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合格率0.000001%  作者: 婀娜
第一章 密室列車と沈黙の選抜
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第三話 合格と呼ばれた生存者

……音が、消えた。


誰も叫ばない。

立ち上がる人もいない。


息をする音すら──怖い。


時間が止まったみたいに、列車の中は静まり返っていた。

でも、血の匂いだけが、生々しく残っている。


さっきまで、そこに“生きていた人間”がいたのに。


──うわ、頭の奥がじんじんする。

心臓、早すぎる。これ、パニック一歩手前だ。


喉が痛い。

声を出したら、全部が壊れそうだった。


夢、だよね。

夢だって言ってほしい。


でも、この匂いがリアルすぎて、もう否定できなかった。


その沈黙を破ったのは──


「──第一試験、終了しました」


……は?


突然、車内に機械音声が響いた。

抑揚も感情もない、冷たい声。


「生存者は、合格とみなされます」


選択とは、意識せずとも行われる。

座るだけで命を差し出す者と、座るだけで命を拾う者。

それだけの差が、あなた方の“価値”です」


……合格?


あまりに唐突すぎて、意味がわからなかった。

“試験”って、今のこれが──試験?


「……は? 冗談、だろ……」


かすれた声を出したのは、かれも窓側に座ってた短髪の男子──サッカー部っぽいノリのやつだ。


「……試験って、なんだよ……これ……!」


別の誰かが怒鳴る。

茶髪のチャラ男、あのガム噛んでたやつ。


でも、その声もすぐに消えた。


通路の奥に立つ黒服の係員は、直立したまま微動だにしない。

まるで、最初から**“説明する気なんてない”**みたいに。


ざわめきが、少しずつ広がる。


立ち上がる者。

泣き崩れる者。

何も言えずに座ったまま震える者。


でも、誰も外には出られなかった。


列車の扉は閉じたまま。

窓の外は、曇った闇だけ。


──いや、これ……何?


……何が起きてるの。

何を、見せられてるの……。

何が“試験終了”なの?


……っていうか、なんで私はまだ生きてるの?


私は動けなかった。


まだ、何も……何も理解できていなかった。


ただ、座っていただけ。

窓側の席に──それだけ。


「……わたし、なんで……生きてるの……」


声にならない疑問だけが、喉の奥でぐるぐると回る。


血の匂いが染みついた空気のなかで、ひとつだけはっきりわかった。


──これは、セミナーなんかじゃない。


母が机に置いた赤いパンフレット。

“見るだけ”と聞かされていた体験。


そのすべてが、音もなく崩れ落ちていく。


……これは何?


生き残った?

“合格”って──何?


けれど、なぜ?

どうして誰も説明しない?


理由も、正解も、誰にもわからない。


ただ、“そこに座っていただけ”で──死んだ。


私は、手のひらを見た。

まだ震えている。止まらない。


心臓の音が、耳の奥で鳴り響く。


これは夢じゃない。


血の匂いも、裂けた座席も、現実だった。


ほんとうに──死んだ。

目の前で、人が。


ただ、それだけのことが、受け入れられなかった。


でも、起きてしまった。


自分が今、生きてここに座っていることだけが、唯一の“事実”だった。


(……なんで?)


誰も、なにも教えてくれない。

それが、一番怖い。


「……誰か、いないの……」

「教えてよ……」


その声は、空気の奥に吸い込まれていった。


返事なんて、最初からあるはずがないのに。


ただ、冷たい沈黙だけが、車両の隅に張りついていた。


そして、まだ名も知らない──


地獄の続きが、息を潜めて待っている。


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