シュナイゼル
予定通り、勇者を魔王の元へ送り込んだ。さて、記憶がない勇者様はどうやって、魔王を倒すのか?
出来れば見たい。きっと予想もつかないことを、しでかすに違いない。何と言っても、勇者なのに記憶を失ったり、あっさり騙されたりするんだから。
「ふふ・・・」
僕を信じきったあの顔。さっきは、魔法を維持するのが大変だった。彼の顔は、未知の出来事に不安を感じている顔だった。それが妙に笑えて、口元が歪むのはどうしても押さえられなかったな。
「さて、と」
情けない勇者様は気になるけど、そんなことより愉しいことが起こりそうな、そんな噂を耳にした。だから勇者様と強引に別れた、とも言えるけど。
どうするかは、まだ考えていない。何が起こってもそれなりに愉しめるんだろうけど、どうせなら極上の享楽であってほしい。
考えるまでもない。折角面白い玩具を見つけたのだ。それを使わない手はないだろう。脳裏に情けない彼の顔が浮かぶ。
そうだ。それがいい。彼が魔王と対峙しても生きていたら、の話だけど。
再び杖を構え、『転移』の呪文を唱える。目的地は、もちろん魔王城なんかじゃない。
やがて、『転移』特有の浮遊感が起こる。
「さあ、とびっきりの宴を僕に見せてよ、勇者様」