シュレディンガーの???
「つまり、時の館の主人に復讐するってこと」
女は僕に近づき、頷く。
「賢い子で助かるわ。
協力してくれる」
「……」
別に協力する理由もないし、断る理由もない……。
「もし協力せずにいても、つまんないと思うよ」
「確かにね。協力するよ。でも、あくまで協力関係だから」
かくして、僕たち二人の旅が始まった。
この時はまだ、この先に待ち受けるものは何かなんて、気にしてもいなかったけど。
「『シュレディンガーの猫』って、知ってる?」
とりあえず歪な倒木に座って、女がそう切り出した。
「なにそれ」
「私もよく知らないけど、ちょっと説明させて。
なんか化学絡みの話もあるけど、そこはぼかさせて。
まずは箱の中に猫と、猫にランダムで起こる事象を検知して殺す装置……これの説明は割愛するけど、を用意して、しばらくおいておくの。
その後、箱を開けたら」
「猫は生きてるか死んでるかでしょ」
「そうね。
じゃあ、猫が生きてるか死んでるか決まるのは」
「もう覗く前から決まってるでしょ」
「ムルル君はそっちなのね。ありがとう」
真意が全く分からないけど、特にやることもないし。大人しく話の流れに乗っていた方が良いだろう。
「さてと」
女が立ち上がる。
「まずは、やってみないとね」
女の後ろに付いて歩くと、別の人間がいた。
「あれを倒すの。ムルル君なら出来るでしょ」
「生きてる間に散々やらされたんだけど」
女は少しの沈黙の後、口を開いた。
「じゃあ、なんでこの作業が必要か、教えてあげる。
あなたは、時の館の主人を見たの」
「見たけど、なんか、モザイクがかかってるみたいだった」
「そう。あの世界のあいつには、実体がないの」
「レッドみたいなアレなの」
「ちょっと違うわ。
あいつの本体は、この世界にある」
「なんで分かるんだ」
「あなたもいずれ感じるようになるわ。
今はこの世界独特の妖気に慣れてないだけ」
つまり、何かしら時の館の主人にやれると言う事なのだろうか。
「でも、戦って勝てる相手とは思えないけど」
「だからこそ、ここにいる人たちの助けが必要なの。想いの記憶は、本当の人間の心を動かす力があるからね」
「じゃあ、なんで倒すんだよ」
「見れば分かるわ」
先程から視界の中にいる人間は、空を見上げてばかり。こちらには構おうとしない。
「私たちみたいに死んだ自覚がないと、こうなっちゃうのよ」
「だから、無理矢理叩き起こそうって訳か」
「まぁ、そうなるわね」
どうにも不可解なことは多い。
でも、この可能性に賭けてみる価値はありそうだ。




