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地属性魔法を極めて森とか造ってたら、神と勘違いされました  作者: 豚汁


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獣人族の女の子

 森での生活が始まってから一週間が経った。


 リクトが建設していた木造の家は、既に九割方完成していた。

 最初は土の壁で作ろうと思っていたが、やはり森の中では木材を使った方が周囲の環境に溶け込んで自然だと判断し、また一から造り直していた。


 地属性魔法で木材を加工し、精密に組み上げた家は、見た目も機能も申し分ない仕上がりになっていた。

 屋根もしっかりと葺かれ、雨風を完全に凌ぐことができる。

 リクトはもうここで寝起きしていた。


 以前のように野宿をする必要はなくなり、快適な室内で安心して休むことができる。

 床も壁も魔法で研磨してあるため、手触りが良く、まるで高級住宅のような住み心地だった。


 家の周辺には、地属性魔法を駆使した様々なトラップを設置していた。

 目視では気付けない落とし穴、強靭な蔦のトラップ、石槍の障害物など、魔物の侵入を防ぐための仕掛けが何重にも張り巡らされている。


 特に寝ている時に魔物に襲われないよう、家の周囲は完璧に要塞化されていた。

 振動感知は常に稼働しているため、昼夜を問わず周囲の安全を監視できる。

 今のところ、トラップが作動したことは一度もない。

 運よく魔物たちも、リクトの家の周辺には近づいてこなかった。


 そして最近新しく覚えた【地脈感知】の魔法で、ついに念願の水脈を発見していた。


「地脈感知」


 この魔法を使うと、地下深くを流れる水の動きを感知することができる。

 家から少し離れた場所に、豊富な地下水が流れているのを発見したのだ。

 水量も十分で、水質も清浄そうだった。


 今はその場所で井戸を掘っている最中だ。

 地属性魔法で土を掘り起こし、少しずつ地下水に向かって穴を深くしていく。

 手作業では何日もかかりそうな作業だが、魔法の力があれば比較的短時間で完遂させることができるだろう。


「土壌除去・円筒掘削」


 魔法によって土を円筒状に取り除いていく。

 深さは既に三メートルほどになっていたが、まだ水脈には到達していない。

 もう少し深く掘る必要がありそうだった。


 井戸が完成すれば、水の確保は完璧になる。

 今は小川まで水を汲みに行っているが、自宅に井戸があれば格段に便利だ。

 料理にも洗濯にも、いくらでも新鮮な水を使うことができるようになるだろう。


 井戸掘りの作業に集中していたその時、【振動感知】が異常を捉えた。

 いつもとは違う振動パターンだった。

 四足歩行の魔物とは明らかに異なり、二足歩行で走っている振動が感じられる。


「まさか、人間?」


 リズムも人間のものに近く、足音の間隔から推測すると、かなりの速度で移動しているようだった。

 この森の奥深くまで人間が来ることなんてあるのだろうか。


 しかも、ただ歩いているのではなく、明らかに急いでいる。

 まるで何かから逃げているような足音だった。


 さらに詳しく振動を分析すると、逃げている足音を追うように、別の足音も三つ感知できた。

 こちらも人間のような二足歩行だが、より重く、荒々しい足音だった。

 明らかに追跡者の足音に聞こえる。


 リクトは少し迷った。

 基本的に人間との接触は避けるつもりでいたが、何かトラブルに巻き込まれている可能性もある。

 それに、自分が張り巡らせたトラップに引っかかってしまったら大変だ。


「少し様子を見に行こう」


 リクトは井戸掘りの作業を中断して、振動の発生源に向かって移動を始めた。

 トラップの位置は完璧に記憶しているので、自分が引っかかる心配はない。

 慎重に木々の間を縫って、音の方向へと近づいていく。


 この森は魔物も多いし、地形も複雑だ。

 道に迷った人が慌てて走り回っているのかもしれない。

 そうだとすれば、放っておくわけにはいかないだろう。


 振動の発生源に近づいていくと、荒い息遣いが聞こえてきた。


「……はあっ、はあっ!」


 かなり疲労している様子で、息も絶え絶えになっている。

 木々の間から覗いてみると、そこには見慣れない姿の少女がいた。


 彼女は人間ではなかった。

 獣人族の女の子だった。


 口元から小さな牙が覗いており、鼻も少し上向きになっている。

 耳も人間とは形が違い、全体的にイノシシのような特徴を持っていた。

 髪は茶色で、体格は小柄だが筋肉質な印象を受ける。


 しかし、女の子の状態は酷いものだった。

 服はぼろぼろに破れ、体中が傷だらけになっている。

 顔にも擦り傷があり、足も血が滲んでいた。

 みすぼらしい姿で、まるで虐待を受けていたかのような痛々しさがあった。


 特に目立ったのは、両手に嵌められた手錠のようなものだ。

 鋼鉄製らしく、頑丈そうな拘束具が手首にしっかりと固定されている。

 彼女を追従するように、背後から男たちの怒号が聞こえてきた。


「クソッ、どこに行きやがった!」


「見つけたら半殺しにしてやる!」


「金になる商品を逃がすんじゃねえぞお前ら!」


 女の子は男たちの声を聞くと、さらに恐怖に震えて辺りを見回している。

 リクトは状況を理解した。

 この女の子は男たちから逃げているのだ。


 しかも、「商品」という言葉から察するに、おそらく奴隷として扱われていたのだろう。


「ここら辺は危ないよー。トラップいっぱいあるからねー」


 リクトは木の陰から出て、女の子に声をかけた。

 突然人間が現れたことに、女の子は心底驚いた様子だった。


「に、人間!?」


 女の子の瞳が大きく見開かれる。

 この森の奥で人間に出会うなんて、全く予想していなかったのだろう。

 しかし、すぐに安堵の表情に変わった。


「助けて! 奴隷商に追われてるの!」


 女の子は必死にリクトに向かって手を伸ばした。

 手錠が重いのか、腕を上げるのも辛そうだった。

 近くで見ると、女の子はまだ七、八歳くらいで、えらく幼く見える。


 リクトは幼い少女の境遇を察した。

 この異世界では奴隷制度が当たり前に存在しているのだろう。

 確かに中世ヨーロッパのような世界観だから、奴隷制度があってもおかしくはない。


「奴隷。……そっか、可哀想に」


 リクトの心に同情が湧き上がった。

 こんな小さな女の子を奴隷として扱うなんて、あまりにも酷い話だ。


「手錠、取ってあげるよ」


 リクトは腰に差していた黒曜石の刃を取り出した。

 研磨のスキルで最高の切れ味に仕上げた自信作だった。


 鋼鉄製の手錠に刃を当てて、軽く力を入れる。

 すると、まるで紙を切るかのように簡単に手錠が切り裂かれた。

 頑丈そうに見えた鋼鉄が、まったく抵抗もなく真っ二つに切断される。


「うそ……」


 女の子は驚愕した。

 鋼鉄の手錠をこんなに簡単に切り裂くなんて、信じられない光景だった。

 直後、背後から荒々しい足音が近づいてきた。


「いたぞ、クソ獣人が!」


「こいつ! ちょこまかと!」


「てめえ、どこまで逃げる気だ!」


 男たちが怒号を飛ばしながら現れた。

 三人組で、いかにも悪人という風貌をしている。


「あ、そこは危ない」


 リクトは男たちに警告したが、時すでに遅かった。

 一人の男が、リクトの仕掛けたトラップを踏む。

 瞬間、地面から蔦が飛び出して男の足を絡め取り、そのまま宙に釣り上げた。


「うわあああ!」


 男は逆さまにぶら下がったまま、激しく暴れ始める。


「くそっ! なんだこれ!」


 しかし、蔦は魔法で強化されているため、ちょっとやそっとでは切れそうにない。


「何だてめぇは!」


 残りの二人が慌てている間に、リクトは女の子を庇うように前に出た。


「奴隷なんて可哀想じゃないか。解放してあげようよ」


 リクトは穏やかな口調で話しかけた。

 もとより争いごとは好まない性格だし、話し合いで解決できるならそれに越したことはない。


「何言ってんだ、てめぇ! 馬鹿かっ!?」


 しかし、男たちは聞く耳を持たなかった。


「これは俺たちの商品だ! 部外者が口出しすんじゃねえ!」


 相手に話し合う意志はないようだった。

 男たちは短剣を抜いて、明らかな戦闘態勢を取る。


 リクトには戦闘能力がほとんどない。

 ストーンショットも威力が低すぎて、人間相手では役に立たないだろう。

 どうしたものかと考えていると、【振動感知】が新たな脅威を捉えた。


 森を騒がしくしたせいだろうか。

 大型の魔物が近づいてきていた。

 足音の重さから判断して、相当大きな魔物のようだ。

 こちらに向かって、猛烈な速度で一直線にやってくる。


「あっ、後ろ後ろ!」


 リクトは男たちに警告したが、当然信じてもらえなかった。


「誰が振り向くかボケェ!」


 男の一人が叫んだ瞬間、背後から巨大な影が躍り出た。

 それは熊型のモンスターだった。


 普通の熊の倍はある巨体で、全身が黒い毛に覆われている。

 立ち上がった姿は四メートルを超え、太い四肢は古木のように逞しい。

 鋭い爪と牙を持ち、血のように赤い瞳が殺気に満ちて燃えていた。


 まさに森の王者と呼ぶにふさわしい威圧感のある魔物だった。


 男たは振り返る間もなく、大熊の巨大な爪に切り裂かれた。


「ぐ、ぎゃあああァ!」


 鋭い爪が肉を引き裂く音が響く。

 血飛沫が舞い上がり、男たは絶叫と共に地面に倒れ込んだ。


「ひっ」


 次いで、息つく間もなく大熊はもう一人の男を切り裂く。


「がああああああッ!」


 一人は胸を深く切り裂かれて即座に絶命し、もう一人は腹部を破かれて痙攣した後、静かになった。


 人間など、この魔物にとっては虫けら同然の存在だった。


「……ゴォオオオオオ」


 大熊は唸り声を上げ、口から白い息を吐きながら、俺を見て威嚇する。


「え、まじか……」


 状況は一変した。

 今度は、リクト対大熊という構図になってしまった。


 血に濡れた爪を舐め、低い唸り声を上げながら一歩ずつ近づいてくる。

 その歩みは重く、地面に深い足跡を刻んでいく。

 赤い瞳はリクトを獲物として捉え、殺意を隠そうともしない。


 リクトには、攻撃魔法なんてあってないようなものだ。

 その辺の石礫をぶつける魔法では、熊に傷一つ付けられないだろう。


 しかし、逃げるわけにもいかなかった。

 背後には傷だらけの女の子がいる。

 彼女を置いて逃げるなんて、リクトにはできなかった。


「ダメ元でやってみるか……」


 リクトはストーンショットを発動した。


「ストーンショット!」


 リクトが魔法を放った瞬間、信じられないことが起こった。

 生成された石は、今までとは全く異なっていた。

 小石どころか、ボーリングの球ほどもある巨大な石の塊が空中に現れる。


 表面は黒曜石のように鋭く磨かれ、まるで砲弾のような形状をしていた。

 そして、岩石は凄まじい速度で熊に射出される。

 空気を切り裂く音が響き、その軌道上には圧縮された空気の波が見えるほどだった。


「ガァッ!」


 熊が反応する暇もなく、石は胸部を直撃した。

 しかし、衝突で止まることはなかった。

 石はそのまま熊の体を貫通し、心臓部を完全にくり抜いて背中から飛び出した。


 石はそのまま飛び続け、背後の太い樹木を何本も貫通して、さらに奥の岩場に激突した。

 岩は粉々に砕け散り、辺り一面に欠片が飛び散る。


 まるで巨大なドリルが肉体を穿ったかのような、完璧な円形の穴が熊の胸に開いている。

 熊はその場にゆっくりと崩れ落ちた。

 心臓を失った魔物に、生存の可能性はない。

 一撃で、完全に息の根を止められていた。


 森全体が静寂に包まれた。

 鳥たちのさえずりも止み、風の音さえ聞こえなくなったような錯覚に陥った。

 あまりにも圧倒的な破壊力に、自然そのものが息を呑んでいるかのようだった。


「あれ? 倒した?」


 リクトは自分でも信じられずに呟いた。

 まさか自分の魔法でこんな巨大な魔物を一撃で倒せるなんて思わなかった。


「ひぃぃぃぃ!  た、助けてくれ!」


 蔦に捕らわれていた男だけは、逆さまにぶら下がったまま震え上がっている。

 リクトは一瞬躊躇したが、やはり見捨てることはできなかった。


「もう悪さするなよ」


 地属性魔法で蔦を緩めると、男は地面に落下した。

 リクトが声をかけると、男は這うようにして立ち上がり、


「ひぃぃぃぃ! すみませんでしたぁああああ!」


 と悲鳴を上げながら全力で逃げ去っていった。

 木々に何度もぶつかりながらも、振り返ることなく姿を消していく。


 端から見ていた少女は、ただ愕然とするしかなかった。

 目の前で起こった出来事があまりにも非現実的で、言葉を失っている。

 巨大な熊型モンスターが、たった一撃で完全に撃破されるなんて思いもしなかった。


 青年が普通の人間ではないことは明らかだ。

 これほどの実力を持つ魔法使いなら、王宮でも重要な地位に就けるだろう。

 なぜこんな森の奥で一人でいたのか、少女には理解できなかった。


 しかし、一つだけ確かなことがあった。

 目の前の人間は、自分を助けてくれた恩人だということだ。

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