one
あれから、どれだけの時間が経ったんだろうか。
暗い暗い、道を歩いていた記憶が積み重なっていた。
景色が変わった。
太陽と月は共にあり、地面とも天ともつかないものが上下にある。
奇妙な場所だ。
でも、横を見渡せば様々な建物が自由な角度で乱立し、遥か彼方まで広がっているようだった。
……そもそも、自分の脚が短い。
手も小さい。
顔を触ってみると、柔らかい。
これ、子供に戻ってる……のか?
僕が自分の姿を把握していると、綺麗な黒髪が視界に飛び込んでくる。
「あら、新入りさんね」
その女は、灰色で瞳を染め、輝くことも瞳孔を描く事もしない。
耳も髪の毛と同化しているのか、確認出来なかった。
余りに謎めき過ぎている。
ただ、これがこの世界の住人の特徴なのかもしれない……。
「あなたはどうやって死んだの」
「人を殺したから殺された。それだけ」
自分から発せられたのは思ったより抑揚の無い声。
「そっか。大人の楽しみも知らずに死んだのね」
「なんで分かるんだよ」
「あなたの今の姿が、『一番幸せだった時』の姿。それだけ」
この姿の時……僕は、二人の兄ちゃんと過ごした時が一番幸せだったのか?
一方の女は、特に特徴もなく。
ただ、服は胸元が開き気味のワンピース。
恋人と一緒にいた時なのだろうか。
「名前なんての」
「ムルル」
「変わった名前ね」
「なんだって良いだろ」
話しても女は微笑を湛えたまま。西洋人形の様な不気味さがあった。
「お願いがあるんだけど」
「何」
「手伝って欲しいの。『魂の記憶』を集める」
「それをして何になるんだ」
「逆にあなた、これから退屈になるわよ」
「人生の中で退屈する事自体無かったから大丈夫」
と会話を終わらせるようにそっぽを向いて歩き出す。
「まさにそっちにあるの」
「じゃあこっち」
僕は反対方向を目指す。
「そっちには二個」
「どこに無いんだよ」
「至る所にあるわ。量が多すぎて一人じゃ大変なの」
「手伝う理由もないんだけど」
「私、あなたのお兄さん知ってるわ。ハクムでしょう」
「なんで知ってんだ」
「あの人ムルル君の話ばっかりだったから」
なんと、兄ちゃんの知り合い?
でも怪しい。どうする。
「ムルル君。これはね、物語に“救い”をもたらす数少ないチャンスなの」
「さっきから意味分かんないことばっかり言ってるし」
「前も色んな人が手伝ってくれたよ。みんな満足していなくなっちゃったけど」
「まだあんたを信用できない。でも、話だけ、聞かせてくれ」
「勿論。そうこなくちゃ」




