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利他の献身〜「人のために生きよ」と呪われた少女は、愛する幼馴染たちの祝言を祝福する〜

作者: 夕凪もか

 

「お前は人のために生きるのじゃ。お前の名はリタ。己よりも他人の幸福を願い、命尽きる瞬間まで、他人のために尽力しなさい」

 

 危篤の婆さんは、そう言って笑った。齢七歳の少女へ向けるには、あまりにも残酷な言葉だった。唯一の肉身である婆さんを失うという恐怖と悲しみ、そしてその言葉の意味をなんとなく理解して、婆さんの穏やかな寝顔に縋って泣き崩れた。名無しの少女は、その日初めて名を与えられた。私の名はリタ。自分のために生きることは許されず、自分以外のために生きていかなければならない。

 

 雨が降っていた。番傘をさしている二人は、雨に濡れる私に手を伸ばして、中に引き入れようとする。私はそれを制して、一歩退いた。

 

「私は大丈夫。ふたりとも、おめでとう。ユリ、とてもきれい」


「あぁ。ありがとな……リタ」

 

 ユリ、そしてその婿になるゲンブは私のたった二人の友人だった。老人ばかりの小さな村で同い年の私たち三人は自然と仲良くなり、行動を共にするようになった。

 

 あれは、十五の夏のことだった。

 

「おい、アカメ!お前、膝擦りむいてんじゃねぇか」

 

 首にかけた白い手ぬぐいで額の汗を拭いながら、そう言ったゲンブ。強い引きのあった釣り竿を放って走ってきて、私の前に跪いた。彼は私のことをアカメと呼んだ。婆さんの死に数時間泣き続けて目を充血させていた私がアカメという魚に似ていたからだ。

 

「女に傷が残っちゃ大変だ。今日はもう帰るぞ。傷口を洗わなきゃな」

 

 そう言って私の脇の下に腕を回そうとした彼の手を振り払って、私はこう言った。

 

「大したことはない!大袈裟だ」

 

 そんなことを言いながら、顔が熱くなってくるのがわかった。それを知られたくなくて慌てて顔を背け、ゲンブを置いて家に走っていった。

 

「お、おい!待てよ!」

 

 そう呼び止める彼の声から逃げるように、痛む膝を庇って走った。……あのとき、熱くなった頬の理由に素直に向き合っていれば、何かが変わったのだろうか。

 

 お互いのことならなんでも知っていて、知らないことなどなにもない。そう、思っていた。今思えば、なんて恥ずかしい勘違いをしていたのだろう。そんな彼は十八の冬にユリと結ばれて、本日祝言を挙げる。

 

 憎んではいけない。多くを求めてはいけない。だって私はリタだから。

 

「お前は弱いな」

 

 そう言って私の頭を乱暴に撫でたその手の大きさを、私はきっと一生忘れないだろう。豪快に笑うあなたのその姿が。酷く輝いて見えた。眩しくて、思わず目を瞑ってしまうこともあった。あなたのことが大好きだった。私の弱さを見抜いてくれたあなた。そう、私は弱い。あなたがいないと息が詰まって死んでしまう。ずっと一緒にいたい。リタは嫌だ。アカメでいたい。死が二人を分つ時まで、あなたのそばで息をしていたい。

 

 でも、その気持ちを伝えてはいけない。だって、彼女もあなたのことが好きだったから。私はリタ。他人の幸福を願う者。ユリの幸福の邪魔をしてはいけない。己の心が引き裂かれようと、誰にも知られてはいけない。流した涙の跡を残してはいけない。だって、私はリタだから。

ゲンブ視点もあります。

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