表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
空を泳ぐ魚  作者: 冲田


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

5/6

空を泳ぐ魚 ー孝成ー

 “あの日”から、どれくらい()っただろうか。

 あれからアオイは、ずっとうちにいる。

 

 「こんなつもりじゃ、なかったんだけどなぁ」


 空っぽになった胸の中を何かで()めてしまいたくて、味のしない煙草(たばこ)をベランダで延々(えんえん)と吸っている。


 「最後の一本」


 (けむ)たがって眉根(まゆね)()せるアオイの顔がふと頭に浮かんで、そう(つぶや)いた。そろそろ、煙草にも()()きしていたところだった。


 「お前には伝わってなかったかもしれないけどさぁ。愛してたんだ。この上もなく」


 「はぁああああ……」


 愛してたからなんだっていうんだ。愛は何をやってもいい免罪符(めんざいふ)じゃない。

 自分の想いを押し付けて、愛することを強要(きょうよう)して。もう、愛想(あいそ)なんか()きていただろうに。

 俺は大きなため息と一緒に、まだ中身の残る煙草の箱をグシャっと(にぎ)(つぶ)す。

 そして、それをベランダから外に落とし、はるか地上へと落ちるさまを眺めた。


 「こんなことしたら、お前は怒る?」


 「拾いにいくかな」


 最短距離で。





ーside 葵ー


 コウセイはベランダの手すり(かべ)にヒョイと登った。


 「まって、コウセイ。何してるの? お願い! 危ないから、そこから()りて! 僕はそんなこと望んでなんかない!」


 「これで(ゆる)してくれとか、お前の所に行きたいとか、そんなんじゃないんだ。

  ただ、ただ、お前がいない世界では 息ができないんだよ」


 「コウセイ! やめてってば!」


 コウセイはスッと一歩()()した。僕は(あわ)てて、コウセイの身体に抱きつく。

 でも、やっぱりそんなことは無意味で……。無情(むじょう)にも僕のふわふわと空を泳ぐ透明(とうめい)な身体は、コウセイを通り抜けただけだった。


 こんな結末は、望んでいなかった。

 僕はコウセイの前からいなくなって、でもこうやって実はこっそり(そば)にいて。

 いつかは僕のことなんか忘れて……。

 ──それで、よかったのに……。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ