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地属性魔法を極めて森とか造ってたら、神と勘違いされました  作者: 豚汁


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2/17

俺だけハズレの地属性魔法でした

 放課後の夕暮れ時、森山陸人はひとりで下校していた。


 校門を出て、いつもの帰り道を歩き始める。

 住宅街の細い道を通り、小さな公園を抜けて、坂道を上っていく。

 リクトにとっては慣れ親しんだルート。


 しかし、今日は何かが違っていた。


 公園の中央で、陸人の足が止まった。

 地面に、見たことのない光る模様が浮かび上がっている。

 複雑な幾何学模様が絡み合い、神秘的な光を放っていた。


「なんだこれ……?」


 よく見ると、円形の中に複数の三角形や線が組み合わさって、まるで魔法陣のような形をしている。

 光は青白く、脈動するように明滅を繰り返していた。


 瞬間、世界が白い光に包まれた。


 強烈な光がリクトの視界を覆い尽くし、体が浮遊するような感覚に襲われる。

 重力が消失したかのように、体重を感じなくなった。

 風の音も、街の雑音も、すべてが遠ざかっていく。


 リクトは目を固く閉じた。

 光があまりにも眩しくて、直視することができなかった。

 体が回転しているような、落下しているような、不思議な浮遊感が続いている。


 やがて、光が徐々に弱くなっていく。

 浮遊感も次第に薄れ、足の裏に固い感触が戻ってきた。

 リクトはゆっくりと目を開けた。


「うわっ」


 目の前に広がっていたのは、見慣れない光景だった。

 大理石でできた広い部屋の中央に、リクトは立っていた。

 天井は高く、美しい装飾が施されている。

 柱は精巧な彫刻で、壁には華麗なタペストリーが掛けられていた。


 まるで中世ヨーロッパの宮殿のような、荘厳な雰囲気を醸し出している。

 リクトは辺りを見回した。

 自分の足元にも、先ほど公園で見たのと同じような魔法陣が描かれている。

 しかし、こちらの方がはるかに巨大で複雑だった。


「え……?  ここどこ?」


 困惑するリクトの声が、広い部屋に反響した。

 状況が全く理解できない。

 ついさっきまで、いつもの帰り道を歩いていたはずなのに。


 ふと、周囲に人影があることに気づいた。

 リクトと同じように、魔法陣の上に三人の男性がいる。

 みんな日本の高校生のような服装をしており、同じように困惑の表情を浮かべていた。


 一人目は、リクトよりも背が高く、整った顔立ちをしている。

 黒髪を短く整え、どこか気品のある雰囲気を漂わせていた。

 制服の着こなしも完璧で、まるでモデルのような美形だった。


 二人目は、茶髪でやや長めの髪型をしており、引き締まった体格をしていた。

 活発そうな印象で、きょろきょろと辺りを見回している。


 三人目は、黒縁眼鏡をかけた知的な印象の青年だった。

 やや痩せ型で、読書家のような雰囲気を醸し出している。

 手には学習参考書を持ったままで、突然の出来事に戸惑っているようだった。


 四人は互いに視線を交わした。

 誰も状況を理解できずにいる。


「お前らも……日本人?」


 整った顔立ちの青年が、恐る恐る声をかけた。


「ああ、そうだけど……」


 リクトは頷いた。


「君は?」


「神楽坂コウ。高校二年生。お前は?」


「森山リクト。俺も高校二年」


 リクトがそう答えると、茶髪の活発そうな青年が割り込んできた。


「俺は田中ユウセイ。同じく高二。で、そっちのメガネ君は?」


 眼鏡をかけた青年が毅然と答える。


「佐藤アキラです。皆さんと同学年ですね」


 四人とも同じ年齢だった。

 しかし、なぜ彼らがここにいるのか、ここがどこなのか、まったく見当もつかない。


「それで……ここはどこなんでしょうか?」


 メガネのアキラが呟いた。

 そのとき、部屋の奥から足音が聞こえてきた。

 大きな扉がゆっくりと開かれ、二人の人物が姿を現した。


 一人は白い長衣を纏った老人で、杖を持っている。

 もう一人は、豪華な衣装に身を包んだ中年の男性だった。

 金の装飾が施された王冠を頭に戴き、威厳に満ちた表情をしている。


 白衣の老人が前に出て、深々と頭を下げた。


「ようこそ、異世界の勇者たちよ。私は王国神殿の大神官、ラフィムと申します」


 声は穏やかで、神聖な響きを持っていた。

 長い白髭を蓄え、慈悲深い瞳をしている。

 まさに神に仕える者といった風貌だった。


 続いて、王冠を被った男性が口を開いた。


「そして私が、このアルガード王国の国王、リチャード三世である」


 国王の声は力強く、威厳に満ちていた。

 立派な髭を蓄え、鋭い眼差しで四人を見つめている。

 まさに一国の王にふさわしい風格を備えていた。


 リクトの頭の中で情報が整理できずにいる。

 これって、よくある異世界転移の奴なのか?


「あの……異世界って、どういうことでしょうか?」


 アキラが代表して口を開いた。

 大神官ラフィムが杖を床に突いて説明を始めた。


「皆様は、我々の魔法によって、この世界に召喚されました。皆様のおられた世界とは異なる、魔法が存在する世界です」


 ユウセイが驚愕の表情を浮かべた。


「魔法?  そんなのファンタジー小説の中だけの話じゃ……」


「いいや、現実じゃ。そなたたちの力が必要なのじゃ」


 国王リチャードが厳かに言った。


「皆様をお呼びしたのには、理由がございます」


 アキラが震え声で尋ねた。


「理由って……何ですか?」


 大神官が深刻な表情になった。


「我が国に、いえ、この世界全体に大きな脅威が迫っています。邪悪な魔の神、魔神が復活の兆しを見せており、このままでは世界が滅亡してしまいます」


「魔神……ですか?」


「はい。古代に封印された恐ろしい存在です。我々だけでは到底太刀打ちできません。そこで、異世界から勇者をお呼びしたのです」


 大神官が力強く続けた。


「皆様には、勇者として魔神を討伐していただきたい。世界の平和のために」


 四人は顔を見合わせた。

 あまりにも突拍子もない話で、現実感が湧かない。


 大神官ラフィムが四人を見回した。


「まずは、皆様の勇者としての力を測定させていただきます。異世界から召喚された方々には、この世界のものにはない、特別な力が宿っているのです」


 神官は杖を振り上げ、何かを唱え始めた。

 古代語のような、聞き慣れない言葉が部屋に響く。

 すると、四人の前に光る石板のようなものが現れた。


「これは『能力測定の水晶板』です。手をかざすことで、あなた方の能力とスキルが明らかになります」


 リクトは興味深そうに石板を見つめた。

 ゲームのステータス画面みたいだと思った。


 コウが最初に前に出た。

 緊張した面持ちで、光る石板に手をかざす。

 瞬間、石板に文字が浮かび上がった。


 ─────────────────────


 神楽坂コウ レベル1


 火力:185,000 

 魔力:152,000 

 速度:167,000 

 防御:143,000


 スキル


【剣聖の素質】

【全武器習熟】

【戦闘本能】


 ─────────────────────


 大神官の目が輝いた。


「これは……! 剣聖の素質をお持ちとは! しかも全ての武器を達人レベルで扱える稀有な才能……この数値は伝説級です!」


 国王も感動の表情を浮かべる。


「素晴らしい! まさに伝説の勇者と呼ぶにふさわしい!」


 コウは自分の能力値を見て、満足げな表情を見せた。


 次にユウセイが石板に手をかざした。

 ─────────────────────


 田中ユウセイ レベル1


 火力:134,000 

 魔力:201,000 

 速度:156,000 

 防御:128,000


 スキル


【炎魔法・上級】

【氷魔法・上級】

【雷魔法・上級】


 ─────────────────────


 大神官が息を呑んだ。


「炎と氷、雷の三属性を高レベルで操れるとは……! しかもこの魔力値、20万超えとは前代未聞です!」


 国王も興奮を抑えきれない様子だった。


「これまた驚異的な才能だ! 魔術師として最高峰の素質を持っている!」


 アキラの番になった。

 眼鏡を押し上げながら、恐る恐る石板に手をかざす。


 ─────────────────────


 佐藤アキラ レベル1


 火力:145,000 

 魔力:176,000 

 速度:121,000 

 防御:234,000


 スキル


【不死身の肉体】

【高位治癒魔法】 

【蘇生魔法】


 ─────────────────────



 今度は大神官が腰を抜かしそうになった。


「不死身の肉体……! そして蘇生魔法まで……! 防御力23万とは……これは奇跡としか言いようがない!」


 国王も震えている。


「防御力が20万を超えるとは……! しかも死なない体と、他人を生き返らせる力まで……!」


 アキラは青ざめていた。

 不死身という言葉の重みに、恐怖すら覚えている。


 リクトは三人の数値を見て、素直に感心していた。


 (みんなすげーな……まさにチート級の能力じゃないか)


 最後にリクトの番が回ってきた。

 三人の仲間たちが、これまでにない超人的な能力を示している。

 リクトも期待と不安を胸に抱きながら、石板に手をかざした。


 石板が光り、文字が浮かび上がる。


 ─────────────────────


 森山リクト レベル1


 火力:3 

 魔力:5 

 速度:2 

 防御:4


 スキル


【地属性魔法・初級】


 ─────────────────────


 部屋に沈黙が流れた。


 リクトも思わず二度見した。


 え……? 

 3とか5って、桁間違えてない?


 大神官の表情が困惑に変わる。

 国王も呆気に取られている。

 そして、三人の仲間たちの視線がリクトに集中した。


 コウが最初に口を開いた。


「地属性魔法ってなんだよ……土いじりでもするのか?」


 軽蔑するような口調だった。

 コウの目には、明らかに失望の色が浮かんでいる。

 ユウセイも呆れたように言った。


「魔力5って……俺たちの4万分の1以下だぞ。これじゃあ魔法なんてまともに使えんだろ」


 冷たい視線がリクトを刺した。

 アキラも眼鏡を押し上げながら、辛辣な言葉を投げかけた。


「足手まといすぎる。これじゃあ勇者どころか、一般人以下じゃないですか」


 三人からの批判の言葉が、リクトに降り注いだ。

 確かに、数値だけ見れば圧倒的な差があった。

 他の三人が超人的な能力を持っているのに対し、リクトだけが平凡を通り越して最底辺という状況。


 大神官も困った表情を浮かべている。


「これは……少々予想外でした。召喚された勇者の中に、これほど能力値の低い方がいるとは……」


 国王も頭を抱えていた。


「魔神討伐には、強力な戦力が必要なのだが……」


 リクトは周囲の重苦しい雰囲気を感じながらも、肩をすくめた。


「まあ、こういうこともあるよね」


 リクトは苦笑いを浮かべながら、軽やかに言った。

 周囲の重苦しい雰囲気とは対照的に、リクトだけが平然としている。


 コウが眉をひそめた。


「お前、状況わかってるのか? 魔神と戦うんだぞ? その能力じゃ……」


「そんな地味でダサイ能力の上、ステータスまで終わってるなんてな……」


 ユウセイがぽつりと漏らす。


「……心から同情します」


 アキラも同じように呟いた。


「大丈夫大丈夫」


 しかしリクトは手をひらひらと振った。


「なんとかなるって」


 みんな呆れ顔でリクトを見つめている。

 この緊迫した状況で、なぜそんなに楽観的でいられるのか理解できなかった。


 でもリクトとしては、本当にそう思っているのだ。

 確かに数値は最低だけど、それですべてが決まるわけじゃない。

 きっと何か方法があるはずだし、自分にしかできないことがあるかもしれない。


(地属性魔法だって、使い方次第では役に立つかもしれないし)


 国王が思案顔で口を開いた。


「しかし……四人まとめて召喚したからには、何か意味があるはずじゃ。リクト殿も、せめて荷物持ちとして勇者パーティーに参加していただけないかな?」


 国王の言葉は丁寧だったが、明らかに戦力として期待していないことが伝わってきた。

 荷物持ち、つまり雑用係としての扱いである。


 しかしリクトは特に気にした様子もなく、にっこりと笑った。


「いいですよ! みんなの役に立てるなら、なんでもやります」


 コウたちはリクトの反応に困惑していた。

 普通なら屈辱的に感じるはずの提案を、なぜこんな軽々しく受け入れるのだろうか。


 大神官が安堵の表情を浮かべた。


「ありがとうございます。では、四人で勇者パーティーを結成していただきましょう」


 国王も頷き、大神官が四人を見回した。


「今夜は王宮でお休みください。明朝、装備と資金をお渡しします」


 侍従たちが現れ、四人をそれぞれの部屋へと案内していく。

 豪華な客室が用意されており、ベッドも調度品もすべて最高級だった。


 リクトはひとりになると、窓から外の景色を眺めた。

 見慣れない建物が立ち並び、魔法の明かりが街を照らしている。

 確かに、ここは日本とは全く違う世界だった。


「異世界かあ……」


 リクトは呟いた。

 不安がないわけではないが、むしろ冒険への期待の方が大きかった。

 新しい世界、新しい体験、新しい出会い。

 きっと面白いことがたくさん待っているに違いない。


 能力値が低いことも、それほど気にしていなかった。

 数字がすべてではないし、何事もやってみなければわからない。

 それが人生ってもんだ。


 隣の部屋からは、コウたちの話し声が聞こえてきた。


「リクトって奴、本当に大丈夫かな」


「足引っ張られるのは勘弁してほしいよ」


「まあ、荷物持ちなら問題ないでしょう」



 *



 翌朝、四人は王宮の謁見の間に集まった。

 国王から一人ひとりに武器と防具、そして旅費が手渡される。

 コウには見事な剣と鎧、ユウセイには魔法の杖と法衣、アキラには盾と聖職者の装束が与えられた。


 リクトには、簡素な革の鎧と短剣、そして大きな背負い袋が渡された。

 明らかに戦闘用ではなく、荷物運び用の装備だった。

 まあ、自分の能力値じゃこんなもんだろう、とリクトは納得していた。


「では、皆様の武運を祈っています」


 国王が厳かに言った。


「世界の平和は、皆様の手にかかっています」


 四人は王宮を後にし、街の門へと向かった。

 リクトは重い荷物を背負いながらも、軽やかな足取りで歩いている。


「さあ、冒険の始まりだね!」


 リクトの明るい声が、朝の街に響いた。

 コウたちは少し呆れながらも、一応頷いて応えた。


 街の門をくぐり、広い街道に足を踏み出した四人。

 遠くには険しい山々が見え、森の向こうには未知の世界が広がっている。


 リクトは空を見上げて、深呼吸をした。

 澄んだ空気が肺を満たし、新たな世界の風が頬を撫でていく。


「よし、頑張ろう」


 小さく呟いたリクトの言葉は、誰にも聞こえなかった。

 しかし、リクトの心には確かな決意があった。

 能力値は最低でも、自分にできることを精一杯やろう。


 そして、いつか必ず、自分の真の価値を証明してみせよう、と。

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