沈むモノ上げるモノ
女は元々そこにある何かをなぞる様に、指で空に何かを描く。僕にはそれは見えないし、特に意味も無さそうだった。
「ムルル君はさ、何がしたかったの」
「なんだよ急に」
女は空を見るばかり。
「未練がなきゃ、こんなとこ来ないよ」
「うるさいな、言われる筋合いはない」
「元通りにしたかったとか」
「知らないね」
「自由が欲しかったとか」
「あってない様なものでしょ」
「それとも」
女はようやくこちらを向く。
「殺して欲しかったのか」
青白い肌、濁った瞳。
つくづく、相手は死者なんだと思い知らされる。
「僕はすごく自分勝手な人間ってことになるじゃん」
「そうだと思ったけど」
不思議だ、不気味だ。
でも、心の隙間を辿って奥底を突かれた様な、鈍い痛みが走った……気がした。
もし、女の言ったことが本当なら、僕は……。
いや、相手は一般的なことを並べただけなのかもしれない。
女は顔を近づけて来る。
「ここにいるとあっちのことは分かんないけどさ、どうせまた、戦争とかしてるんだと思うの。
君が何で死んだのかは知らないけど、すっごく、後悔してる様に見える」
「それでどうした」
「『やってしまったこと』と『させてしまったこと』。
それが絡まりあって、解けなくなって……
君を下へ下へと引き摺り込んでいく」
なんでかはわからないけど、けど、胸の奥がゾワゾワする。
背中がひりつく。
「それを終わらせるために、殺して欲しかったんじゃないの」
「なんでも良いだろ」
やっぱり、僕は最低だった。
ライトさんは、多分、僕が知ってる中で一番、殺しを嫌う人だ。
でも、あの人は、分かっちゃったんだろう。
僕の人生は、どう選択しても沈んでいくしかない、“詰み”ってやつだったことに。
「君を殺した人間は、最後、どんな顔してたんだろうね」
「こっからあっちが分かんないっての、嘘だろ」
「バレてたか。
うん、そうだよ。だからね、
『一発逆転』してみない」
「なんだそれ。
化けて出てやろうってか」
「ううん。
あなた、一番嫌いな人、誰」
「知らないよ。
せめて言うなら、僕から全てを奪ったあいつを許す気はないけど」
「どんな人なの」
「トチ狂った研究者だよ」
「でも、その人が裏で糸引かれてたとしたら」
「関係ないね。
それだと、僕もその言い訳ができる」
「でも、雑草って葉っぱをいくら抜いても意味ないかもよ」
「何が言いたい」
「だからさ、根っこ全部引き摺り出して、外の人間にグチャグチャに踏んでもらおうよ」
女は自分の指で口角を上げた。




