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地属性魔法を極めて森とか造ってたら、神と勘違いされました  作者: 豚汁


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11/15

プロポーズ?

 森での共同生活が始まってから、早いことで二ヶ月が経過していた。


 季節は夏の盛りから秋の気配へと移ろい、朝晩の風には冷涼さが混じるようになっていた。

 この期間、リクトは変わらずアブソーションを使い続けていた。


 朝の体操する問、木の根元に手をかざして森のエネルギーを吸収する。

 食事の準備をする間も、土に触れながら地面からの生命力を取り込む。

 シシリアと散歩をしている最中でさえ、歩きながら足の裏を通して大地の力を体内に取り込んでいる。


 もはやアブソーションは呼吸と同じレベルで、意識せずとも常に発動している状態だった。

 森のあらゆる場所から、絶え間なくエネルギーが身体に流れ込み続けている。

 木々の生命力、土壌の養分、大気中の魔素、すべてがリクトの魔力源となっていた。


 結果として、リクトの魔力総量は二ヶ月前とは比較にならないほど向上していた。当初は5だった魔力値が、今では体感的に数百倍以上にまで膨れ上がっている。

 まるで小さな水溜りが、溜池となり、巨大な湖に変貌したかのような劇的な変化だった。



 *



 この日の朝、リクトは散歩がてら森の洞窟へやってきていた。

 洞窟の奥は外界の音を遮断し、静寂に包まれていた。


 ポタ、ポタと鍾乳石から滴り落ちる水音だけが、規則正しいリズムを刻んでいる。

 洞窟の壁は湿気を帯び、触れると冷たい石の感触が指先に伝わってくる。

 空気は外よりもひんやりとしていて、吸い込むたびに肺の奥まで涼しさが染み渡っていくようだ。


 洞窟の奥深くで、リクトは両手を地面につけてアブソーションを発動した。

 すると、これまでとは明らかに異なる感覚が襲ってきた。


 地面の下、深い深い地層の向こうから、今まで感じたことのない種類のエネルギーが流れ込んでくる。

 それは土や木々の生命力とは質の違う、もっと硬質で結晶化したような、鉱物特有の冷たく鋭いエネルギーだった。

 リクトの脳裏に、突然新しい知識が流れ込んできた。


「鉱脈探知……」


 リクトは目を見開いた。

 頭の中に浮かんだ新しい魔法の概念を理解すると同時に、洞窟の周囲に散らばる様々な鉱物の在り処が、まるで発光するビーコンのように見えるようになっていた。


 洞窟の壁の向こう、地下数メートルの地点に、キラキラと輝く光の点々が無数に散らばっているのが見える。

 それぞれの光は色合いが異なり、含有する鉱物の種類を表しているようだった。

 青い光は銅鉱石、黄色い光は金、赤い光は鉄鉱石……そして、特に目を引く虹色に輝く光の塊もいくつか確認できた。


「すごい……これって宝石の在り処が見えてるってことか?」


 もしかすると、この【鉱脈探知】という魔法で高品質な宝石を採掘できるかもしれない。

 洞窟から戻ったリクトは、早速シシリアに報告した。


「シシリア、すごい魔法を覚えたんだ。鉱脈探知っていって、地下の鉱石や宝石の在り処が見えるようになったんだよ」


 シシリアは目を輝かせた。


「宝石を?」


「そう。シシリアは宝石とか好き? 女の子ってさ、そういうの好きなイメージあるな。あんまり詳しくわからないけど」


「私……宝石なんて見たことない。村にいた時も、そんな高価なもの持ってる人いなかったし……」


「じゃあ、一緒に探しに行こう。きっと綺麗な宝石が見つかるよ」


 昼、二人は鉱山への探索に出かけることにした。

 朝霧がまだ山間に漂う中、二人は山道を登っていく。

 シシリアは簡単な装備を身につけ、リクトは地属性魔法で生み出した道具と採掘用の黒曜石の刃を携えていた。


 山の斜面を登るにつれて、空気が薄くなり、気温も下がってくる。

 森の麓では温暖だった空気が、山の中腹では肌寒く感じられるほどだった。

 二人の息は白く小さく煙り、吐息が空気中で小さな雲を作っては消えていく。


 鉱山の入り口に到着すると、そこには自然の洞窟が口を開けていた。

 洞窟の入り口は人がかがんでようやく通れるほどの大きさで、奥は暗闇に包まれている。


 外の明るい陽光と対照的に、洞窟内部からは冷たい空気が流れ出してきて、顔に触れると背筋がぞくりとした。

 湿った土と古い岩の匂いが混じった、地下特有の重い空気が鼻腔を満たす。


「ちょっと寒い……」


 シシリアが小さく身を寄せてきた。

 確かに洞窟内は外気温より数度低く、特に風の通り道になっている部分では、まるで天然の冷蔵庫のような冷気が漂っている。


 リクトは彼女の震える様子を見て、すぐに自分が羽織っていた上着を脱いだ。


「ほら、これ着なよ」


 リクトは上着をシシリアの肩にそっとかけてあげた。

 まだ体温が残っている布地が、彼女の小さな肩を包み込む。

 上着は彼女には少し大きすぎたが、それがかえって全身をしっかりと覆い、冷気から守ってくれた。


「あ、ありがと……リクト」


 シシリアは頬を少し赤らめながら、上着の襟元を握りしめた。


「リクトは寒くない?」


「大丈夫だよ。俺は体温高いし。……それより、すごいぞこりゃ」


 リクトが【鉱脈探知】を発動すると、洞窟内の様子が一変した。

 暗闇に包まれていた洞窟内部が、まるでクリスマスのイルミネーションのように無数の光点で彩られて見える。


 壁の向こう、岩盤の奥、足元の地面の下……至る所に様々な色の光が点滅している。

 青、赤、黄、緑、そして特に美しい虹色の光……それぞれが異なる鉱物を表している。


「あそこに大きな虹色の光が見える。きっと質の良い宝石があるはずだ」


 リクトは光の集中している壁面を指差した。

 シシリアには何も見えないが、リクトの確信に満ちた表情を見て頷く。


「精密削岩」


 リクトが魔法を発動すると、固い岩盤に正確な切れ込みが入っていく。

 まるで熟練の石工が長年かけて削ったかのような、美しく滑らかな切断面が現れる。削られた岩屑は魔法によって自動的に除去されていく。


 岩の粉塵が舞い上がるたびに、シシリアが小さくくしゃみをする。

 洞窟内に響く可愛らしい音が、静寂を破って山の奥深くまで木霊していく。


「掘削・連続貫通」


 さらに深く掘り進めるため、リクトは連続して魔法を発動する。

 岩盤に穴を開ける作業は本来なら重労働だが、魔法の力があれば驚くほど簡単だった。


 ゴリゴリと岩を削る音が洞窟内に反響する。

 硬い岩盤が魔法の力で次々と砕かれ、粉状になって崩れ落ちていく。


「おっ」


 作業を続けること数十分。

 ついに、虹色の光の正体が姿を現した。


 削り取られた岩盤の奥から、眩いほどに美しい宝石が顔を覗かせている。

 それは透明度が高いダイヤモンドの原石だった。

 人の握り拳ほどもある大きさで、自然の造形とは思えないほど美しい八面体の形状をしている。


「うわあ……すごい……」


 シシリアが感嘆の声を上げた。

 洞窟の薄暗い中でも、ダイヤモンドは自ら光を放っているかのように輝いて見える。

 まるで星の欠片が岩の中に閉じ込められていたかのような、神秘的な美しさだ。


 しかし、これで終わりではなかった。

 ダイヤモンドの周囲を更に掘り進めると、エメラルド、ルビー、サファイアといった宝石が次々と発見された。


「信じられない……こんなにたくさん……」


 シシリアは宝石の美しさに見惚れていた。

 光が宝石の内部で屈折し、壁や天井に七色の光の模様を描き出している。

 洞窟全体がまるで万華鏡の中にいるような、幻想的な空間に変貌していた。


 リクトは採掘した宝石の中から、特に美しいダイヤモンドを一つ選び出した。


「これを加工してみよう」


 透明度が抜群で、内部に一切の曇りがない完璧な結晶だった。


「研磨・完全対称カット」


 リクトが魔法を発動すると、ダイヤモンドの原石が美しく変化していく。

 表面の粗い部分が削り取られ、光を最大限に反射する理想的なカット面が次々と現れる。

 58面の完璧なブリリアントカットが施され、宝石は眩いほどの輝きを放ち始めた。

 続いて、指輪の土台部分を作成する。


「鉱脈探知……おっ、あったあった」


 地属性魔法の応用で、地中深くから金の鉱脈を探り当て、純度99.9%の金を抽出する。

 その金を魔法で加工し、上品なデザインの指輪台を形成していく。

 表面は鏡のように磨き上げられ、ダイヤモンドを支える爪部分も精密に計算されて作られている。


 完成した指輪は、神々しいほどに輝いていた。

 まさに王家の宝物庫にあってもおかしくない、最高級の宝飾品。


「シシリア、これ……君に一番似合うと思うんだ」


 リクトはダイヤモンドの指輪を、シシリアの前に差し出した。


「俺からの贈り物」


 その言葉を聞いた瞬間、シシリアの表情が凍りついた。

 目を大きく見開き、口をぽかんと開けたまま硬直している。

 頬は見る見るうちに真っ赤に染まり、耳の先まで赤くなっていく。


「え、ええええっ!?」


 シシリアの絶叫が洞窟内に響き渡った。

 その声は何度も反響し、まるで山の精霊たちも驚いているかのような音の波となって洞窟の奥へと消えていく。


「わ、わたしまだ7歳だし……そういうのは早いっていうか……」


 シシリアは両手で顔を覆いながら、もじもじと体をくねらせている。

 指の隙間から覗く目は、恥ずかしさと困惑で潤んでいた。


 プロポーズ……まさか、リクトが私にプロポーズを……。


 そんな考えが頭をよぎると、シシリアはさらに動揺してしまった。

 確かにリクトは優しくて、一緒にいると安心できて、頼りになる人だった。

 でも、まだ知り合って二か月ほほどだし、結婚なんて考えるには早すぎる。


「?」


 一方、リクトは首を傾げていた。


 シシリアの反応が全く理解できなかった。

 なぜ指輪を渡そうとしただけで、こんなにも動揺しているのだろうか。

 単純に、綺麗な宝石を身につけてもらいたかっただけなのに。


「指、出して」


 リクトは困惑しながらも、とりあえず指輪のサイズを合わせようと思った。


「……うん」


 シシリアは恥ずかしそうに、躊躇いがちに薬指を差し出す。

 その指は小さく華奢で、繊細だとリクトは思った。


「なるほど、なるほど……」


 リクトは指のサイズを慎重に測定した。

 シシリアの薬指の太さを正確に把握すると、地属性魔法で指輪の内径を微調整していく。


「研磨・サイズ調整」


 指輪が、シシリアの指に完璧にフィットするよう形を変えていく。

 きつすぎず、緩すぎず、指にストレスを与えることなく、それでいて外れる心配もない理想的なサイズに調整される。


 そして、調整された指輪をシシリアの薬指にそっと滑らせた。


「綺麗だよ」


 リクトは満足そうに微笑んだ。

 指輪はシシリアの細い指に完璧に収まり、ダイヤモンドが洞窟の薄明かりを受けて美しく輝いている。


 シシリアは自分の手を見つめていた。

 指先に光る宝石は、これまで見たことのないほど美しく、自分の指にあることが信じられなかった。


 光の角度が変えるたびに、ダイヤモンドは異なる色合いの輝きを見せ、まるで生きているかのように表情を変える。


「こんな……こんな綺麗な物……私なんかが身につけても、似合わない……」


「似合ってるよ。君に、すごく似合ってる」


 リクトの言葉に嘘はなかった。

 シシリアの華奢で美しい手に、ダイヤモンドの指輪は完璧に調和していた。


 シシリアは指輪を見つめながら、胸の奥で何かが温かくなるのを感じていた。

 これまでの人生で、こんなに美しい物を身につけたことは一度もなかった。


 家族を失い、故郷を奪われ、奴隷として扱われた辛い日々……そんな過去の自分に、こんな宝石を身につける日が来るなんて想像もしていなかった。


 でも今、指先に光る宝石を見ていると、過去の辛さも少しずつ和らいでいくような気がした。

 リクトと出会えて、この森で安らかな日々を過ごせて、そして今、こんなに綺麗な物をもらえて……。


「ありがとう……リクト」


 言葉にできない複雑な感情がシシリアの声には込められていた。


「どういたしまして」


 リクトは柔らかく微笑む。


 シシリアは指輪をつけた手を胸に当てた。

 宝石の冷たい感触が、胸の高鳴りと不思議な対比を見せている。

 心臓の鼓動が早いのは、洞窟の冷気のせいなのか、それとも別の理由なのか……自分でもよくわからなかった。


 ただ一つ確かなことは、この指輪を受け取った今、リクトとの絆がより深くなったような気がするということだった。

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