異世界から来た美人勇者様、人と話す時なぜかジャンプします
異世界から来た勇者ぽこたん様は、
神様が本気を出して創造したみたいな超絶美人。
……なのに。
人と話そうとするたびに、なぜか「ジャンプ」します。
「会話ボタンが逆で」「見えない壁があって」「宝箱がなくて不満で」
──この世界を普通に旅する気、ありますか?
僕(従者)は真面目に任務をこなしたいだけなのに。
美人勇者 × 真面目な従者の、何かが変なギャグ短編。
僕は、王城で下働きをしていた田舎の若者です。
王様のご命令で、異世界から来た勇者様の従者になりました。
勇者様が復活した魔王を円滑に倒せるよう、地元を案内し、荷物を運ぶのが僕の役目です。
引き合わされたぽこたん様は、それはもう、目を奪われるほどの美人でした。
創造の神様が本気を出したような完璧な顔立ち、ドレスと鎧が混ざったような華麗なお召し物。
僕は見惚れてジロジロ見てしまったことを謝りましたが、ぽこたん様は優雅に微笑みました。
「キャラメイクには時間をかけたので、自分でもよく出来たと思う 」
僕は真面目に尋ねました。
「キャラメイク……、お化粧のことですか? お肌への負担は大丈夫でしょうか?」
ぽこたん様は首を傾げ、まるで僕が異世界の深遠な秘密に触れたかのような顔をしました。
「ああ、これは『テクスチャ』と『シェーダー』の組み合わせで調整したから大丈夫」
「特に、リアルタイムレンダリング環境で映えるように意識して調整したから骨が折れたよ」
レンダ…?
僕は、異世界では呪文のような専門用語で自分の美しさを語るのだと、心底驚愕しました。
やはり勇者様は深遠な方です。
*****
情報収集のために城下町へ出ました。
ぽこたん様は、街人の前で立ち止まると、
突然、垂直に、地面からわずか数センチの高さで、ぴょんぴょんと跳ね始めました。
街の人全員が振り返り、その完璧な美貌と、奇妙で規則的なリズムで飛び跳ねる勇者様を見つめます。
人々は「あの美人は狂人か?」という目で見ています。
僕は慌てて小声で尋ねました。「ぽこたん様、これは異世界の何か大切な儀式ですか?」
ぽこたん様は、跳ねるのをやめずに答えました。
「ああ、前の世界では『話す』と『ジャンプ』の操作がこの世界と逆だったから。癖でつい、逆のボタンを押してしまった」
??
僕は、勇者様が、世界によって言語や会話の作法を
瞬時に切り替える訓練をしているのだと、真剣に納得しました。大変な修行です。
その後、道中、簡単に跨げる高さの柵があるたびに、
ぽこたん様はまず柵の前でぴょんぴょんと跳ねた後、
通れないことに「ちっ」と忌々しそうに舌打ちをし、必ず遠回りを選びました。
「ぽこたん様、足を上げるだけで越えられますよ!」と僕は思いましたが、
異世界の作法を破るわけにはいきません。きっと、『見えない壁』があるのでしょう。
*****
情報収集の傍ら、ぽこたん様は誰もいない民家に入っていきました。
そして、可憐かつ優雅な所作で、部屋の隅のタンスを片っ端から開け始めたのです。
「ヒッ!」と、僕は思わず声を上げました。
ぽこたん様はタンスの中身を物色しながら言います。
「アイテム回収しよう。このタイプの民家には、だいたいポーションか、少しの金貨が入ってるものだ」
そりゃ、民家には小銭くらいどこかに隠してあるでしょう。でも、勝手に取っていいわけがありません。
そして、彼女は部屋にあった大きな壺に手をかけて叩き割ろうとする暴挙に及びました。
僕は粗相をしようとした犬の紐を引っ張るように、ぽこたん様の手を慌てて掴みました。
「やめてください!これは不法侵入と器物破損ですよ!」
ぽこたん様は手を引っ込め、少し不貞腐れた顔で言いました。
「そうか、この世界ではこれはやっちゃいけない『仕様』なんだな 」
「仕様!?」
ぽこたん様は、「アイテム漁りが『泥棒扱い』にならない世界や、『見つからなければセーフ』な世界もあった」と、
僕の常識ではありえない世界の法則を語り始めました。
僕は、完璧な美人が堂々と泥棒行為の過去を語るというシュールな光景に、ただただ唖然としました。
*****
「レベルアップ」のために魔物を倒し始めた僕たち。
ぽこたん様の露出の多い服は、防御力に不安しかありません。僕は重装備を進言しました。
ぽこたん様は、馬鹿にしたように笑いました。
「ドラゴンと戦うときどんな鎧なら防げると思う? 」
「鎧なんて飾りだからこれでいいのだよ。重要なのは、回避とポーションの在庫数」
戦闘で魔物に攻撃され、ぽこたん様の完璧な肌に血が滲み、僕はハラハラします。
しかし、ぽこたん様がポーションをがぶ飲みすると、傷がみるみると、まるで紙のシワが伸びるように塞がっていくのです。
僕は震えました。「飲み薬で傷が塞がるなんて、これはどういうことで……」
「ああ、これは『ホットバー』に設定しておけば、即座に『クールタイム』なしで使えるから効率がいいんだ」
また専門用語です。飲み薬にこんな即効性があるだなんて。これは、僕の理解の範疇を超えていました。
さらに、倒した魔物の死骸から、ぽこたん様が金貨や奇妙な素材を拾い集める光景。
「どういう原理で、生物の死骸からお金が湧き出るんですか?!」
「『ドロップ率』の問題だよ。運が良ければレアアイテムが出る」
僕は、世界にはまだ知らない法則があるのだと、無理やり自分の常識をねじ曲げることにしました。
金貨が手に入ったぽこたん様は、宿からこそこそと抜け出しては、
「ミニゲームが充実していて、つい…」と言いながらカジノに入り浸っていました。
*****
いよいよ、冒険が進み、ラスボスの本拠地へ向かう途中、坑道型のダンジョンに入りました。
ぽこたん様は妙な自信を持って言いました。「こういう時はダンジョンの壁に左手をついて進むといい」
不思議なことに、その通りに進むと、僕たちはすんなり出口にたどり着きました。
「すごい!やはり勇者様は知恵者だ!」と感動したのも束の間。
ぽこたん様は、なぜか出口から道を引き戻り、全部の通路をくまなく探り始めたのです。
「ぽこたん様、どうしたんですか。もう出口ですよ」
「まだ探索が終わっとらんだろう」
無駄にも思える徘徊の末、ぽこたん様は、
何も見つからなかった行き止まりで、悔しそうに怒鳴りました。
「普通行き止まりには宝箱があるものだろう! なっとらんな!」
僕は心の中で思いました。
「いや、行き止まりはただの行き止まりじゃないですかね」
ぽこたん様は、「マップを100%踏破しなくては気持ちが悪い」とぶつぶつ言いながら、
全ての行き止まりを確認するまで、決してダンジョンを出ようとしませんでした。
美人が地図の完成度にこだわるという、シュールな時間だけが過ぎていきました。
「地図職人にでもなったらいいんじゃないですかね」
僕は、その一言を飲み込むのが精いっぱいでした。
*****
ダンジョンを抜け、ラスボス本拠地近くの村に着くと、僕はまた驚愕しました。
その村ではなんと、そこらにいるウサギすらレベルが高い魔物。
村人たちはそれを軽々と、何の装備もなく狩っているのです。
農作業をしているように見えたおばあさんが、突然ウサギを片手で殴り倒し、また農具を手に戻る。
そんな光景があちこちで見られました。
僕はぽこたん様に小声で進言しました。
「ぽこたん様、あの、あの村人たちがボスと戦えばいいのではないでしょうか……?」
「僕たちより圧倒的に強いと思いますよ」
ぽこたん様は腕を組み、真面目な顔で首を振りました。
「ダメだ。この世界の『NPC』に、『プレイヤー』の領域であるラスボス討伐は任せられない」
「そういう『フラグ』が立たないんだ」
NPC、プレイヤー、フラグ……。僕にはさっぱりわかりませんでしたが、
「この人たち(村人)は、強すぎてストーリーに関われないという、異世界の複雑な掟があるのだ」と、
僕はよくわからないままに納得するしかありませんでした。
*****
いよいよ、ラストバトルです。
ラスボスの連続攻撃に、ぽこたん様は防戦一方でしたが、突然秘策を編み出しました。
それは前方ローリング回避です。
一見無防備ながら、果敢に身体を投げ出し、攻撃を回避する勇者様。
(おお!)と僕は感動しました。
が、ぽこたん様はそのまま敵から離れた床を、優雅なドレス姿のまま、ごろごろと転がり続けます。
なんか違う……。これが奥義なら、こんなことは近所の子供でも遊びでやっています。
そこに。ラスボスの炎がぽこたん様を襲いました。
「あぶない!」
僕は咄嗟に、ぽこたん様を庇って前に出ました。
すると、炎は僕になんの効果もなく、まるでそこに何か透明なバリアがあるように遮られました。
ぽこたん様は歓喜の声を上げました。「デバッグが甘いな、とんだグリッチだ !」
そして、僕を盾のように使い、炎を完全に無効化しながらラスボスを倒したのです。
僕には、透明なバリアを発生させた原理も、グリッチという言葉の意味も分かりませんでしたが、とにかく平和が訪れました。
*****
「勇者ぽこたん様……!ありがとうございます……!」
「なあに、これも私の務め。もう、平和となったこの世界を訪れることもないだろう」
ぽこたん様は僕らに別れを告げ、颯爽と去っていきました。
数カ月後。僕が畑で汗を流していると、豪華な鎧を身にまとったぽこたん様が、バツの悪そうな顔で再び現れました。
「ぽこたん様! もうここには来ないのでは!?」
「……DLCが追加されたのでな 」
なんにせよ、僕は嬉しかったです。あの美しい勇者様の奇行に振り回される、僕の新しい日常が、また始まるのだから。
この短編と同じ「ゲーム系コメディ」をテーマにした
『ネカマの俺、相棒に好かれすぎて女装で会うことになりました』も連載中です。
あちらはだいぶシリアス寄りですが、原稿は完成済みで最後は楽しい話になると思うので
この話が気に入った方はあちらもぜひよろしくお願いします。




