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5、いってらっしゃいませ

 夜会。それは様々な思惑が飛び交う、腹の探り合いの場。

 この会場の何処かにクラヴィルのターゲットがいるのだろうとダンスを踊りながらステイシーはそんなことを考える。


「私はこちらの会場でお待ちしておりますね。ご武運を」


 ダンス終了と共にお手本のように美しい礼をして、ステイシーはクラヴィルにそう声をかける。

 が、一向に側を離れようとしないクラヴィル。


「? どうしました、旦那さま」


 今日は仕事をしに来たのでは? と訝しむステイシーに、


「君はどこにいても変わらないな、と」


 クラヴィルはくくっと喉を鳴らす。

 いつもとは違う正装をしたクラヴィルをじっと見たステイシーは、


「えっと、ご期待に沿えず申し訳ありません。一応これでも着飾ったんですが」


 地味で悪かったな、とステイシーは舌打ちしたいのを我慢する。

 ドレスだって新調し自分に合うものを選んだし、メイクとヘアセットはプロに任せたので綺麗にしてもらえたと思っている。

 とはいえ、そもそもクラヴィルは何もしなくても人外レベルで整った顔立ちをしている。

 絶世の美丈夫とか生きた彫刻とか称される正装姿のクラヴィルと比べられても、と頬を膨らませたくなるステイシー。


「そうじゃなくて」


 クラヴィルは慌てて否定する。

 綺麗に夜会用のドレスを着こなし、ハイヒールで凛と立つ今のステイシーは誰が見ても上流階級の淑女だ。

 ミルクティーのような優しい色味の髪は結いあげられ、それをまとめる髪飾りもよく彼女に似合っているし。

 いつもとは違いしっかり施されたメイクも彼女の魅力を引き立てている。

 見た目はすっかり見慣れてしまったメイド姿とは全く違うのに。


「物言いが変わらなくて、安心する」


 と思って、とクラヴィルは苦笑する。

 夜会にはあまりいい思い出はない。

 妻を伴っているというのに、今でも嫌になるくらい鬱陶しい視線に絡めとられ不快で仕方ない。

 そんなクラヴィルを見たステイシーはふむ、と頷き。


「ステイシー、です」


「は?」


「私の名前。君、じゃなくて」


 妻の名前をお忘れで? とわざと呆れたような口調でそう言ったステイシーは、


「夫婦円満なら大抵の虫は払えます。それでも寄ってくるのはただのクズなので相手にしなくて良し」


 ビシッと親指を立ててバッサリ言い切ったステイシーがただただカッコよくて。


「ははっ。その通りだな、ステイシー」


 共に過ごした時間は短いがステイシーの言うことはほとんどどれも正しくて。そんな逞しさを見習いたいとクラヴィルは自然と笑っていた。


「ふふ、元気が出たようで何より。いってらっしゃいませ、旦那さま」


「ああ、行ってくる」


 いつも通り、仕事をするだけ。

 随分と気が楽になったクラヴィルは軽い足取りで会場を後にした。

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