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地属性魔法を極めて森とか造ってたら、神と勘違いされました  作者: 豚汁


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せっかくなので森を散策します

「なんだか落ち着くな、森の中って」


 リクトは木々に囲まれた静寂の中で、心からそう感じていた。

 街道から離れて森に足を向けたのは、特に明確な目的があったわけではない。

 ただ何となく、緑の世界に誘われただけだ。


 木漏れ日が頭上から柔らかく降り注ぎ、足元には厚い落ち葉の絨毯が敷かれている。

 鳥たちのさえずりが木々の間を駆け抜け、どこかで小川のせせらぎが聞こえてくる。

 都会の喧騒とは正反対の、穏やかで優しい世界がそこにあった。


 リクトは深呼吸をした。

 空気は澄んでいて、肺の奥まで清々しさが染み渡っていく。

 昨日までの慌ただしい出来事が、まるで遠い昔の話のように感じられた。


 魔神討伐だの、勇者だの、そんな重い責任から解放されて、今はただ一人の青年として森を歩いている。

 別にすることがあるわけでもない。

 目的地があるわけでもない。


 ただ足の向くまま、気の向くままに歩いているだけだった。

 それでも、リクトには何の不安もなかった。

 この森にいると、心が自然と落ち着いてくるのだ。


 枝に止まった小鳥が、リクトを見つめてさえずっている。

 まるで「ようこそ」と歓迎してくれているようだった。

 リクトは思わず微笑んで、小さく手を振り返した。


 しかし。そのまま森を歩き続けていると、段々と息が上がってくる。


「はあ、はあ……」


 リクトは額に浮かんだ汗を拭いながら、自分の体力のなさを実感していた。

 昨日のコボルトとの戦闘でも感じたことだが、身体能力が圧倒的に低い。

 他の三人が軽々と歩いていた道のりも、リクト一人では相当な負担になってしまう。


 足取りが重くなり、呼吸も荒くなってきた。

 背負い袋はそれほど重くないはずなのに、肩に食い込んでくる。

 脚の筋肉が悲鳴を上げ始めていた。


「ちょっと……休憩するか」


 リクトは近くにあった倒木に腰を下ろした。

 背負い袋を地面に置いて、大きく息を吐く。

 森の静寂の中に、自分の荒い呼吸音だけが響いていた。


 情けないなあ、とリクトは苦笑いを浮かべた。

 まだそれほど歩いていないのに、もうこんなに疲れてしまうなんて。

 これでは長距離の移動なんて無理だろう。

 やはり自分は冒険者向きではないのかもしれない。


 しかし、落ち込む気持ちはすぐに消えた。

 ここは誰も急かす者がいない森だ。

 自分のペースで歩けばいい。

 急ぐ必要なんてどこにもないのだから。


 休憩しながら、リクトはふと思い出したことがあった。


「そういえば、地属性魔法で他に使えるのがあったっけ」


 王宮での説明で、大神官セラフィムが教えてくれた魔法があった。

 アブソーションという名前の魔法で、微々たるエネルギーを吸い取るものだと聞いていた。

 植物や花、大気、大地などから少しずつエネルギーを吸収できるらしい。


 昨日のコボルト戦ではストーンショットしか使わなかったが、そういえばまだアブソーションは試していなかった。

 どうせ時間もあるし、練習がてら使ってみようか。


「アブソーション」


 リクトは森の土に向けて手をかざし、魔法の名前を唱えた。

 すると、不思議な感覚が体を包んだ。

 足元の土から、まるで温かい光のようなものが立ち上がってくるのを感じる。


 それが手のひらを通して体内に流れ込み、疲労で重くなっていた体が少しずつ軽くなっていく。

 微々たるものではあったが、確かに自分の体力が回復していくような感覚があった。

 それと同時に、魔力も微増したような気がする。

 まるで森そのものから生命力を分けてもらったかのようだった。


「なんだか元気になってきたぞ」


 リクトは驚きの声を上げた。

 疲労感が和らぎ、呼吸も楽になっている。

 こんな便利な魔法があったなんて知らなかった。


 面白くなったリクトは、何度もアブソーションを試してみることにした。

 土に向けて、木に向けて、落ち葉に向けて、様々な方向に魔法をかけてみる。


 こんなにも連発したら魔力が切れてもおかしくないはずだが、アブソーションの効果で、使った傍から魔力はすぐに回復してしまう。


「これって無限に使えるんじゃないか?」


 使えば使うほど魔力が戻ってくるので、理論的には無限に使い続けることができそうだった。

 しかも魔力のみならず、体力まで回復する。

 なんて便利な魔法なんだろう。


 気が済むまで、リクトはアブソーションを行使し続けた。

 森の様々な場所で、様々な対象に向けて魔法をかけまくる。

 木の根、花びら、苔、岩、水たまり。

 森のあるあらゆるものから、少しづつエネルギーを吸収してみた。


 だんだんとコツが掴めてきて、より効率的にエネルギーを吸収できるようになってくる。

 最初は微々たるものだったエネルギーも、今では実感できるほどの量になっていた。


 そして、魔法を使い続けていると、不思議な感覚に襲われた。

 頭の中に新しい知識が流れ込んでくるような、まるで本能的に何かを理解したような感覚。


 リクトは直感的に理解した。

 新たな魔法を習得したのだ。


 頭の中に浮かんできた知識を整理すると、三つの新しい魔法を使えるようになっていることがわかった。


 一つ目は【毒素分解】という魔法だった。

 大地の浄化作用を利用して、土壌や水に含まれる毒を分解し、無害化することができるらしい。

 森の土や植物が持つ自然の浄化力を、魔法として活用するのだ。


 二つ目は【振動感知】という魔法。

 地面に伝わる微細な振動を読み取り、遠くの敵の位置や人数、規模を探ることができる。

 大地そのものを巨大な感覚器官として使用する魔法だった。


 三つ目は【構造把握】という魔法。

 洞窟や建物の内部構造を、地面や壁を通して把握することができる。

 地属性魔法らしく、土や石との親和性を活かした能力だった。


「なんかいろいろ使えるようになったぞ」


 どれも直接的な攻撃魔法ではないが、非常に実用的な能力ばかりだった。

 特に振動感知は、危険を事前に察知できるので冒険には非常に有用だろう。


 ストーンショットのような攻撃魔法は相変わらず威力が低いままだったが、それ以外の部分で大きく成長した気がする。


 アブソーションを繰り返していたおかげで、体力も魔力も完全に回復していた。

 むしろ、森に来た時よりも調子が良くなっているような気がする。


「それより腹減ったなあ……」


 アブソーションに夢中になっていたせいで気付かなかったが、いつの間にか空腹を感じるようになっていた。

 リクトは背負い袋から保存食を取り出そうとしたが、残りが少ないことに気づく。

 あまり無駄遣いはできない。


 辺りを見回すと、森のあちこちにキノコが生えているのが目に入った。

 一つ手に取ってみると、紫色で見るからに毒々しい見た目をしている。


「食っても大丈夫かな?」


 リクトは手でキノコについた砂を払い落とした。

 確かに毒々しい色をしているが、お腹が空いているし、他に食べ物もない。

 それに、毒素分解の魔法を覚えたばかりだ。

 もし毒があっても、魔法で何とかできるかもしれない。


「毒素分解」


 魔法をかけた後、思い切ってキノコをかじってみた。

 変な味がした。

 苦みと酸味が混じったような、お世辞にも美味しいとは言えない味だった。

 しかし、特に異常は感じない。

 お腹も痛くならないし、気分が悪くなることもなかった。


「まあ、大丈夫か」


 リクトは安心して、さらにキノコを食べ続けた。

 味は相変わらず美味しくないが、空腹を満たすには十分だった。

 森のあちこちに生えているキノコを20個ほど食べて、ようやく満足感を得ることができた。


 中には比較的美味しいものもあれば、とんでもなく不味いものもあった。

 しかし、どれを食べても特に体調に変化はない。


 いずれにしても、森で食べ物を調達できることがわかったのは大きな収穫だった。これなら、しばらくは食事に困ることはないだろう。


 お腹も満たされて、ゆったりとした気分でいたリクトだったが、ふと新しく覚えた振動感知の魔法を試してみたくなった。


「振動感知」


 手のひらを地面につけて魔法を発動すると、大地を通して様々な振動が伝わってくるのを感じた。

 小鳥が枝に止まる小さな振動、風で葉が揺れる微細な振動、遠くを流れる小川の振動。

 森のあらゆる動きが、まるで自分の体の一部のように感じられた。


 しかし、その中に明らかに異質な振動が混じっているのに気づいた。

 重く、規則的で、明らかに大型の生物が移動している振動だった。

 しかも、こちらに向かって来ているようだ。


 リクトは慌てて振動の詳細を分析した。

 足音の重さからして、かなり大きな魔物のようだ。

 歩幅も広く、おそらく人間の何倍もの大きさがある。

 そして、明らかに獲物を探しながら移動している気配があった。


「おそらく魔物だな……」


 リクトは冷静に状況を判断した。

 昨日のコボルト戦の結果を考えれば、大型の魔物と戦って、リクトが勝てるはずがない。

 ストーンショットの威力では、まともにダメージを与えることすらできないだろう。


「どうせ勝てない。だったら戦いを避けるべきだ」


 リクトは賢明な判断を下した。

 無理に戦う必要はない。

 魔物をやり過ごして、危険を回避するのが最善の策だった。


 振動感知で魔物の動きを追いながら、リクトは静かに木の陰に隠れた。

 息を殺して、じっとやり過ごすことにする。


 やがて、木々の間から巨大な影が見えてきた。

 熊のような体に角が生えた魔物で、明らかに凶暴そうな雰囲気を漂わせている。

 もしあの魔物と戦闘になっていたら、間違いなく命を落としていただろう。


 魔物はリクトの存在に気づくことなく、別の方向へと去っていった。

 その足音が完全に聞こえなくなるまで、リクトはじっと隠れ続けていた。


「このスキルがあるおかげで助かった……」


 リクトは心底安堵していた。

 振動感知の魔法がなければ、魔物に不意打ちを食らっていたかもしれない。

 新しく覚えた能力が、早速命を救ってくれたのだ。


 戦闘力では他の勇者たちに遠く及ばないが、こういった索敵や回避の能力では、意外と優秀なのかもしれない。

 リクトは自分なりの戦い方が出来ることにを実感していた。


 魔物が去った後、リクトは再び森の奥へと歩き続けた。

 振動感知のおかげで危険を事前に察知できるので、安心して移動することができる。


 リクトは歩きながら、新しく覚えた魔法を次々と試していた。

 毒素分解で汚れた水を浄化し、構造把握で洞窟の内部を探り、振動感知で周囲の安全を確認する。


 アブソーションも継続的に使い続けているおかげで、疲労することなく長距離を歩けるようになっていた。

 森のエネルギーを吸収し続けることで、むしろ体力は増加していっている。


「なんだか、この森での生活も悪くなさそうだな」


 確かに仲間たちに置いて行かれたのは寂しいが、一人でも十分にやっていけそうだった。

 森には食べ物もあるし、水もある。

 魔法のおかげで危険も回避できる。


 何より、誰にも急かされることなく、自分のペースで生活できるのが良かった。

 勇者という重い責任も、魔神討伐という危険な任務もない。

 ただ自由に、自然と共に生きていけばいい。


 リクトは木漏れ日の中を歩きながら、新しい人生に対する希望を抱いていた。

 森という新しい世界で、自分なりの生き方を見つけていこう。


 陽光が背中を温かく照らしている。

 リクトは軽やかな足取りで、森の奥へと進んでいく。


 一人きりでも、決して孤独ではない。

 森全体が仲間のような気がしていた。

 木々も、花も、小鳥も、みんなリクトを歓迎してくれているから。

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