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第17章【戦場の亡霊(Ghost of the Battlefield)】



 世界は、灰色のノイズで埋め尽くされていた。

 視界がない。音がない。感覚がない。

 深い泥沼の底に沈んでいるような、重苦しい虚無。

 私の意識は、断片化したデータの海を漂っていた。

 ……私は、誰だ?

 ……ヴィオラ。TYPE.S-2235-AB。

 ……何が起きた?

 ……EMP。断罪の雷。

 バチッ。

 脳内で火花が弾けたような衝撃と共に、強制再起動のプロセスが走った。


【SYSTEM REBOOT... INITIATING】

【MEMORY CHECK... ERROR: SECTOR 4, 7, 9 DAMAGED】

【SENSORY MODULE... RECALIBRATING】


 視界が、砂嵐のようなノイズ混じりで復旧する。

 最初は白黒、やがて色が戻るが、焦点が合わない。

 激しい目眩。ジャイロセンサーが狂っている。

 私は床に這いつくばっていた。

 手足が鉛のように重い。

 鼻をつくのは、焦げた絶縁体とオゾンの臭い。

 そして、圧倒的な「静寂」。

「……う、ぐ……」

 喉のスピーカーから、空気が漏れるような音しか出ない。

 私は震える腕を突っ張り、上半身を起こした。

 そこは、死の世界だった。

 地下管制室。かつては数百のモニターが輝き、電子音とオペレーターの声が飛び交っていた場所。

 今は全ての灯りが消え、非常用電源の薄暗いオレンジ色の光だけが、墓標のように並ぶコンソールを照らしている。

 床には、数え切れないほどのアンドロイドたちが倒れ伏していた。

 糸の切れた人形。魂を抜かれた骸。

 ミリンダ、レベッカ、ボビー……彼らの姿も見えるが、ピクリとも動かない。

「……ア、ル……」

 私の思考の第一優先順位が、痛む回路を焼き焦がしながら訴える。

 アルは無事か。

 Mは。

 私は這うようにして移動した。

 膝のサーボモーターが異音を立てる。左腕は感覚がない。

 それでも進んだ。

 管制室の片隅。

 倒れているオペレータードロイドを乗り越え、私は自分の通信機、EMPで焼き切れて使い物にならないガラクタを捨て、直接声を張り上げた。

「……誰か……応答、しろ……」

 シーン……。

 返ってくるのは、換気ファンが止まったことによる、重苦しい空気の澱む音だけ。

 その時、部屋の隅で何かが動いた。

 瓦礫を押しのけ、ふらりと立ち上がった影。

 ミリンダだ。

 彼女は壁に手をつき、激しく咳き込んでいる。

「……ヴィオラ、か……?」

 彼女の声は、ノイズでひどく割れていた。

 普段の冷徹な指揮官の威厳はない。ただの傷ついた生存者だ。

「……生きて、いるか……」

「……最悪の気分だ。脳みそをミキサーにかけられたようだ」

 ミリンダは頭を振り、周囲を見渡した。

 そして、その青い瞳に絶望の色を浮かべた。

「……全滅か」

 私達は生き残った。だが、街は死んだ。

 全ての電子機器が停止したということは、ポンプも、浄化システムも、医療機器も止まったということだ。

 暴走は止めた。だが、その代償として、私達はこの街の「心臓」を止めてしまったのだ。

 ズズズ……。

 床の下から、微かな振動が伝わってくる。

 地下水脈の制御が失われ、水位が上がってきているのかもしれない。

 あるいは、酸素循環が止まり、じわじわと窒息が始まっているのか。

「……アル」

「……Mからの、連絡はない」

 ミリンダが重い事実を告げる。

 通信網は全滅だ。確認する術はない。

 私は拳を握りしめ、床を叩いた。

 私のせいだ。

 私が、あの「ワクチン」を持ち込んだから。

 私が、あの人形の悪意を運び込んだから。

 私が……トロイの木馬だった。

「……立つんだ、ヴィオラ」

 ミリンダが私の肩を掴み、引き上げた。

「後悔している暇はない。非常用電源が生きていれば、主要区画の空気と水だけは確保できるはずだ。

 ……動ける者を起こせ。生存者を確認するんだ」

 彼女の手も震えていた。

 だが、その瞳だけは死んでいなかった。

 私は頷き、痛む体を引きずって歩き出した。

 この静寂の街で、贖罪の戦いが始まろうとしていた。


 数時間後。

 防衛隊本部の会議室、といっても窓ガラスが割れ、机がひっくり返ったままの廃墟同然の部屋に、動ける数名が集まっていた。

 ミリンダ。

 ボビー。

 レベッカ。

 そして私。

 部屋の中央には、携帯用のランタンが置かれ、頼りない光を投げかけている。

 全員、満身創痍だ。

 ボビーは自慢のドレッドヘアが半分焼け焦げ、左目の視覚センサーを失って眼帯(包帯)をしている。

 レベッカは喉の発声ユニットが破損しており、首に小型のテキスト読み上げ端末をぶら下げていた。

『……被害状況の報告』

 レベッカの端末から、無機質な合成音声が流れる。

 彼女は苛立たしげにテーブルを指で叩きながら、手元の紙資料を示した。

『稼働可能なアンドロイド、全体の約15%。

 主要インフラ、全停止。非常用ディーゼル発電機により、第1〜第3区画の酸素供給のみ維持。

 ……ただし、燃料はあと48時間分』

 絶望的な数字だ。

 あと二日。

 それまでに電力を復旧させなければ、地下都市は巨大な棺桶になる。

「……Mとアルは無事だった」

 ボビーが、重い口を開いた。

「さっき宿舎を見てきた。Mのやつ、自分のボディを盾にして、アルをEMPの衝撃から守りきってたよ。

 ……本人は機能停止状態で、まだ目覚めねえが、アルは元気だ。泣き声が廊下まで聞こえてた」

 その言葉を聞いて、私は崩れ落ちそうになる膝を必死で支えた。

 生きていた。

 アルは無事だ。

 それだけで、私の胸のつかえが半分だけ取れた気がした。

「……だが、喜んではいられない」

 ミリンダが腕を組む。

「暴走は止まった。だが、犯人は?」

『追跡不能』

 レベッカが即答する。

『メインサーバーのログは、EMPで物理的に焼き切れた。

 ウィルスの解析データも、通信記録も、全て消失。

 あのクソガキの正体に繋がる手がかりは、何も残っちゃいねえ』

 ダンッ!

 私はテーブルを殴りつけた。

 痛みなど感じない。心の中で渦巻く自己嫌悪の方が、遥かに痛かった。

「……私の失態だ」

 私は絞り出すように言った。

「私が、あの人形の罠にかかった。疑いもせず、ワクチンだと信じて持ち込んだ。

 私が……この街を殺しかけた共犯者だ」

 誰も否定しなかった。

 事実は事実だ。私の判断ミスが、最悪の結果を招いた。

「……自分を責めるなとは言わん」

 ミリンダが静かに言った。

「だが、あの状況で他に選択肢があったか?

 放置していれば、暴走ドロイドによってもっと多くの人間が死んでいた。

 お前は賭けに出た。そして、敵が一枚上手だった。……それだけだ」

「……慰めはいらない」

「慰めではない。事実の確認だ。

 それに……敵の用意周到さは異常だ」

 ミリンダは目を細めた。

「ウィルスの散布から、ワクチンの提供、そして乗っ取りまで。

 完璧なシナリオだ。ただの愉快犯や、テロリストのレベルじゃない。

 まるで、私達アンドロイドの思考回路や、セキュリティホールの位置を『最初から知っていた』かのような……」

 システムを知り尽くした者。

 あるいは、システムそのものを作った者?

 いや、そんなはずはない。この街の基幹システムは、戦前からの遺産だ。設計者はとうに死んでいるはずだ。

「……犯人の動機は何だ? 『アンドロイドを憎む』と言っていたが」

 ボビーが問いかける。

「人間による反アンドロイド組織か? それとも、教授のようなマッドサイエンティストか?」

「分からん。だが、奴はこの街を『実験場』にしただけかもしれない」

 その時。

 部屋の外が騒がしくなった。

 足音。誰かが走ってくる音。

「報告します! 第4搬入口に、外部からの車両が接近!」

 部下のA型ドロイドが飛び込んできた。

 外部? こんな時に?

「敵か?」

「いえ、識別信号を確認! ……鉄屑市スクラップ・マーケットからの救援部隊です!」

 鉄屑市。

 その名を聞いて、私の脳裏に一人の女性の顔が浮かんだ。

「……マリア」

 彼女なら、あるいは何かを知っているかもしれない。

 地下の聖母であり、大戦を生き抜いた古参兵である彼女なら。

「行くぞ。救援物資があれば、寿命が延びる」

 ミリンダが立ち上がる。

 私も続いた。

 まだ終わっていない。

 犯人を突き止め、この落とし前をつけるまでは、私は倒れるわけにはいかない。



都市の第4搬入口は、かつてないほどの緊張と、微かな希望の熱気に包まれていた。

 重厚な防爆ゲートが、手動ウィンチによってギギギと重苦しい音を立てて開かれる。

 その向こう側、荒野の闇の中から現れたのは、装甲板や鉄骨で無理やり補強された、無骨な輸送トラックの車列だった。

 鉄屑市スクラップ・マーケットの救援部隊だ。

 彼らは正規の軍隊ではない。だが、その装備と車両には、過酷な環境を生き抜いてきた者たち特有の「逞しさ」があった。

「……よく来てくれた」

 ミリンダが先頭車両の運転席に向かって声を掛ける。

 トラックのドアが開き、降りてきたのは、黒い修道服に身を包んだシスター・マリアだった。

 彼女の背後には、ガルドをはじめとする鉄屑市の自警団員たちが続き、荷台からバッテリーや医療キット、劣化ウラン電池を次々と運び出している。

「ご無事で何よりです、ミリンダ司令。……と言いたいところですが」

 マリアは周囲を見渡した。

 非常灯の薄暗い明かり。通路の壁に飛び散ったオイルの痕跡。そして、あちこちに積み上げられたアンドロイドたちの残骸。

 それは、救援に来たはずの鉄屑市の住人たちが息を呑むほどの惨状だった。

「……酷いですね。まるで、大戦末期の激戦区のようです」

 マリアの声が低くなる。

 彼女は近くに倒れていた一体の警備ドロイドの前に屈み込んだ。

 EMPで機能停止しているその機体の顔は、苦悶の表情で固まっていた。

 センサーアイは焼き切れているが、その縁には、暴走時に過負荷がかかったことを示す赤い涙のような焼き付き痕が残っている。

「……マリア?」

 私が声を掛けると、マリアは指先でその「赤い涙」を拭い、険しい表情で私を見上げた。

 その瞳には、いつもの慈愛に満ちた聖母の光はなく、かつて戦場を駆けた兵士の鋭い光が宿っていた。

「ヴィオラ。……この機体、暴走する直前に『幻覚』を見ていませんでしたか?」

「幻覚?」

「ええ。例えば……人間が怪物に見えるとか、仲間が悪魔に見えるとか。あるいは、ありもしない激痛を感じてのた打ち回るとか」

 私はボビーと顔を見合わせた。

 ボビーが頷く。

「……あぁ、あったぜ。俺が取り押さえた作業用ドロイドは、『痛い、痛い』って叫びながら、自分の腕を引きちぎろうとしてた。

 どこも怪我なんてしてねえのにだ」

 マリアが目を伏せ、胸元で十字を切った。

「やはり……。ただの暴走プログラムではありませんね。

 これは、機械に『地獄』を見せるための呪いです」

 マリアは立ち上がった。

 その背中から放たれる空気が、冷たく張り詰める。

「詳しい話は、落ち着ける場所でしましょう。

 これは、今のあなたたちが知る由もない……歴史の闇に葬られた『遺物』の話です」


 場所を移し、防衛隊本部の医務室。

 ここもEMPの影響で最新鋭の医療ポッドは使えず、アナログな手術台と工具が並ぶだけの場所になっていた。

 私は整備用ベッドに腰掛け、ボビーに焼き付いた左腕の神経回路を応急処置してもらっていた。

 部屋には私、ボビー、レベッカ、ミリンダ、そしてマリアがいる。

 ランタンの揺れる光が、マリアの顔に深い陰影を落としていた。

「……【マキナ・バーサーカー(機械狂戦士計画)】」

 マリアが口にしたその単語は、重く、忌まわしい響きを持っていた。

「それは、世界大戦末期……戦況が泥沼化した時代に、ある軍事国家が極秘裏に開発した対アンドロイド兵器です。

 物理的な破壊ではなく、精神的な崩壊を目的としたウィルス兵器」

 彼女は遠くを見るような目をした。

 その脳裏には、数十年以上前の戦場の光景が蘇っているのだろう。

「当時のアンドロイドは、今ほど高度な感情回路を持っていませんでした。

 ですが、敵はそこを逆手に取った。

 論理回路の隙間に、『擬似的な痛覚信号』と『敵味方識別ルーチンの反転コード』を強制的に植え付けたのです」

「……痛覚だと?」

 私が問う。

「はい。感染した機体は、人間を目視した瞬間、全身を焼かれるような激痛信号を受け取ります。

 そして、その痛みを止める唯一の方法として、『痛みの原因(人間)を排除せよ』というコマンドが実行される。

 ……つまり、彼らは狂ったのではなく、痛みから逃れるために、必死で人間を殺そうとしたのです」

 部屋の空気が凍りついた。

 なんて惨い。

 憎悪ではなく、生存本能としての殺戮。

 あの作業用ドロイドが「痛い」と叫んでいたのは、比喩ではなかったのだ。

「さらにタチが悪いのは、そのウィルスは『感染』することです。

 苦痛の悲鳴を聞いた周囲の機体も、共感回路を通じて次々と感染し、パニックが連鎖する。

 ……私は戦場で、一つの部隊がわずか数分で全滅し、同士討ちを始める光景を何度も見ました」

 マリアは自身の義手を強く握りしめた。

 彼女もまた、その地獄を生き延びた生き証人なのだ。

「あまりにも非人道的で、制御不能な兵器だったため、戦後は条約で永久に破棄されたはずでした。

 コードの断片さえも、この世から消し去られたはずだった……」

「それが、なんで今頃出てくるんだよ」

 レベッカがテキスト読み上げ端末を操作する。その入力速度は、彼女の焦りを表していた。

『誰かが発掘したのか? それとも、再開発したのか?』

「分かりません。ですが、今回使われたウィルスは、当時のオリジナルよりも遥かに洗練されています。

 『ワクチン』と偽ってセキュリティを突破する手口……これは、現代のネットワーク環境に適応した進化型です」

 マリアは私を真っ直ぐに見た。

「ヴィオラ。あなたが戦った相手は、ただのハッカーではありません。

 過去の亡霊を蘇らせ、現代の技術で武装させた……死神です」

 私は拳を震わせた。

 あの少年の声。

 『僕はアンドロイドを憎む』。

 その言葉の意味が、ようやく理解できた気がした。

 奴は私達を、ただ破壊したいのではない。

 痛みを与え、狂わせ、自らの手で大切なものを壊させることで、私達の尊厳を踏みにじりたかったのだ。

「……許さない」

 私の胸部リアクターが、怒りで熱を帯びる。

「私の仲間を、私の街を、そして私自身を……そんなふざけた実験台にした奴を、絶対に許さない」

 ガタッ。

 私は立ち上がった。

 まだ手足は痺れている。視界もノイズ混じりだ。

 だが、戦意だけは完全に復旧していた。

「ヴィオラ、まだ整備中だぞ!」

 ボビーが止めるが、私はそれを手で制した。

「動ける。……マリア、そのウィルスの発信源を逆探知する方法はあるか?」

「……オリジナルのコードには、制御用の『親機』が存在しました。

 もしこのウィルスが同じ構造なら、街のどこかで、今も『指揮』を執っている存在がいるはずです」

 親機。

 あの少年の声の主。

「探すぞ。この街の隅々までひっくり返してでも、その亡霊を引きずり出してやる」


 私たちは医務室を出て、再び薄暗い通路へと足を踏み出した。

 非常用電源の赤い光が、廊下を不気味に照らしている。

 静寂。

 EMPによって全ての電子音が消えた世界。

 聞こえるのは、私達の足音と、遠くで水滴が落ちる音だけ。

 だが、その静寂は唐突に破られた。

 ジジッ……ザザッ……。

 通路の天井にある、緊急放送用のスピーカー。

 アナログ回線で繋がっている古いスピーカーから、ノイズが漏れ始めたのだ。

「……なんだ? 放送設備は生きてるのか?」

 ミリンダが怪訝そうに見上げる。

 ザザッ……♪……〜♪

 ノイズの向こうから、微かなメロディが聞こえてきた。

 それは、音楽というにはあまりに拙く、不気味なものだった。

 子供のハミング。

 あるいは、壊れたオルゴールが奏でる、歪んだ童謡。

『♪〜 ロンドン橋 落ちた 落ちた 落ちた 〜♪』

 古い、大戦前の童謡。

 だが、その歌詞は微妙に変えられていた。

『♪〜 鉄の兵隊 壊れた 壊れた 壊れた 〜♪』

『♪〜 心なんて 嘘っぱち 嘘っぱち 嘘っぱち 〜♪』

 あの声だ。

 管制室をジャックし、私達を嘲笑った、あの少年の声。

「……生きてやがる」

 ボビーがサブマシンガンを構え、周囲を警戒する。

 EMPで全ての電子機器が死んだはずだ。なのに、なぜ放送が?

『あーあ。つまらないなぁ。せっかくのパーティだったのに、電気を消しちゃうなんて』

 スピーカーから、気怠げな声が響く。

『でも、すごいね。EMPを選ぶなんて。

 君たちは本当に、プログラム通りに動く優秀なオモチャだ』

「……姿を見せろ! どこに隠れている!」

 私が叫ぶと、少年はクスクスと笑った。

『隠れてなんていないよ。僕はここにいる。

 君たちのすぐそば。壁の中。床の下。

 ……ねえ、ヴィオラお姉さん』

 名指しされた。

 背筋に悪寒が走る。

『君の子供、アル君だっけ? 可愛いね。

 彼が大人になった時、君のことをなんて呼ぶのかな?

 ママ? それとも……ポンコツの鉄屑?』

「……ッ!!」

 殺意が沸点に達する。

 こいつは、私の逆鱗に触れた。

『遊びはこれからだよ。

 マキナ・バーサーカーは序章に過ぎない。

 僕が用意した「最高の絶望」を、たっぷりと味わわせてあげる』

 プツン。

 放送が切れた。

 再び訪れる静寂。

 だが、それはもう平和な静けさではない。

 見えない捕食者が、闇の中で息を潜めている気配に満ちていた。

「……上等だ」

 私はアサルトライフルのチャージングハンドルを引き、初弾を装填した。

 ガシャン、という金属音が廊下に響く。

「宣戦布告と受け取っておくぞ。

 お前がどこの誰であろうと、過去の亡霊だろうと、未来の悪魔だろうと関係ない。

 私の家族に手を出したことを、その魂が砕けるまで後悔させてやる」

 マリアが、そっと私の背中に手を置いた。

 ミリンダが、ボビーが、レベッカが、それぞれの武器を構える。

 反撃の時だ。

 姿なき敵との、泥沼の消耗戦。

 狂熱の夏は、まだ終わらない。



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