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未来の伝説  作者: 雲雀 あお
企み
14/23

その3

 まゆがった青年、セイオンの案内で俺たちは、国会議事堂の広い廊下を進んでいた。

 ようやく、勇者と認められたのは良かった。目的であった、総取締役そうとりしまりやくとの会合かいごうも設定してもらえた。何もかも上手くいった。でも・・・納得いかない。


「何で、あんな暴力的な方法で、何とかなっちゃったんだろう・・・」

「いつまで終わったことを蒸し返している。鬱陶うっとうしい」


 全ての元凶である魔王は、相変わらず自分のせいであることを理解していない。むしろもう一生理解しないんじゃないか、と思ってしまう。しかも今回は見方を変えれば、ベリアスのおかげであったと言えなくもないのだ。そのため強く言えない、というのもある。


「でもなぁ・・・」


 確かにあの時、上司の人が聖剣を持ったことから、俺は勇者と認められた。正確には、持って、その後に起こった騒動そうどうによって、だが。でも、もっと良い解決方法が絶対にあったはずなのだ。今更な話ではあるが、やっぱり、後悔してしまう。



***********



 『シュトラウス』が俺の手から離れた。輝く剣を持った上司は、最初、呆然ぼうぜんとしていたが、やがて我に返った。


「何も起こらないし、何もおかしなところはないじゃないか。・・・全く、変なことに付き合わされっ・・!!」


 言っている途中で倒れた。あたかも、電撃に打たれたようだった。倒れた後も、断続的に痙攣けいれんを繰り返している。


「ど、どうしたんですか?!大丈夫ですか?!!」


 一気に場が騒然となった。慌ててしゃがみ込んで、彼の肩を揺するが、反応がない。不幸な彼は、白目をいて気絶していたのだ。

 目覚める気配のない彼の手には、まだ『シュトラウス』が握られている。無意識に手を伸ばすが、先に別の職員に取られてしまった。


「と、とにかく仰向あおむけにして、楽な姿勢にするんだ!後、医者!誰か、医務室へっ・・!?」


 その職員も、上司と同じように痙攣して、倒れた。彼が倒れたことで、さらに混乱が強くなる。

 ベリアスを見上げる。魔王である彼なら、治癒ちゆ魔法も簡単に使えるはずだ。しかし、魔王はこの混乱をたのしんでいるようだ。それを見て、俺は逆に冷静になった。ベリアスは、こうなることをわかっていた。ということは・・・原因は『シュトラウス』しかない。『シュトラウス』を取り戻さなければ、と目で探す。その時には、既に別の職員が、前の2人と同じ末路まつろを辿っていた。

 更なる被害を防ぐために、慌てて『シュトラウス』を手に取る。しかし予想に反して、彼らは動かなかった。全員が、俺を見ている。


「わかっただろう?持ち主を選ぶ剣。そんなものは聖剣以外に有り得ない」


 それはつまり、そんな剣を持てる俺が勇者である証拠だ。そう、ベリアスは言いたいのだろう。言葉にしなくても、この場に居る全員がわかった。でも、勇者を尊敬するとか、そんなプラスな感情で俺を見てくれている人はいない。したり顔で笑うベリアスよりも、どう考えても俺の方が、魔王を見る目で見られている。

 泣きたくなってきた。でなくても、申し訳ない気持ちがしているのだ。抜き身だった『シュトラウス』をしまうことで、職員の方々から目を逸らす。

 早くこの場を抜けたい。緊張感が、ゆるむことなく俺をおおっている。


「ふん、ようやく本来の目的が果たせるな」


 場に満ちた空気を無視して、一人、話を進める。口を挟める者は、誰もいなかった。



***********



 何度思い返しても、後悔しか湧いてこないなんて・・・。いっそ、なかったことにしたいぐらだ。だが、俺たちを案内するセイオンは、気弱そうな顔に明らかな畏怖いふの念を浮かべている。それが、俺に「忘れる」という選択肢を奪わせる。


「おい、アリト」

「何だよ・・?」


 落ち込む俺をなぐさめることもしない奴が、小声で話しかけてきた。


「今から言うことを、よく頭に入れておけ。いいか?まず、俺は部屋に入ったら、奴の死角に入る。お前は、俺が動きやすいように奴らの気を逸らせ。機会が来たら、俺が奴を殺す。・・・ああ、退路の確保は自分でしておけよ」


 これを本気で言っているところが怖い。ちょっとそこまで、みたいなノリで人を殺そうとしている。止めなければいけないけど、どうすればいいだろうか。とにかく、時間が欲しい。どうにかして時間をかせいで、その間に考えるか・・・。


「あ、あの・・ここです」


 時間を稼ぐ前に、着いてしまった。隣で、ベリアスがいやな感じの笑みを浮かべている。もう止められない。

 それでも、諦めきれずにドアノブを見つめる。これを開けないで済む方法は・・・考えつかない。すると、セイオンがそのドアノブをつかんで開けてしまった。


「あ・・・」

「あの、ど、どうぞ・・」


 恐縮きょうしゅくした様子で、扉を支えるセイオン。中に入るしかない状況に、肩を落とす。もう駄目だ。こうなったら、死を覚悟して捨て身で止めるしかない。どう転んでも良いことにはならない未来に胸を痛めつつ、中に入った。後ろで、扉が閉まった気配がした。

 振り返っても仕方ないので、部屋の中に目を向ける。落ち着いた様式ようしきで、きっと高いに違いないセンスの良い家具が置かれている中、白いカーテンがまぶしい窓際に、一人の男が立っている。


「こんにちは。貴方が勇者様、ですか?」

「あ、はい」


 茶色の髪にみどりの瞳。身に付けたスーツが良く似合う、ダンディ、というのか?そんな雰囲気の男だった。ただ立っているだけなのに、なんだか存在感がある。

 ど、どうすればいいんだろうか?挨拶なんて考えていなかった。ああ、どうしよう・・!今更緊張してきた!


「どうぞ、座ってください」

「は?!は、はい!」


 言われるがまま、一番近い椅子に座る。男が、低いテーブルを挟んで向かい側に座る。そこで気がついた。彼の後ろには、紺色のスーツを着た男たちが立っていた。よく見ると、部屋の出入り口にも居る。全員手を後ろに組み、まるで俺たちを監視しているかのようにじっと立っている。


「彼らは私のSPです。基本的には何もしないので、気にしないでください」


 俺が見ていたからか、男が微笑んで教えてくれた。しかし・・・「えすぴー」って何だ?聞いたことない。訊ける雰囲気でもない。後で、調べておこう。


「さて、まずは自己紹介しておきましょう。私は、この商業国の総取締役をしている、オーガナイト・フィゼル・アスフィートと申します。オーガナイトと呼んでください」

「はあ・・。あ、俺は・・・」

「貴方の自己紹介は不要ですよ。実際に顔を合わせたのは初めてですが、話には聞いていますから。・・・ああ、何か飲み物を御出ししなくては。紅茶でよろしいですか?」

「はぁ、はい。いいです」


 何を話したらいいのか、わからない。彼、オーガナイトはこういった接待せったいは慣れているようだが、俺はこんな扱い初めてで、戸惑ってしまう。今までは・・・玩具おもちゃ扱いか、ないがしろにされるか、といったところだったのに。

 記憶を失ってからのあれやこれやが、頭によみがえる。その間に、紅茶が運ばれてきた。良い匂いが湯気ゆげとともに立ち昇る。


「・・それで、私にどんな用事ですか?聞いた話では、何か困ったことがあったということですが?」

「あ、えっと・・・」


 そうだった。会うに当たって、何か口実こうじつが必要だ、ということで「相談したいことがある」って名目を作ったんだっけ。・・・ベリアスが。一応設定は、魔王と戦うための装備を整える、というのだったな。


「いきなりで悪いのですが、魔王と戦うために装備を整えたいと思いまして・・」

「ふむ・・確かに、彼の魔王を相手にするのですから、当然の話ですが・・。何故私に?武器は聖剣がありますし、防具も、その聖剣が創られた聖国家の方が、我が国よりも良い物がそろっていると思いますが」

「えっ?そ、そうなんですか?」

「ええ。・・御存ごぞんじなかったようですね。でしたら、こちらで護衛を付けますので、聖国家まで御送り致しましょうか?」


 紳士的、つ、魅力みりょく的な話だった。忘れていたが、俺は元々記憶を取り戻すために聖国家へ行く予定だったのだ。頷きたい誘惑ゆうわくに駆られたが、そうはならなかった。俺が口を開く前に、ベリアスが仕掛けたのだ。

 目をつぶす程眩しい閃光が、またたいた。遅れて響いた轟音ごうおんで、我に返る。ちょうどオーガナイトが座っていた所が、砂煙すなけむりに埋まっている。

 全く反応できなかった。捨て身で止めるとか・・・無理というか無謀むぼうだったことを知った。


「ちっ!外したか!」


 言うや否や、何処からか出した大剣だいけんを握ったベリアスが、俺を飛び越えてテーブルに着地する。そして、いまだ砂煙に覆われている正面に向かって、大剣を振り下ろした。


「っ?!!」


 そのベリアスの一撃が、弾き返された。それもすごい威力で。ベリアスは、弾き飛ばされて、再び俺の上を飛び越えた。

 驚き過ぎて腰を浮かしたまま固まっていた俺の目の前から、砂煙が収まっていく。やがて、先ほどと変わらない姿で座る、オーガナイトが現れた。


「これは、どういうことですか?」

「・・・え・・」

「私が開発した対魔族用のシールドが発動した。と、いうことは、彼は魔族だということです。そして、彼は貴方と共に来ました。これは、一体どういうことを指示しているのか・・・」

「えっと、あの、」

「ああ、今は、説明は結構です。そんなことより、彼を拘束こうそくしなくては」


 立ち上がったオーガナイトの、視線の先を見る。ベリアスが、不機嫌そうな顔で立っていた。構えてはいないが、大剣はまだ握ったままだ。そしてその目は、オーガナイトを捉えている。漲る殺気が見えるようだ。しかし、その対象になっているオーガナイトは、薄く笑っている。


「ちょうど良かった。対魔族用とは言っても、実験できる素材がなかったので伸び悩んでいたのだが・・、良い材料が手に入りそうだ。・・・彼を連れてきてもらえたのですから、貴方には最上級の装備を御渡おわたししなくてはね」


 ・・・何を言っているのだ、こいつは?今、何と言ったんだ?実験?何をするつもりだ・・。


「ふっ・・、そうだな。ちょうど良い」


 混乱する俺を置いて、ベリアスが口を開いた。不機嫌な顔から、不敵な笑みに変わっている。だが、これは怒っているに違いない。冷たい炎のひとみが、オーガナイトをにらんでいる。


「すぐに、実験など出来ないようにしてやろう」

「さあ?そんなこと出来るか、見てあげましょう」


 身構えるベリアスに、余裕な態度を崩さないオーガナイト。一触即発いっしょくそくはつの空気に、肌がピリピリする。しかし、何故オーガナイトはこんなに余裕なのだろうか?ベリアスが魔王だと知らないから?それとも・・・・何か奥の手があるのか?

 嫌な予感がする。今までにないほどの規模の予感に、体が震える。このまま、ベリアスを戦わせてはいけない気がする・・!

 気が付いたら、行動していた。


「!?何をする!!」


 確証もないし、考えもなかった。でも、この嫌な感じは、駄目だ。そんな、本能レベルの直勘に従ってベリアスの腕を掴む。抵抗するベリアスを強引に引きずって、部屋を出ようとする。


「これはこれは。・・・それは勇者の取って良い行動では、ありませんよ」


 何かが、顔の横を通り過ぎた。ほおに鋭い痛みが走る。空いていた手で触ると、血がついた。どういうものかはわからないが、攻撃されたらしい。


「おい!放せ!」


 怒りのにじむ声でベリアスが、腕を引く。でも、それ以上の力で引っ張り返す。とにかく、全て後回しだ。ここから逃げることだけ考える。

 どんどん強くなる抵抗を抑えつけながら、部屋の扉に突進する。再び何かが飛んでくるが、無視する。標準ひょうじゅんが甘いのか『勇者』を殺すわけにはいかないからか、体をかするだけで済んでいる。その隙に、扉を蹴り開けて飛び出す。

 いつの間に出たのか、えすぴーが俺たちをとらえようと手を伸ばすが、それはベリアスの剣で遠ざけられた。しかし、どんどんえすぴーの数は増えていく。今はいないオーガナイトも、すぐに部屋から出てくるだろう。


「ベリアス、とにかく今は逃げよう!」

「・・・ちっ!この貸しはいつか返してもらうからな!」


 まだ戦う姿勢はいていないが、とりあえず逃げることには同意してくれたみたいだ。

 俺も聖剣を抜いて牽制けんせいしながら、えすぴーが少ない方を探る。


「こっちだ!」


 ベリアスがいち早く動いた。群がる紺色を一掃いっそうしながら疾駆しっくする。遅れてはかなわないので、俺も走る。手加減はしているのか、ベリアスは大剣の腹で男たちを昏倒こんとうさせていた。俺も習って、脇から飛び出した男を『シュトラウス』で殴る。次いで、進行方向に構えるえすぴーの足をすくう。


 そうやって走っている内に、ここが何処どこなのかわからなくなってきた。しかし、どうやら奥に向かっているようだ。目の前に出てくるえすぴーはもういない。後ろからは追手の足音が聞こえる。まだまだ追ってくるつもりらしい。

 先を走るベリアスは、まるで道を知っているかのように迷いなく進んでいる。少しでも遅れたら置いていく、というような速度で走り続ける。やがて、後ろの足音が聞こえなくなってきた。足の速さは、俺たちの方が断然だんぜん上だったようだ。

 それでもまだ、ベリアスは走る。だから、俺も走らざる負えない。息が上がり、心臓が壊れそうなぐらい鳴っている。と、唐突とうとつにベリアスが止まった。


「うわっ!!?」


 俺は急には止まれない。ベリアスを追い越してしまう。そして、壁にぶつかった。


「・・・痛っ~・・、行き、止まりならっ・・、そう、言え、よ・・」


 息が上がっている上に、ぶつかった痛みで、床にへたり込んでしまった。それでも、抗議こうぎだけはしておいた。例え、それが全く聞き入れられなくても、言わないなんて選択はしない。


「ふむ、いたようだな」


 後ろを確認したベリアスは、俺を見下ろし、すぐそばの扉に手をかけた。


「俺はともかく、お前はもう限界だな。ここで休んでいくぞ」


 そう思っているなら、手を貸してほしいんだが。そんなことをするわけもなく、ベリアスは扉を開けた。が、部屋の中へ入っていかなかった。


「どうしたんだ?」


 何とか息を整えた俺が、体を起して訊くが答えはない。しょうがないから、疲れた体にむち打って立ち上がり、ベリアスの隣にいく。渋面じゅうめんを作るベリアスは、部屋の中を見ている。

 俺も中を覗いてみた。


「あ、貴方たち、誰?!」


 俺も顔をしかめてしまった。



 

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