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戦国新選組 最速×最速 -斎藤一が織田信勝に逆行転生した天下統一最速理論【首狩り外交編】-  作者: 五平


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第七話 将軍義昭、斬れない男

川中島での武田・上杉両雄の決着は、信勝の「首外交」によって呆気なくつけられた。その報は、戦国時代を駆け抜けるすべての武将たちを恐怖させた。もはや、織田家と戦うことは、信長という天才と戦うことではない。信勝という、感情を持たない「死神」と対峙することを意味していた。


織田家の天下布武は、信勝の超人的な「仕事」によって、誰もが想像しなかった速度で進んでいた。今川、六角、浅井、朝倉、そして武田、上杉。本来ならば何年もかかったであろう戦いが、わずか数ヶ月で終わった。信長は、この勝利を喜ぶべきなのか、それとも、この恐ろしい弟に戦慄すべきなのか、わからなくなっていた。


信長は、苛立ちと焦りを募らせながらも、次の手を打った。上洛を阻む者たちを排除するため、畿内へと兵を進める。だが、信長は、義昭を将軍に据え、その権威を借りて天下統一を円滑に進めるという、緻密な思惑があった。義昭は、信長にとって「利用すべき看板」だった。その看板を、弟が勝手に外そうとしている。


「あの男に、勝手な真似はさせぬ!」


信長は、信勝の行動を先んじて止めようとしたが、その不安は的中した。


その日の夜、信勝はまたしても単身で城を抜け出した。信長は、斥候からその報を聞き、思わず天を仰いだ。


「まて! 信勝! 京へ向かうな!」


信長の言葉は、虚しく夜空に吸い込まれていった。信勝は、夜の闇に紛れ、ただひたすらに将軍義昭の居所へと向かっていた。


その日の夜、将軍義昭は、信長の臣下となったことへの満足感に浸っていた。信長が、己の権威を尊重してくれることに、義昭は安堵していた。


(信長殿は、やはり天下の器よ。わしを将軍に据え、天下を平定してくれるであろう。このわしは、信長殿の友であり、支えである。これまでの苦労が、ついに報われるのだ……)


義昭の部屋の襖が、音もなく開いた。そこに立っていたのは、一人の男だった。彼の姿は、まるで夜の闇そのもの。だが、その男から漂う、生々しい血の匂いに、義昭は全身の毛穴が開くのを感じた。


「何者だ!」


義昭は、震える声で尋ねた。男は、何も答えず、ただ静かに一歩、また一歩と、義昭に近づいてくる。その男の顔に、義昭は覚えがあった。織田信長の弟、織田信勝。信勝は、一切の返事をせず、ただ静かに一歩、また一歩と、義昭に近づいてくる。義昭の顔から、血の気が引いていく。その男の瞳に宿る、無感情な光。それは、今川義元、武田信玄、そして上杉謙信の命を奪った、死神の目だった。


信勝は、義昭の前に来ると、懐に手をやった。義昭は、思わず身を固くする。次の瞬間、血に濡れた首が転がり出てくる。そう、誰もがそう思った。だが、信勝は、何も取り出さなかった。


信勝は、静かに、そしてゆっくりと、義昭に告げた。


「義昭殿は……斬っちゃダメな人です。一応、天下の看板ですから」


その言葉は、まるで信勝自身に言い聞かせているかのようだった。


信勝は、懐に手をやり、刀の柄に手をかけた。義昭は、その行動に、心臓が凍り付いた。


(この男は……わしを斬るつもりで来たのか!? しかし、斬らないと申した……)


信勝の矛盾した行動に、義昭は混乱する。信勝は、ゆっくりと刀を抜き、静かにその刃先を、義昭の喉元へと向けた。


「義昭殿。兄に従うか、物言わぬ首になるか」


その言葉に、義昭は震えた。信長は、友であり、助けだった。だが、この男は違う。この男は、信長の弟という顔をした、感情を持たない「死神」だ。


(信長殿は、わしを「天下の看板」として必要としてくれている。だが、この男は……わしを人間として見ていない。ただの「道具」か? いや、それよりもひどい。ただの「邪魔な看板」か……?)


義昭の脳裏に、これまでの人生が走馬灯のように駆け巡る。苦労して将軍の座を取り戻した。信長に助けを求めた。だが、そのすべてが、この男の目の前で、無意味なものになった。


(わしは、人間ではなく、ただ掲げられるだけの札だったのか……)


「しかし……そなたは、斬らないと……」


信勝は、静かに首を傾げた。


「ええ。斬りません。ですが、次はありません」


信勝は、そう告げると、刀を鞘に収めた。


「将軍職は一度きりですから」


信勝の言葉は、義昭の心を深く抉った。義昭は、信勝が目の前にいながら、何も取り出さなかったこと、そして血の匂いだけが漂っていることに、信勝という男の狂気を感じていた。


「……従います! 織田殿に、従います!」


義昭は、震える声でそう告げた。信勝は、無言で一礼し、踵を返した。去り際、義昭に、静かに一言付け加えた。


「……賢明なご選択です」


信勝が去った後も、義昭は、震えが止まらなかった。彼は、信勝という存在が、信長という男を遥かに凌駕する「怪物」であることに気づいた。信長は、権威を尊重してくれる。だが、信勝は違う。彼は、ただ、命令を遂行するだけの、冷たい「仕事人」なのだ。


信長の天下布武は、もはや信長自身の力で成し遂げる夢ではなく、信勝という名の「死神」が、ただ黙々とこなしていく、冷たい「仕事」になりつつあった。

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