った時は起きてたぞ?」


 そうだ。確かに起きていた。話し終わって夕食を持っていったら、「遅いわ!!」って思いっきり怒られたのだ。その後も、「パンが固い」だの「スープが生ぬるい」だの、散々文句さんざんもんくを言われた。寝惚けている様子もなかったし・・・一体どういうことだ?


「あいつが帰るときにいて行った」

「??じゃあ、今は普通に寝てるだけなんじゃ・・?」

「その後、なかなか寝なくてうるさかったから、俺が眠らせた」

「結局お前がやったんじゃないか!!」

「最初に眠らせたのは、あいつだ」


 俺が聞きたかったのは、今エリィが寝てる原因だ。やっぱりこいつ寝惚けてるんじゃないか?わざとだったら、それはそれで腹が立つが。


「はぁ・・、じゃあ、さっさと起こしてくれよ。朝食も食べなきゃいけないし、すぐ行くんだろ?」

「わざわざ起こさなくても、もうすぐ起きる。それと・・、すぐには出かけない」

「何でだ?」


 正直、さっさと行って、さっさと終わらせてほしい。振り回されるのも、いい加減疲れた。ゆっくり休みたい。

 だが、ベリアスは俺の問いに答えず、バラシオンに目を向けた。


「バラシオン」

「はっ」

「わかっているな」

「はい、このバラシオン、必ずや陛下の御力おちからになってみせます」


 バラシオンは空中で平伏へいふくという、うやまっているんだかいないんだかわからないポーズをして、窓から飛び立った。まだ朝早いとはいえ、誰が見てるか分からないのに、どうどう々と空を飛んでいく。


「良いのか?あれ」

「放っておけ」


 良いらしい。・・・まあ、良いか。見られたとしても、どうしようもないだろうし。うん、良いことにしよう。


「さて、用済みを追い出さなければな」

「言ってもしょうがないかもしれないかもしれないが、一応言うぞ。・・お前は、もう少し人の気持ちってもんを学べ」

「そんなものを学んだところで、意味などない」


 分かってたけどな。どうせ理解されないって。でも、少しずつでも言っていけばいつか、理解されるかもしれない。かもしれない、だけどな。


「どうした?行くぞ」

「・・ああ・・・」


 ベリアスを先頭に、隣の部屋へ行く。ベリアスはノックもしないで入っていく。一応しろよ、ノックぐらい。着替え中だったら、どうする気なんだ。・・・・こいつだったら何もしなさそうだな。気にもめない可能性だいだ。

 とりあえず、俺だけでも声をかけてから入るべきだろう。


「お、お邪魔じゃましまーす」


 と、言って入るが、エリィはまだ夢の中だった。枕元まくらもとに立った黒衣こくいのベリアスが、死神みたいに見える。明るい朝につかわしくない光景だ。

 そんなことを考えつつ、ベリアスの横に立つ。エリィの可愛かわいい寝顔がのぞいている。


「うん・・・」


 エリィが小さくうめいた。そろそろ起きそうだ。起きてそうそう々こんな死神みたいな男見せるのは、心臓に悪いだろう。ちょっとどかすか。


「おい、もう少し下がれ・・」

「さっさと起きろ」


 俺が言うのと同時に、ベリアスが寝ているエリィの頭を無造作むぞうさたたいた。良い音がした。じゃなくって!


「何やってんだよ!?」

「起こしている」

「いやいやいやっ!起してるって言わないから、それ!どう見ても虐待ぎゃくたいしているようにしか見えないから!」

「邪魔をするな」

「邪魔じゃねぇよ!当然のことだから!!」


 再び振り上げられた腕をつかんで、怒鳴どなる。非常識とかってレベルじゃないぞ。本当に何を考えているんだ、こいつは。


「う、・・痛い・・・、ん・・?」


 頭を押さえてエリィが起きた。枕元であらそう俺たちを見て、驚いたように目を見開く。いで、慌てたように距離を取った。


「な、な、・・何で、此処ここに・・。な、何をしちぇいるのっ!?」


 錯乱さくらんして、舌をんでいる。顔を真っ赤にして、俺たちをにらむエリィ。どうしたものか。俺たちの・・、違った、俺の無実を証明しなくては。


「いつまで寝ている。もう朝だ」


 よし、こいつは、弁明べんめいとかそういうことはしないと思っていた。後は、俺が何もしていないということを証言するだけで良い。


「あ、そ、そんなこと分かっているわ・・!そうではなくて・・」

「そうじゃない?じゃあ、何がそんなに気に食わないのだ」

「そ、それは・・・。・・見たの?」

「何を」

「・・・・・・寝顔」


 顔どころか耳まで真っ赤だ。恥ずかしいのだろう。答える声も震えている。ちょっと可愛いかも・・。


「見た。それがどうした」

「うう・・」

「え、えっと、その・・、気にしないで」


 恥ずかしさのあまりうずくまってしまったエリィに、声をかける。完全に気休めだが、言わないよりは良いだろう。


「・・頭が痛いのは?」

「叩いたからだな、」


 ばっと、エリィが顔を上げた。「ベリアスが」と続けようとしていた俺を睨んでいる。・・・ああ、なんとなく先の展開が読めたぞ。


「叩いた・・?」

「え、うん。こい・・」

「最低だわ!」

「いや、叩いたのは俺じゃなくて、」

「最低男!近寄らないで!」


 素早く立ち上がったエリィは、俺と距離を開けた。俺が一歩近づくと、更に距離を開けようと逃げる。およそ予想通りと言って良い展開だった。それでも俺は、あきらめずに説得することにした。


「なあ、話を聞いてくれ。誤解なんだよ」

「父様が言っていたわ。変態は「話を聞いてくれ」とか「誤解なんだ」とか言って、油断したところをおそうんだって。私はだまされないわ!」


 オーガナイトに初めて殺意がいた。しかもさっきまで「最低男」だったのに、いつの間にか「変態」にかく下げされている。

 何だ?近づいたのが駄目だめだったのか?それとも声のかけ方を間違えたのか?何にしても、早く誤解ごかいを解かないと俺は不名誉ふめいよ称号しょうごうを付けられてしまう。それはいやだ。例え、もう二度と会うことがないだろう人相手でも、それは嫌だ。


「分かった。近寄らないから、指一本触れないから、話を聞いてくれ。叩いたのは、こいつだ。俺じゃない」

うそね」


 即答そくとうだった。疑問すらなく、嘘だとだんじられてしまった。何だ、このベリアスに対する絶対の信頼は。おかしくないか?こいつの何処どこに、そんな信頼をられるところがあるって言うんだ。


「そんなことより、そろそろ出るぞ」

「え?出るって?」

「国会議事堂へ行くのね。私もすぐに準備するわ」


 いきなりな発言に戸惑とまどう俺を置いて、エリィがさっし良くうなづく。というか、全然誤解がけていないんだが・・?そんな俺の心中しんちゅうを察してくれる奴など、当然いない。勝手に話は進んでいく。


「いや、お前はもう用済みだ。何処へでも好きな所へ行け」

「えっ・・?」


 せめて、もう少しソフトな表現を心がけて欲しい。まさか本人に「用済み」という言葉を使うとは、思っていなかった俺も悪いのだが。


「用、済みって・・。どういうこと?」

「お前の存在価値がなくなったということだ。俺たちは別の方法で奴に会う」

「ベリアス!言葉に気をつけろよ!」


 顔が青ざめていくエリィがたたまれなくて、つい口をくちんでしまった。しかし、ベリアスは迷惑そうにまゆひそめるだけ、エリィにいたってはこっちを見てもいなかった。


「待って・・。待って!わ、私も一緒に行きたい。貴方たちは国会議事堂へ行くのでしょう?だったら、私も・・・」

「足手まといは一人で十分だ」


 足手まとい?ひょっとして、俺のことか?今のはさすがにへこみそうだ。

 俺が黙っている間も、エリィは必死で「一緒に連れて行って」と言いつのる。それに合わせてベリアスの不機嫌度合どあいが増していく。


五月蠅うるさい奴だな・・・」

「や、役立たずじゃなかったら、連れて行ってくれる・・?」

「・・・そうだな。役に立つなら、連れて行ってやっても良い」

「私、私、父様の秘密の部屋に入る方法を知ってるわ・・!」


 秘密の部屋?何だそれは。

 聞いたことのない話に首をひねる俺と違い、ベリアスは明らかに態度が変わった。口角こうかくが上がり、獲物えものとらえた狩人かりゅうどのような表情をしている。何だこの顔。今まで見たことがないくらい邪悪じゃあくそうだぞ。


「そうか。・・なら、連れて行ってやる」

「ほ、本当!?」

「ああ、俺はどこぞの魔法使いと違って、嘘はかない」


 嘘は吐かないし、本音は隠さないよな。しかし、何だか不安が一気に増したんだが・・・。エリィを連れて行って大丈夫なのか?それに、秘密の部屋って何なんだ?エリィは何でこんなに一緒に来たがっているのかも、分からない。どうも、ベリアスは見当けんとうがついているようだから、後で聞いてみよう。


「では、準備をして下に集合しろ」

「分かったわ」

「あ、ああ・・」


 俺の疑問は何一つ解決しないまま、部屋を移る。


「何か、言いたいことがある顔をしているな」

「ん、ああ・・。どっから訊けばいいのか、分からないくらいたくさんあるぞ」

手短てみじかに言え」

「えっと、じゃあ・・・、秘密の部屋って何だ?」

「隠されていて、他の人間には中身が分からない部屋だ」

「いや、そうでなくて・・・」

「次」


 こいつ本当に、俺の問いに答えるつもりがあるのか?しかし、長々と聞いている時間はないのも確かだ。仕方ない、次の疑問に移ろう。


「本当にエリィを連れていくのか?」

「そうだ。次」

「・・・何で、エリィはあんなに、一緒に行きたがっていたんだ?」

「俺が魔王だからだ。次」

「・・・・」


 俺の疑問は一つも氷解していないのは、気のせいか?手短って、手短過ぎて全然分からないし。わざとか?


「何で、お前が魔王だったら、エリィは付いて来ることになるんだよ?」

「あいつは、魔王に対して何らかの感情を抱いているからだ」

「はあ?何でそんなこと、わかるんだよ?」

「本だ」

「本?」


 一体何を言いたいのか、伝わらない。段々、イライラしてきた。

 俺が、我慢の限界に近いと思ったのか、ベリアスは一度俺を見てから溜息ためいきを吐いた。「やれやれ」とでも言いたそうな感じで。


「あいつと初めて会ったとき、変な格好をしていただろう?」

「ああ、あの、両手を挙げた、あれだろ?」

「そうだ。あれは、テーブルに広げられていた、本に描かれた魔王の姿と同じだった。それに、そのページにはひらぐせが付いていた。何度もあのページを開いて、見ていたのだろう」


 テーブルの上にそんなものがあったのか。全然気がつかなかった。まあ、それどころじゃなかったんだが。それにしても、あのポーズのことが、こんなところで分かるとは。

 いや、よく考えてみればベリアスのろんは少し強引ごういんじゃないか?あのときたまたま々(偶々あのポーズをするっていうのも変な話だけど)、そうしていただけっていうのもるんじゃないか?何を根拠に、エリィは魔王に思い入れがあるって考えに至ったんだ。


「でも、それだけで、魔王に思い入れがあるって言うのは、無理があるだろ」

「そうだな。だから、此処に着いた時に、俺が魔王であると明かしたのだ。普通の人間なら、笑い飛ばすか敬遠けいえんするかのどちらかだ。信じて、なお、共にろうとするのは、魔王に対して何らかの感情を持つ証拠だろう」


 それは、そうかもしれない。少なくとも、人間は魔王に対して良い感情を持っていない。思い返してみれば、エリィの言動げんどうは一般的とは言えないものだった。どちらかと言えば、好意的な言動だ。むしろ勇者である俺の方ばかり、悪役にしたがっていたようにさえ思う。


「理解したか?だったら、行くぞ」

「・・ああ」


 黒衣をひるがえして出ていく背中につられて、部屋を出る。

 って、結局、俺の疑問のほとんどに、答えが出てないぞ。しかし訊こうにも、ベリアスは既にエリィと合流してしまっていた。また、疑問を棚上げしなくてはいけなくなった。溜息がれる。


「遅いぞ。急げ」

「そうよ、待たせないでよ」

「はいはい、今行くって」


 呼ばれるまま宿の外へ出る。朝のやわらかな光が、妙に嬉しかった。一瞬、疑問も何もかもを放り出したくなるような、優しい日差しの中、先を歩く2人が目に入る。


「で、どうやって行くの?」


 エリィの疑問にベリアスが、意味深いみしんな笑みを返すのが見えた。急に気分が悪くなる。これから『あそこ』を歩かなきゃいけなくなるなんて・・・。気が重い。

 質問の答えを聞いたエリィの悲鳴が、俺にまで届いた。



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