第七話 エンゼスと二レス ~はじまり~
アンゼスが去った後、エンゼスは頭を抱えていた。
『二レスを二レスとして育てるってどうゆう事だよ…意味分かんない!』
エンゼスにとってはこのラボの管理をアンゼスから任されたからやっているだけで、何の愛着も執着もない。自分の想像が具現化され、時々変化する事が面白いから続けているに過ぎない。彼にとっては「遊び場」程度にしか思っていないのだ。
二レスについても然り。
容姿がアンゼスに似ているから気に入っているが、二レスがアンゼスではない事はきちんと理解し区別している。その為、気には掛けるが特別な思い入れ等は持っていない。ましてや、数百ものコピーが存在し話す事も出来ない「物」でしかない二レスに愛着等湧く筈もなかった。
アンゼスは一つの「可能性」を考えていた。
イレスを創造してからの事を思い返す…
ただの自分のそっくりさんで、言葉も何も話せず動く事も出来なかった彼に、知識を与え動きを教え何度も何度も言葉を掛け、少しずつ会話になるのを待った。
そしていつしか「意思」が芽生えた…
イレスの「意思」は「自我」とも言えるだろう。アンゼスは基本的な知識や動きを教えただけで、強制した事は一度もない。寧ろ好きにさせていた。
自分と同じ姿で自分と違う考えを持つ…それがアンゼスにとって、とても興味深いものだったのだ。
「意思」が生まれ「自我」が芽生える…「自我」とは新たな「個体」の誕生なのだろうか…
二レスはラボで何度もデータを上書きし、知識も経験もイレスより上回る筈なのに五回目の進化を遂げる事が出来ず、未だ容器は完成しない。寧ろ神界で暮らすイレスの方が丈夫なのは何故か。
イレスと二レスの違いは…
決定的な違いは「意思」の有無。
そう考えたアンゼスは、エンゼスに自分と同じように二レスを育てさせる事を思い付いたのだ。
アンゼスではなくエンゼスが育てたら、別の何かが生まれるかも知れない。
アンゼスが育てたイレス。イレスが育てたイネスとイデス。イネスが育てた鯨達やイデスが育てたアデス。容器そのものは育ての親に似せたものだが、育てた者が違えば結果も違う。
アンゼスに育てられたイレスが、イネスとイデスを育ててもイレスにはならなかった。
進化もまた同様に、其々程度も内容も違う。
これらの違いは、其々が別の「個体」であり、また其々に別の「意思」があるからではないか。
ラボにいる二レスを初めとする製造物達は「意思」を持たないから、一定以上の成果を得られないのではないか。ならば二レスに「意思」が芽生えれば…
これがアンゼスが考えた「可能性」だ。
『二レスに「意思」を持たせる事が出来るかな?期待してるよ…エンゼス』
エンタワー内のとある一室。
エンゼスはイライラしながら、エンタワーの最下層で核でもある「種核」に来ていた。ここはラボの「核」であり、イレスのコピー体の保管場所でもある。
ラボ内の全ての情報がここに送られ「核」に記録される。
そして、その「核」とはイレスの「脳」のコピーでもあるのだ。
ここで保管されているコピー体は、容器そのもので中身は空。真っ新な状態の単なる「器」に過ぎない。そして、その空の器に共存エリアの敗者から抽出した情報を過去のデータと組み合わせ再構築する。その後、そのデータを空の器に植え付け二レスとして起動させ共存エリアへ送る。
こうして起動した二レスは、データ上では共存エリア内…ラボ内ではエンゼスに次ぐ最強の存在なのだ。二レスが共存エリアに入っても無敵状態なのはそのせいである。
しかし、それでも数百体あったコピー体が残り一体となっていた。
何故なら、起動してすぐ体に馴染めず異常をきたし壊れてしまったり、共存エリア内でも新たな進化をしたものが出て、属性等の相性で負けてしまう事もあるからだ。
今回、あの巨大魚に負けたのもそれと言えるだろう。
『あ~あ、今回こそはいけると思ったのに…クソ二レスめ!!
…………って、うわあーーーーーーっ!!!コピー体があと一体しかないじゃんっ!!
どうしよう!!パパ帰ったばっかりですぐ戻って来ないだろうし、次パパが来た時に何の成果も出せてなかったら僕の事失望するかも…パパに嫌われたらどうしよう…もうここに来てくれなくなったらどうしよう……………いや、そもそもこっちから連絡出来ないのが悪いんだ!僕のせいじゃない。
そうだ、こっちから連絡させないパパが悪いんだ!!そうだ!僕は悪くない!!』
エンゼスは一先ずアンゼスに責任転嫁し、気持ちを落ち着かせる事にした。
『……でも、どうしよう……この一体がすぐに壊れたら…。
それに…パパは二レスを二レスとして育てろって言ってたけど、その意味もまだ分かんないのに起動させて万が一があったらまずいし…。
そうだ!意味が分からなかったから、起動させるのが遅くなった…若しくはまだ起動してないって事にすればいいんだ!そうだ!そうしよう!!それで少しは時間が稼げる!』
エンゼスは「育てる」の意味が本当に分からなかった。
言葉の意味自体は分かっていても、実際にやるのとでは雲泥の差があるのだ。ましてや育てるのが草木や花ではなく「二レス」という、アンゼスが最も重要視している存在。更に、残り一体しかない状態ではプレッシャーも大きい。
エンゼスは、自分の知識を総動員して「育てる」を片っ端から調べた。
『……手間暇掛けて世話をし成長させ、自立や能力向上の為の環境を整える…はっ!そんなの分かってるよ!意味は分かってんだよ!そうじゃなくて、何から始めてどう進めていけば良いのかを知りたいんだよっ!』
エンゼスは行き詰っていた。
すると突然、地球の人間の事を思い出した。
『そう言えば、地球の人間とかいう奴らも色々「育てる」をやってたな…何かのヒントになるか?』
それからエンゼスは、頭の片隅にある地球の人間の情報を引っ張り出してみた。
そして……
『めんどくせーーーーーーーーーーーっ!!!!!!』
熟考した結果出た第一声が「面倒くさい」だった…




