6. 録音の中の声
いつものように半額弁当を食べながら一杯やり、それを片付けたら仕事の原稿を書くために、パソコンの前に座った。
取材中のやり取りを録音したレコーダーを聞きながら、文字に書き起こしていく。
首木と、相手の男性と会話。
後ろの方で聞こえていたのか、女性の笑い声が時折かすかに混じる。
「録音って、本当にその時の音を録音してるんでしょうか」
レコーダーを見ながら、男はポツリと呟いた。
以前、配信アプリで配信をやってみたことがあるんです。
今どきは誰でも気軽にできますからね。
まぁ、特に何かに強いわけでもない、ただのおっさんの配信なんて、そう聞きに来る人は居ませんでしたけどね。
たまにリスナーが誰もいなくても、一人で喋っているときがありました。
だいたいそう言うときは、酒が入ってるんですけどね。
で、結構な醉い方だった翌日、酔った勢いで変なこと言ってないだろうな?と、アーカイブを聞いてみたんです。
ところどころあやふやな口調で、相変わらず適当なことを喋ってたんですけど、時折ね、それにウケて笑う声がするんです。
私はずっと独り者で、その時も家に招くような彼女も友達もいませんでした。
私の独り言に答えてるのは、聞き取りにくかったですが、女性でした。
話だけ聞くとゾッとするでしょう?
でも、その女性の声は楽しげで、怖いと思わなかったんです。
なんなのかはわからないままでしたけど。
その後もね、誰もいない時に話したのをあとで聞くと、女性の声が入るようになりました。
毎回ではないです。
これは一体なんだろうと思っていたんですが、ある日ふと、猛烈に虚しくなって。
さっきも言いましたけどずっと独り者で、お付き合いもこの数年ありません。
なのに録音の中の自分は、女性と楽しそうに話している。
私はずっと一人なのに、この録音のなかの私は、そばで笑ってくれる女性がいる。
自分に嫉妬したんでしょうね。
変な話ですけどね。
それから配信もやめてしまいました。
その後、自分が話しているところを録音することもないので、結局アレが何だったのかはわからないままです。
首木はレコーダーを見た。
あの時、事務所の一角で話を聞いたが、近くに女性がいたのか思い出せなかった。




