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戦国新選組 最速×最速 -斎藤一が織田信勝に逆行転生した天下統一最速理論【首狩り外交編】-  作者: 五平


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第一話 義元の首、兄上への献上

熱田の杜は、初夏の湿気を孕んでいた。蒸し暑さの中、織田信勝は縄で雁字搦めにされ、泥にまみれていた。その首筋には、冷たい刃の気配が迫っている。


(……これで、終わるのか)


信勝の思考は、驚くほど冷静だった。一度は許された命だ。二度も兄に刃向かったのだから、当然の報いだろう。


(兄上……信長……)


強大な兄の影に怯え、嫉妬し、それでも認められたいと願った日々。すべてが走馬灯のように脳裏を駆け巡る。謀反を企てたのは、兄を超えるため。だが、結局は届かなかった。己の無力さを痛感し、信勝は静かに死を受け入れようとした。


その瞬間、頭の中に何かが流れ込んできた。


それは信勝のものではない。血の匂い、抜刀の音、薄暗い屯所の板張りの廊下、そして、燃え盛る京都の町。


(新撰組……斎藤……一……)


――思考が混濁する。信勝の記憶と、何者かの記憶が激しく混ざり合い、激しい頭痛が襲う。体は熱く、視界が歪む。


(違う……俺は……)


信勝は膝をついたまま、無意識に左手を動かした。縄に縛られた手は動かないはずなのに、幻影の中で、愛刀「鬼神丸国重」を抜き放つ。


その動きに呼応するように、柴田勝家が獣のような咆哮をあげて信勝に斬りかかった。


「殿に二度も弓引く愚か者めが!」


その一撃は、信勝の首を刎ねるはずだった。しかし、信勝の目の前で、勝家の腕が不自然に弾かれた。勝家はバランスを崩し、その太刀は明後日の方向へと飛んでいく。


刹那、処刑場にいたすべての兵士の刀が、乾いた音を立てて弾け飛んだ。


チャリンッ、と数本が地面に落ち、重々しい音を響かせる。


兵たちは何が起きたのか理解できず、ただ呆然と立ち尽くす。鋭い眼差しが、信勝に向けられた。縄はほどけていない。しかし、彼の周囲には、誰も刀を構えていなかった。


丹羽長秀は、震える声で呟いた。「化け物……なのか……」


信勝の意識が、ゆっくりと現実に戻ってくる。その瞳には、もはや怯えや後悔はなかった。宿っていたのは、ただ任務を遂行する者の、異様なまでの冷たさだった。


彼は、ゆっくりと、しかし確実に兄の方へ顔を向けた。そして、静かに、地に膝をつき、頭を垂れた。


「兄上。二度と、このような謀反は起こしませぬ」


その声は、微かに掠れていたが、信勝らしからぬ静謐さを帯びていた。家臣たちは言葉を失い、信長だけが、じっと弟を見つめている。


「……もし、許していただけるのなら――」


信勝の言葉に、信長は何も答えなかった。しかし、その時だった。


カチンッ。


乾いた音が、静寂に響いた。信勝の手に、いつの間にか握られていたはずの刀が、鞘に収まる音。それは、信勝の命が救われた音であり、織田家が死神を迎え入れた音でもあった。


信長は、その音の意味を、本能的に理解した。


――弟は、もう、信勝ではない。


その数日後。


尾張へ向かう大軍を率いた今川義元は、勝利を確信していた。彼は上洛の夢を胸に、ゆっくりと進軍する。


その日の軍議で、信長は焦燥を隠しきれずにいた。家臣たちを前に、今川軍を迎え撃つための策を必死に練っている。


清洲城の城下町では、不穏な噂が流れていた。


「昨夜、城門が開く音がしたんだ。血の匂いも少し……」


「いや、違う。夜陰に、馬でもない、風でもない、何かが一瞬だけ駆け抜けたのを見た。刀を引くような、乾いた音が聞こえた気がする」


「……いったい、何だったんだ」


町人や斥候の断片的な目撃談は、誰もが体験したことのない、得体の知れない恐怖を煽っていた。


「今川は間もなく桶狭間に……」


その時だった。


「兄上」


信勝が静かに広間に足を踏み入れた。彼が抱えるものが血で濡れているのが見えた。信勝は、ゆっくりと信長の前に進み出ると、軍議の机の上に、抱えていたものをドサリと置いた。


布包みが解け、中から現れたのは、血に濡れた今川義元の首級だった。


首から流れ出た血が、机の上の地図をじわじわと濡らしていく。半兵衛の緻密な作戦図――兵の配置、補給路、内通者の記号……すべてが赤黒く滲み、判読不能になった。


信長は、言葉を失った。


信勝は、無表情に一礼した。


「兄上。義元の首、持って参りました」


広間は、静寂に包まれた。誰も、この状況を理解できない。


信長は、ただ呆然と弟を見つめ続ける。


(……桶狭間、は?)


信勝の顔に、いつもの怯えや嫉妬はなかった。あったのは、ただ、任務を完遂した男の、冷たい静寂だけだった。


「これで、戦は終わりかと」


信勝は、そう告げて静かに去っていく。残された信長と家臣たちは、床に転がる義元の首と、静かに去っていく信勝の後ろ姿を、交互に見つめることしかできなかった。

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