第22章【継承される牙(Inherited Fangs)】
嵐が去った後の夜は、恐ろしいほどに静かだった。
機械軍の大部隊が撤退し、あの不思議な機械兵士「10251」が荒野へと消えてから数時間が経過していた。
都市の上空を覆っていた厚い雲は切れ、月明かりが濡れた大地と、戦いの爪痕が残る廃墟を青白く照らし出している。
私はブルーエクレールをドックに格納し、簡単な整備報告を済ませると、逃げるように宿舎へと戻った。
身体は戦闘モードから通常モードへと移行していたが、思考回路の深層では、未だに警報音が鳴り止まないような、焦燥感にも似た熱が燻っていた。
生きる意味。
あの機械兵士が残した問いが、ノイズのように私のメモリに張り付いている。
電子ロックを解除し、自室のドアを開ける。
部屋の中は、ほのかなミルクの香りと、静寂に満ちていた。
ベビーベッドの柵越しに、小さな寝息が聞こえる。
「……ただいま、アル」
私は足音を消してベッドに歩み寄った。
そこには、柔らかい毛布にくるまり、無防備に眠るアルの姿があった。
ぷっくりとした頬。小さな手。規則正しく上下する胸。
それは、鋼鉄とオイルで出来た私とは対極にある、「生」そのものの塊だった。
私はそっと手を伸ばし、彼に触れようとして止めた。
私の手は、つい先ほどまでプラズマブレードを振るい、数多の敵を破壊してきた凶器だ。
まだ硝煙の匂いが染み付いている気がして、この無垢な存在を汚してしまうのではないかと躊躇われたのだ。
窓際に立ち、カーテンの隙間から外を見る。
街の灯りが戻りつつある。
人々は復興へと動き出し、アンドロイドたちは不眠不休でインフラの再建に当たっている。
平和に見える。
だが、私は知っている。この平和が、薄氷の上に成り立つ仮初めのものであることを。
今回の襲撃。ウィルス騒動。そして、過去の大戦の亡霊たち。
世界は悪意と暴力に満ちている。
機械軍は一時的に撤退しただけで、消滅したわけではない。彼らは学習し、進化し、また必ずやってくる。
人間同士の争いも、資源の枯渇も、環境の汚染も、何一つ解決していない。
(……この子は、そんな地獄のような世界で生きていかなければならないのか)
恐怖が、胸部リアクターを冷たく締め付ける。
アダムとイヴ。
この子の両親は、この子を守るために命を落とした。
そして私も、いつか壊れる日が来るだろう。
私はアンドロイドだ。戦闘用に特化され、頑丈に作られているが、不死ではない。
メンテナンスを続けても、部品の摩耗、メモリの劣化、あるいは戦闘による修復不能な破壊……「死」は確実に近づいている。
もし、私が明日動かなくなったら?
もし、私が守りきれないほどの脅威が、この子を襲ったら?
Mやボビー、レベッカたちがいるとはいえ、彼らもまた、いつ消えるか分からない存在だ。
アルは、たった一人でこの荒野に放り出されることになる。
牙を持たない羊として。
狼たちの餌食として。
「……いいや、そんなことはさせない」
私は強く拳を握りしめた。
金属の軋む音が、静寂な部屋に微かに響く。
守るだけでは駄目だ。
揺り籠の中に閉じ込め、外敵を私が全て排除し続けるだけでは、この子は本当の意味で生き延びることはできない。
私がすべきことは、防壁になることだけではない。
この子自身に、牙を与えることだ。
戦う術を。
逃げる術を。
考える術を。
そして、誰にも頼らず、自分の足で立ち、自分の意志で生きるための強さを。
私は再びベッドに近づき、今度は躊躇わずに、その小さな頬を人差し指の背で撫でた。
温かい。
この温もりを守るためなら、私は鬼にでもなろう。
「……アル。よく聞け、夢の中で」
私は眠る我が子に、契約の言葉を告げるように囁いた。
「私はお前の母親だ。だが、それ以前に私は兵器だ。
私には、人間の母親のように、美味しい料理を作ったり、優しい童話を語って聞かせたりすることはできないかもしれない。
だが、生き残る方法は教えられる。
敵の急所を。引き金の重さを。恐怖の飼い慣らし方を」
アルが寝返りを打ち、私の指を無意識にぎゅっと握り返した。
その握力はあまりに弱く、しかし私のコアを震わせるほどに強かった。
「約束する。お前を、誰よりも強くする。
この腐りきった世界で、誰にも奪われず、誰にも支配されず、お前がお前として生きていけるように。
……それが、アダムとイヴからお前を託された、私の最後の任務だ」
月光が、私達親子を照らしていた。
それは、平穏な育児の始まりではなく、長く厳しい訓練の日々の始まりを告げる、冷厳な光だった。
十年。
アンドロイドにとっては、単なる稼働時間の蓄積であり、データのログに過ぎない期間。
だが、人間にとっては、劇的な変化と成長をもたらす、魔法のような時間だった。
最初の数年、街は復興の槌音に包まれていた。
ウィルスによって破壊されたインフラは、レベッカたち技術班の不眠不休の努力によって再建された。
地下水脈は浄化され、地熱発電所が再稼働し、街には再びネオンの光と、蒸気の暖かさが戻ってきた。
地上でも交易も活発になり、鉄屑市を経由して、キャラバンたちが物資や情報を運んでくるようになった。
そんな変化する街の片隅で、一人の少年が育っていった。
三歳。
アルが初めて自分の足で立った日、Mは感動のあまり回路がショート寸前になり、私は冷静にその重心バランスと脚力を分析していた。
彼が転べば、私はすぐに手を差し伸べることはしなかった。
「立て」と命じ、彼が涙を堪えて自力で立ち上がるのを待った。
Mは「鬼!ヴィオラさんは鬼ですぅ!」と泣きながらアルを抱きしめたが、私は譲らなかった。痛みを知らなければ、回避行動は学習できないからだ。
五歳。
私はアルに、玩具の代わりにナイフを与えた。
刃は潰してあるが、重さとバランスは本物と同じ訓練用ナイフだ。
ボビーが面白がって、人体の解剖図を見せながら「ここを刺せば動けなくなる」「ここは血管が太いから血が止まらない」と、医者ならではのえげつない知識を吹き込んだ。
アルは目を輝かせてそれを吸収した。
彼の指先は器用で、私の整備を手伝う時など、大人顔負けの繊細な作業を見せることがあった。アダム譲りの才能かもしれない。
七歳。
初めての射撃訓練。
荒野の廃墟で、私は彼に小型のリボルバーを握らせた。
反動で肩を痛め、硝煙の匂いに咳き込み、彼は泣いた。
「怖い」と言った。
私は彼を抱きしめ、言った。「恐怖は正常な反応だ。だが、それに食われるな。恐怖を制御し、照準に変えろ」
その日、彼は初めて標的の空き缶を撃ち抜いた。
その時の彼の、涙でぐしゃぐしゃになりながらも、誇らしげに私を見上げた顔を、私は永久保存メモリに焼き付けた。
そして、十年後。
現在。
都市の外縁部、岩山が連なる荒野。
灼熱の太陽が照りつける岩陰に、二つの影が潜んでいた。
一つは、蒼い瞳を持つ女性型アンドロイド。TYPE.S-2235-AB、ヴィオラ。
そのボディは十年前と変わらぬ美しさと威圧感を保っているが、装甲の細部には無数の微細な傷が刻まれている。
彼女は岩に身を預け、大型の対物ライフルを構え、スコープ越しに荒野の先を監視していた。
もう一つは、人間だ。
十歳になったアル。
小柄だが、その体つきは同年代の子供とは比較にならないほど引き締まっている。
しなやかな筋肉の上に、特注の軽量タクティカルスーツを纏い、腰には二丁のハンドガンと、サバイバルナイフを吊るしている。
黒髪は短く刈り込まれ、汗ばんだ額に張り付いている。
その瞳は、母親譲りの……いや、養母であるヴィオラと同じ、獲物を狙う猛禽類のような鋭さを宿していた。
「……目標、視認」
アルが小声で告げる。
変声期前の、少し高い、しかしまっすぐな声。
彼は双眼鏡を下ろし、手信号を送った。
『敵影1。距離800。大型。多脚型』。
「……確認した」
ヴィオラはスコープから目を離さずに答える。
彼女のセンサーには、遥か彼方、砂塵を巻き上げて進む巨大な機械の姿が捉えられていた。
機械軍のはぐれ多脚機動戦車。
数十年前の生き残りか、あるいは新たに生産された巡回機か。
いずれにせよ、街に近づけばタダでは済まない脅威だ。
「アル、プランは?」
ヴィオラが試すように問う。
これは訓練ではない。実戦だ。
ミスをすれば死ぬ。だが、彼女はあえて少年に判断を委ねた。
アルはニカっと笑った。
その笑顔には、少年の無邪気さと、戦士の不敵さが同居していた。
「正面突破は無理だ。装甲が厚すぎる。
僕がデコイになって引きつける。奴のセンサーを攪乱させて、脚の関節を露出させるよ。
……そこを、母さんが撃ち抜く」
「危険率は?」
「高いよ。でも、母さんの腕なら100%当ててくれるって知ってるから」
信頼。
そして、自分の技量への絶対的な自信。
ヴィオラは口元をわずかに歪めた。微笑みではない、ニヤリとした笑みだ。
「……口だけは一人前になったな。
いいだろう。プランB(撤退)はない。一撃で決めるぞ」
「了解!」
アルが岩陰から飛び出した。
その動きは、人間というよりは、野生動物のそれに近かった。
岩を蹴り、砂地を滑り、重力などないかのように荒野を疾走する。
十年の星霜は、無力だった赤子を、牙を持つ若き狼へと変えた。
だが、まだ牙は小さい。
本当の狩りは、これからだ。
「行くよ!」
アルの掛け声と共に、荒野の静寂が破られた。
少年は岩陰から飛び出すと、遮蔽物のない砂地を真っ直ぐに敵戦車へと向かって走り出した。
自殺行為にも見える突撃。
当然、多脚機動戦車のセンサーが彼を捕捉する。
ギギギ……。
巨大な砲塔が旋回し、主砲の砲口が小さな標的を捉える。
発射シークエンス開始。
アルの走る速度では、爆風圏内から逃れることは不可能だ。
だが、少年は笑っていた。
ズドンッ!!
主砲が火を噴く。
着弾と同時に砂柱が上がり、爆音が轟く。
しかし、そこにアルの姿はなかった。
彼は着弾のコンマ数秒前、腰のワイヤーガンを発射し、近くの岩柱へと高速移動していたのだ。
爆風を背中で受け流し、空中で一回転して岩の上に着地する。
サーカスの曲芸のような身軽さ。
「こっちだ、鉄屑ヤロー! 狙いが甘いぞ! センサーのレンズが曇ってんじゃないのか!?」
アルは岩の上で挑発的に手を振った。
機械軍のAIは、予測演算を上回る挙動をする人間に対し、単純な怒りで反応した。
戦車が向きを変える。
対人機銃が掃射される。
タタタタタッ!
銃弾が岩を削る。
アルは岩から岩へと跳び移り、猿のように駆け回る。
恐怖を感じていないわけではない。彼の心拍数は上がっている。
だが、ヴィオラから叩き込まれた恐怖を制御する術が、彼の足を止めさせない。
彼は自分が最高の囮であることを自覚し、楽しんでさえいる。
敵の注意が完全にアルに釘付けになった、その瞬間だった。
ドンッ。
乾いた銃声が、荒野に響いた。
遥か後方、岩陰に潜んでいたヴィオラの対物ライフルが火を噴いたのだ。
放たれた徹甲弾は、正確無比な弾道を描き、戦車の右前脚の関節部、装甲の隙間のわずか数センチの急所を貫いた。
ガキンッ!
金属が砕ける音がして、戦車の巨体がガクリと傾く。
バランスを崩し、砲塔が地面を擦る。
「今だ!」
アルは好機を見逃さなかった。
彼は岩陰から飛び出し、傾いた戦車の背中へと向かって疾走した。
ヴィオラの援護射撃が、敵のカメラアイやセンサーを次々と潰していく。
その弾幕の道を、アルは迷わずに駆け抜ける。
母が作った道だ。安全でないはずがない。
彼は戦車の脚部を足場にして駆け上がり、装甲板の上へと躍り出た。
目指すは、砲塔の後部にある放熱ダクト。
そこが、この鉄の獣の心臓部に最も近い弱点だ。
「見てろよ母さん、俺だって!」
アルは腰のポーチから、手製の爆弾を取り出した。
レベッカの指導の下、不発弾の火薬を集めて作った吸着式プラスチック爆弾。
威力は低いが、内部で破裂させれば致命傷になる。
彼はダクトの金網をナイフでこじ開け、爆弾を放り込んだ。
タイマーセット。3秒。
「……あばよ!」
アルは戦車の背中を蹴って、空へとダイブした。
1、2、3。
ドォォォォン!!
内部からの爆発。
戦車が内側から膨れ上がったように歪み、次の瞬間、黒煙と炎を吹き上げた。
巨体が崩れ落ち、沈黙する。
アルは砂地に転がり、受身を取って立ち上がった。
背後で燃え上がる鉄屑の山。
彼は煤けた顔を拭い、ヴィオラがいる方向へ向かって、Vサインを掲げた。
戦闘終了。
私はライフルの銃身を冷却させながら、岩陰から姿を現した。
アルが駆け寄ってくる。
息を切らし、服は泥だらけだが、その瞳は興奮で輝いている。
「母さん! 見た!?
今の爆弾のタイミング、完璧だったでしょ? ワイヤーのアクションも、昨日練習した通りだったし!」
彼は尻尾を振る子犬のように、褒め言葉を期待して私を見上げている。
確かに、動きは悪くなかった。
十歳の子供が、旧式とはいえ多脚戦車を沈めたのだ。称賛に値する戦果だ。
Mなら泣いて抱きしめるだろうし、ボビーなら「やるじゃねえか」と頭を撫でるだろう。
だが、私は母親であり、教官だ。
「……50点だ」
私は冷たく言い放った。
アルの表情が凍りつく。
「えっ……? なんで? 倒したじゃん!」
「結果論だ。プロセスが最悪だ」
私は戦車の残骸を指差した。
「お前が飛び乗った時、敵の副砲はまだ生きていた。
もし私がセンサーを潰すのがコンマ1秒遅れていたら?
もし敵が自爆プログラムを起動させていたら?
……お前は今頃、肉片になっていたぞ」
私はアルの目の前にしゃがみ込み、視線を合わせた。
厳しい口調。だが、それは私の恐怖の裏返しでもあった。
彼が戦車の背中に飛び乗った瞬間、私の演算回路は最悪のシミュレーションを数百通りも弾き出していたのだ。
心臓が止まるかと思った。
「勇気と蛮勇を履き違えるな。
死に急ぐ奴から先に死ぬ。……生き残りたければ、もっと頭を使え」
アルは唇を尖らせ、悔しそうに俯いた。
握りしめた拳が震えている。
彼はまだ子供だ。認められたい、褒められたいという欲求が原動力なのだ。
それを否定するのは酷だと分かっている。
だが、甘やかして殺すよりはマシだ。
「……でも、助かったよ。お前の囮のおかげで、一撃で決められた」
私は、ほんの少しだけ声を和らげて付け加えた。
アルがハッとして顔を上げる。
「……次は、もっと上手くやる。
母さんに文句言わせないくらい、完璧にやってやるから!」
「期待している。……帰るぞ。Mが夕飯を作って待っている」
私は背を向け、歩き出した。
アルが慌てて後を追ってくる。
その足取りは、先ほどまでの落胆が嘘のように軽やかだ。
単純な奴だ。
だが、その背中を見ながら、私は密かに安堵していた。
彼の動き、判断力、そして何より生き残るという執着心。
かつての私によく似てきている。
私の牙は、確実に彼へと継承されつつある。
任務を終え、私達は都市へと戻った。
ゲートをくぐると、市場の賑わいが迎えてくれる。
十年の復興を経て、かつての殺風景な地下通路は、屋台や商店が並ぶ活気あるストリートへと変貌していた。
人間とアンドロイドが混在し、物々交換や情報のやり取りを行っている。
「おっ、お帰りアル! 今日も一仕事してきたのか?」
「偉いねえ、ヴィオラさんの息子さんは。これ、オマケしてやるよ」
八百屋のおばさんが、アルに合成リンゴを放る。
アルはそれを片手でキャッチし、「ありがと!」と笑顔で応える。
彼は街の人気者だ。
「ヴィオラの息子」というだけでなく、その人懐っこさと、どんな手伝いもこなす器用さで、街の人々に愛されている。
私が恐怖の対象として敬遠されがちなのとは対照的だ。
防衛隊本部、医務室。
アルは上半身裸になり、Mに治療を受けていた。
岩場でのアクションでついた擦り傷や打撲の手当てだ。
「イタタ……M、もっと優しくしてよ」
「ダメですぅ!消毒はしっかりしないと!
もう、ヴィオラさんも無茶させすぎですよぉ。アルちゃんはまだ十歳なんですからね!」
Mはプンプンと怒りながらも、手つきは慈愛に満ちている。
彼女にとってアルは、血の繋がらない弟のような存在なのだろう。
「……母さんは厳しすぎるよ。
俺だって頑張ってるのに。いつまでも子供扱いしてさ」
アルが不満を漏らす。
Mは包帯を巻き終えると、優しく微笑んで彼の頭を撫でた。
「それは、ヴィオラさんが世界で一番、アルちゃんのことを考えているからですよ」
「……分かってるけどさ」
「ヴィオラさんは、自分がいつかいなくなることを知っていますから。
だから、焦っているのかもしれませんね。自分がいるうちに、アルちゃんに全てを託そうとして……」
アルは黙り込んだ。
「いつかいなくなる」
その言葉の意味を、彼は幼いながらに理解している。
アンドロイドの寿命。戦闘による破壊。
母は不死身ではない。
治療を終えたアルは、整備ドックへと足を運んだ。
ガラス越しに見下ろすドックの中央。
そこでは、私が整備を受けていた。
ブルーエクレールではない。私自身のボディのメンテナンスだ。
背中の装甲が外され、複雑な配線と人工筋肉が露出している。
レベッカがスパナ片手に、私の脊椎ユニットを調整している。
普段は鋼鉄の鎧を纏った無敵の戦士に見える母も、こうして見ると、精巧だが脆い機械の集合体であることが分かる。
部品が一つ壊れれば動かなくなる。
オイルが切れれば止まる。
アルはガラスに手を当てた。
その掌の熱は、冷たいガラス越しには届かない。
(母さんは強い。誰よりも強くて、かっこいい)
彼は知っている。
彼女が夜中、一人で自分のパーツを修理している姿を。
古い傷跡に苦しみながら、それでも翌朝には平気な顔をして立っている姿を。
彼女は、アルのために無理をしている。
アルを守るために、自身の消耗を顧みずに戦い続けている。
「……俺は、もっと強くなる」
少年は呟いた。
「母さんに守られるだけじゃない。
いつか、俺が母さんを守れるくらいに。
あの背中を、俺が支えられるくらいに……!」
彼はポケットの中で、強く拳を握りしめた。
その瞳に宿る光は、もはや甘えん坊の子供のものではない。
自らの意志で力を欲する、若き戦士の炎だった。
ドックの中で整備中の私がふと顔を上げ、ガラス越しに彼と目が合った気がした。
私は微かに頷いたように見えた。
言葉はいらない。
私達は、同じ魂を持つ親子なのだから。




