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地属性魔法を極めて森とか造ってたら、神と勘違いされました  作者: 豚汁


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3/15

勇者パーティーに置いて行かれた

 異世界に転移してから二日目の朝が訪れた。


 王宮の宿舎で目を覚ましたリクトは、窓から差し込む陽光を浴びながら大きく伸びをする。

 昨日の能力測定での衝撃的な結果も、一夜明けて現実として受け入れた。


 攻撃力3、魔力5、速度2、防御4。

 他の三人と比べれば、文字通り桁違いに劣っている数値。


 それでも、リクトの表情は明るかった。

 新しい世界での冒険が始まるという期待感が、能力値の落胆を上回っていた。

 何より、仲間たちと一緒に旅ができるのだ。

 たとえ荷物持ちという立場であっても、それだけで十分だ。


 朝食を済ませた四人は、国王から最後の激励を受けた後、王宮の正門前に集合した。

 既に装備を身に着けた三人の姿は、まさに勇者そのもの。


 コウは銀色に輝く鎧に身を包み、腰には見事な剣を帯びている。

 ユウセイは青い法衣を纏い、魔法の杖を手にしていた。

 アキラは白い聖職者の装束に身を包み、盾を背負っている。


 一方、リクトは簡素な革の鎧と短剣、そして大きな背負い袋という出で立ちだった。

 明らかに他の三人とは格が違う装備だったが、リクト自身は特に気にしていない様子だった。


「よし、出発だ」


 コウが力強く宣言すると、四人は王都の門をくぐった。

 石畳の道から土の街道へと足を向け、遥か彼方にある暗黒界を目指して歩き始める。


 街道沿いには緑豊かな草原が広がっていた。

 見渡す限りの青い空と、風にそよぐ草花。

 リクトにとっては見慣れない異世界の風景だったが、その美しさに心を奪われていた。


 リクトは四人の中で唯一、重い荷物を背負いながらも軽やかな足取りで歩いていた。

 時折、道端の花を眺めたり、珍しい鳥の鳴き声に耳を傾けたりして、旅そのものを楽しんでいた。


 王都から数時間歩いた頃、街道脇の草むらから不審な音が聞こえてきた。


「何かいるな」


 コウが剣の柄に手をかけながら警戒する。

 草むらがガサガサと揺れ、小さな影がちらちらと見え隠れしていた。


「モンスターですね」


 アキラが冷静に分析する。


「コボルトのようです。犬のような頭をした小型の魔物で、比較的弱い種類ですが……」


 ユウセイが杖を構えながら提案した。


「ちょうどいい。俺たちのスキルの試し打ちをしてみないか?」


「それはいいアイデアだ」


 コウが同意する。


「実戦で自分の力を確かめておくべきだろう」


 草むらから姿を現したのは、確かにアキラが言った通りコボルトだった。

 犬のような頭と人間のような体を持つ小柄な魔物で、粗末な武器を手にしている。

 全部で五匹ほどが、四人を取り囲むように現れた。


 コボルトたちは牙を剥き出しにして威嚇しているが、リクトには可愛らしい子犬のようにも見えた。

 もちろん、相手は魔物なので油断はできないのだが。


「じゃあ、俺から行くか」


 コウが剣を抜き放った。

 銀の刃が陽光を反射して眩く輝く。


「剣聖スキル・瞬閃!」


 瞬間、コウの姿が消えた。

 いや、あまりにも高速で移動したため、目で追えなかっただけだった。

 次の瞬間には、コボルトの一匹が真っ二つに切り裂かれて地面に倒れていた。


「うわあ、すげー!」


 リクトが目を輝かせて感嘆の声を上げる。

 コウの動きは人間離れしていた。

 まさに剣聖の名にふさわしい技だ。


 続いてユウセイが杖を振り上げた。


「炎魔法・フレイムアロー!」


 杖の先端から炎の矢が放たれ、コボルトの一匹を貫いた。

 魔物は一瞬で焼け焦げて倒れる。


「おお! 今度は魔法だ!」


 リクトの興奮はさらに高まった。

 ファンタジーアニメでしか見たことのない光景が目の前で繰り広げられている。


 アキラは盾を構えながら、静かに呪文を唱え始めた。


「高位治癒魔法・リザレクション」


 すると、先ほどコウに倒されたコボルトがゆっくりと立ち上がった。

 しかし、生き返ったコボルトの目は虚ろで、まるで人形のような動きをしている。


 死んだ者を蘇らせるなんて、神の領域の技だ。

 アキラが蘇らせたコボルトに命令する。


「残りの仲間を攻撃しろ」


 操られたコボルトは、迷うことなく元の仲間に襲いかかった。

 爪と牙で攻撃し、あっという間に二匹を倒してしまう。


「……凄すぎる」


 リクトは呆然としていた。

 三人とも、それぞれが人間離れした能力を持っている。

 残るコボルトは一匹になった。

 そいつがリクトの方に向かってくる。


「リクト、お前も試してみろよ。地属性魔法とやらを見せてくれ」


 ユウセイが皮肉るように声をかけた。


 リクトは慌てて構えた。

 心臓がドキドキしている。


「え、えーと……地属性魔法・ストーンショット!」


 リクトが手をかざすと、地面から小さな石が浮き上がった。

 拳大ほどの石が一個だけ、ゆっくりとコボルトに向かって飛んでいく。


 石はコボルトの頭にコツンと当たった。

 まるで子供が投げた石ころのような威力で、コボルトはきょとんとした表情を浮かべている。


「あれ……?」


 コボルトは怒って牙を剥き出しにすると、リクトに飛びかかってきた。

 リクトは慌てて短剣で受けようとしたが、魔物の勢いに押し負けて地面に倒れてしまう。


「うわあああ!」


 コボルトの爪がリクトの胸を引っ掻いた。

 革の鎧が裂ける。


「馬鹿が! フンッ!」


 コウが高速移動で割り込み、コボルトを一刀両断した。

 リクトの上に、魔物の血が降りかかる。


「あ、ありがとう、コウ。助かったよ」


 リクトは苦笑いを浮かべながら答えた。


「本当に大丈夫か、こいつ……」


 ユウセイが不安そうに呟く。


「魔法の威力が弱すぎる。あれじゃあ戦力になるかどうか……」


 アキラも眼鏡を押し上げながら同じような心配を口にした。


「みんな、すげーよ! 本当にすげー!」


 リクトの目は輝いていた。

 コウの剣技、ユウセイの魔法、アキラの蘇生術。

 どれも信じられないほど強力だった。


「まるで漫画やゲームの世界みたいだ!  本当に勇者なんだな!」


 リクトの純粋な興奮ぶりに、三人は複雑な表情を浮かべた。




 *




 夕暮れが近づき、四人は街道脇の平らな場所で野宿することにした。

 コウが薪を集め、ユウセイが火魔法で火を起こし、アキラが周囲の安全を確認する。

 リクトは大きな背負い袋から食料や毛布を取り出して、みんなに配った。


「やっぱり荷物持ちとしては優秀だな」


 ユウセイが皮肉めいた口調で言った。

 リクトは特に気にした様子もなく、明るく答える。


「そう言ってもらえると嬉しいよ。唯一俺にできることだからさ」


「けっ」


 その反応に、ユウセイはつまらなそうに、そっぽを向く。


 四人は焚火を囲んで夕食を取った。

 王宮で用意してもらった保存食だったが、野外で食べると格別に美味しく感じられた。


 火の明かりが四人の顔を照らしている。

 パチパチと薪の燃える音が、静寂の夜に響いていた。


「それにしても、リクトって変わってるよな」


 コウが率直に言った。


「普通なら、あの能力値だと落ち込むだろ」


「そうですね、僕だったら、立ち直れないかもしれません」


 アキラも同意する。


 リクトは焚火を見つめながら答えた。


「うーん、確かにショックはあったけどね。でも、落ち込んでても仕方ないじゃん」


「仕方ないって……」


 ユウセイが呆れたような声を出す。


「お前の能力値、俺たちの何万分の一だぞ?」


「そうなんだよね」


 リクトは苦笑いを浮かべた。


「でも、数字が全てじゃないと思うんだ。俺には俺なりのやり方があるはずだし」


「やり方って、何だよ」


 ユウセイが興味深そうに尋ねた。


「んー、まだよくわからないけど……」


 リクトは空を見上げながら考え込んだ。

 満天の星が夜空に輝いている。


「例えば、戦闘では役に立たないかもしれないけど、他のことで貢献できるかもしれ

 ないじゃん。料理とか、道案内とか、荷物の整理とか」


「それって、冒険者じゃなくて従者の仕事だろ」


 ユウセイが辛辣に指摘する。


「従者でもいいよ。みんなの役に立てるなら」


 アキラが眼鏡を押し上げながら質問した。


「でも、悔しくないんですか?  同じ勇者として召喚されたのに、これだけ差があるなんて……」


 リクトは少し考えてから答えた。


「悔しくないって言ったら嘘になるかな。でも、それ以上に楽しいんだ」


「楽しい?」


 三人が同時に聞き返した。


「うん。だって、異世界だよ?  魔法があって、モンスターがいて、勇者がいる世界。小さい頃から憧れてた世界に来れたんだ」


 リクトの目は本当に嬉しそうに輝いていた。


「確かに戦闘では弱いけど、それでもこの世界にいられるだけで幸せなんだ。みんなと一緒に冒険できるなんて、夢みたいだよ」


 コウは複雑な表情を浮かべていた。

 リクトのあまりにも純粋な言葉に、何と返していいかわからなかった。


「それに」


 リクトは続けた。


「俺、昔から何事もポジティブに考える癖があるんだ。悪いことがあっても、きっと良いことの前触れだって思うようにしてる」


「根拠のない楽観主義だな」


 ユウセイが呆れたように言った。


「根拠なんていらないよ」


 リクトは笑いながら答える。


「だって、根拠があったって、未来なんて来るまで分からないじゃん。だったら、明るく考えてた方が得でしょ?」


 アキラが小さく笑った。


「確かに、そうかもしれませんね」


「でしょ? それに、俺にはまだ可能性があると思うんだ」


 リクトは拳を握りしめた。


「地属性魔法だって、使い方次第では強くなれるかもしれない。レベルが上がれば、能力値だって伸びるかもしれないし」


「まあ、そうだな……そうだといいがな」


 コウが曖昧に答える。

 心の中では、リクトの能力値がそう簡単に伸びるとは思えなかった。

 しかし、彼の前向きさを、わざわざ否定するのも気が引けた。


「とにかく、俺は精一杯頑張るよ。みんなの足を引っ張らないように」


 リクトの言葉には、嘘偽りのない誠実さがあった。

 三人は何となく気まずい空気を感じながらも、それ以上は何も言わなかった。

 焚火の火が少しずつ小さくなっていく。

 四人はそれぞれ毛布にくるまって、地面に横になった。


「明日も頑張ろうな」


 リクトが眠る前に呟いた言葉が、静かな夜に響いた。

 誰からも返事はなかった。


 翌朝、リクトは鳥のさえずりで目を覚ました。

 爽やかな朝の空気を胸いっぱいに吸い込んで、大きく伸びをする。

 昨日の戦闘での傷も、一晩寝たらほとんど気にならなくなっていた。


「おはよー」


 リクトは元気よく声をかけたが、返事がない。

 不思議に思って周りを見回すと、コウたちの姿が見当たらなかった。


「あれ? みんなどこに行ったんだろう?」


 毛布は綺麗に畳まれているし、荷物もない。

 まるで最初からそこにいなかったかのようだった。

 リクトが辺りを見回していると、焚火の跡の近くに紙切れが置かれているのに気づいた。

 拾い上げて読んでみると、そこには短い文章が書かれていた。



『リクト


 お前は魔神討伐なんかに関わらず、

 普通に生きた方が幸せだと思う。

 俺たちの持ち金は少ないが、

 その中から少し残していく。

 平和な田舎で、平穏に暮らせ。


             コウ、ユウセイ、アキラ』



 リクトは置手紙を何度も読み返した。


「あーあ、置いてかれちゃったのか」


 三人なりの気遣いが感じられる文面だったが、結局のところ見捨てられたという事実に変わりはない。


 急いで自分の荷物を確認すると、大きな背負い袋はそのまま残されていたが、中身の大部分が抜き取られていた。

 食料、テント、調理器具もない。


 残されていたのは、わずかな保存食と水、分け与えられた銀貨数枚だけだった。

 確かにショックはあったが、なぜか怒りは湧いてこなかった。

 三人の言葉には、彼なりの思いやりが込められているのを感じ取れたからだ。


 昨夜の会話を思い返してみる。

 三人とも、リクトの戦闘能力の低さを心配していた。

 魔神討伐という危険な任務で、リクトが命を落とすことを恐れていたのだろう。

 ある意味では、これも仲間としての優しさなのかもしれない。


「まあ、仕方ないかぁ」


 それに、リクトには元々楽観的な性格だった。

 どんな困難な状況に陥っても、何とかなると信じて疑わない。

 今回だって、きっと何とかなるだろう。


「金もないし、頼れる人脈もないか……」


 リクトは残された銀貨を手のひらで転がしながら呟いた。

 王都に帰ろうにも、これだけの金では宿代と食事代で数日が限度だろう。

 かといって、知り合いもいないし、仕事を紹介してくれる人もいない。


 しばらく考え込んでいたリクトの顔に、ふと明るい表情が浮かんだ。


「だったら、好きなようにやらせてもらうか」


 立ち上がって背負い袋を担ぐと、リクトは街道を離れて森の方向へと歩き始めた。

 もう勇者パーティーの一員ではない。

 魔神討伐という使命からも解放された。


 ならば、好きなように生きてみよう。

 この異世界で、自分なりの人生を見つけてみよう。


 森は深く、緑に満ちていた。

 木々の間を縫うように進んでいくと、小鳥たちのさえずりや小川のせせらぎが聞こえてくる。

 リクトは一歩一歩、確実に新しい人生へと足を向けていた。


「さて、どんな冒険が待ってるかな?」


 リクトの声は、森の奥へと響いていった。

 振り返ることなく、彼は緑の世界の中へと消えていく。


 一人ぼっちになった青年の新たな物語が、今まさに始まろうとしていた。

 きっと素晴らしい出会いが待っているに違いない。


 そんな希望を胸に、リクトは森の奥深くへと歩き続けた。

 冒険は終わらない。

 形を変えて、新たに始まるだけだ。

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