第四話 共存エリア〜怪鳥戦
では、神界ではなく共存エリアに送られたもの達はどうなるかというと…
そもそも「共存エリア」とは何か。
ラボはエンタワーを中心に大きく四つのエリア(第一エリア~第四エリア)に分けられる。そして、その四つに分かれたエリアは其々「小ラボ」と呼ばれるエリア毎に設置された研究所を中心に、更に四つに区分けされている。
四つのエリアには其々役割があり、第一エリアでは主に人型の研究を、第二エリアでは獣型を、第三エリアでは自然(水、火、土け、植物、鉱物等)を、第四エリアでは医療(外科、内科、薬物(ウィルス等)を研究している。
そして、各エリアのエンタワーに近い側の一部分を「共存エリア」と称した、最終実験場として使用している。
最終実験場である「共存エリア」では、器の限界や多様性、進化から覚醒に至る条件等を研究している。
「共存エリア」と言うと、響きだけなら異種族が共に暮らす場に聞こえるが、実際は…出会ったらその場で対決し負ければ死、勝てば次の遭遇に向かう、正に弱肉強食の世界だ。
「共存エリア」は神界全体と同じ位の広さだが、景観はまるで違う。神界の様な穏やかさ等は皆無。水は濁り、密林地帯もあれば砂漠地帯や岩石地帯、マグマが沸き立つ灼熱地帯、吹雪と分厚い氷で覆われた豪雪地帯…そんな場所が「共存エリア」なのだ。
幸いなのは、ラボに生存する生物は意思を持たない。
痛みや苦痛を感じないロボットの様なもの達なので、当の本人は何も思わないのだ。
造られ壊れる…ただそれだけ。
それでも研究としては一定の成果はあり、既存の器の環境毎の耐久性や状態変化等の様々なデータを取ることが出来た。
だが、それもアンゼスにとっては想定内の内容で、決定的な解決策は見出せていなかった。
ーーーーーーーー共存エリア内ーーーーーーーー
あちこちで爆音や奇声が聴こえる。
悲鳴ではなく奇声。
感情を持たぬもの達は痛みや苦痛を感じないが、衝撃に対して咄嗟に声が出る。それは嘔吐の際に「おえっ」と声を発してしまうのと同じ原理だ。
共存エリアの東南辺り。
大小様々な大きさの草木が密集し、薄暗く湿度の高いそこはまるで地球のジャングルの様な場所。
密集した葉により空からは見つかりにくいこの場所で遭遇するのは、大抵は陸上生物。
そんな薄暗い密林の中で、淡く光る何かがゆっくり移動している。さも、見つけてくれてと言わんばかりに。
光の正体は…薄い黄色の長髪…人型男性体だ。
男性体がふと歩みを止め、視線を上に向け生い茂る葉の僅かな隙間から赤い何かを捉えた。
頭部と尾はワニ、胴体は鳥、全身は真っ赤な炎に包まれ、シュウシュウと音を立て周りに空気が揺らめく様は、その炎の熱さがいかに高いかが窺える。
その怪鳥が、大きな翼を羽ばたかせ鋭い視線を下に向ける。
男性体の存在に気付いたのか、怪鳥は翼を激しく羽ばたかせ熱風を巻き起こし、辺りの草木を薙ぎ払った。視界が開け、互いをはっきり認識する。
そして互いの視線が合わさった瞬間、男性体の茶色い瞳孔が締まる。直後、双方同時に攻撃を放つ。
怪鳥は大きな口から真っ赤な炎を吐き出し、男性体は両手を炎に向けて突き出し両掌から水を噴き出す。
炎と水が激しくぶつかり、衝撃で爆風が辺りを吹き抜ける。次いで蒸気が立ちこめる。
視界が白く曇る中でも両者の攻撃は止まらない。
男性体の前方からは真っ赤な無数の鋭い羽根が飛んでくる。対して男性体は、を向かってくる炎の羽根を遥かに上回る数の小さな氷の塊を空から一気に降らせ叩き落とす。
炎の羽根を全て叩き落としても尚、止まる事なく氷の塊を辺り一帯に降らせ続ける。
徐々に視界が開け、互いの姿を目視出来る状態になると、地面は男性体が降らせた氷の塊で埋め尽くされ冷気が漂い、上空では怪鳥が旋回していた。が、その姿は先程まで体を包んでいた炎が消え、代わりに真っ黒な鱗で覆われていた。
男性体は無表情でその姿を見ると、茶色い瞳孔が一瞬締まり、次の瞬間には氷の塊を怪鳥目掛けて放った。
しかし、怪鳥の体にはダメージを与える事が出来ず、氷の塊は弾き飛ばされた。
直ぐ様怪鳥の反撃がくる。
怪鳥の体から黒い鱗が男性体へ向けて放たれる。男性体はそれらを素早く躱し、氷の塊と水の塊を交互に放ち反撃する。
両者共に決定的なダメージを与えられないまま、暫く攻防が続いた。
共に体力が消耗し始めた。特に怪鳥は体が大きく重量がある為、空中で飛びながらの長時間の攻撃に男性体以上に体力が消耗していた。
そして…
怪鳥は大きく口を開けると、喉の奥が赤く揺らめき始める。喉の奥の熱が徐々に赤からオレンジ色に変化し、口いっぱいに炎の塊が出来上がると同時に男性体目掛けて放たれた。
男性体も怪鳥の動きを見て反撃の準備をしていた。
両手を前に突き出し両親指と人差し指で三角を作る様に構え、その三角の中心に集中する。
小さな氷の塊を作り徐々に大きくなる。怪鳥の大きさを上回る大きさに達したタイミングで、怪鳥の放った炎の玉が男性体に向かってきた。
どちらも大きさはほぼ互角。
二つの塊が空中でぶつかる。対極する性質の塊が正面衝突し、爆風と真っ白な蒸気が辺りを覆い視界を奪う。
ドカーーーーーーンッ!!!!
ぶつかり合う二つの塊のうち炎の塊が氷の塊を溶かし、溶けた氷の塊は水の塊となり炎の威力を抑える。炎の威力が弱まったその瞬間を待っていたかの様に、水の塊の中心から無数の矢が怪鳥の心臓部目掛けて放たれ射貫いた。
ギィエーーーーーーーッ!!!
ドスンッ!!!
怪鳥は絶叫と共に地面に落下。間もなくして息絶えた。
男性体は戦闘中に怪鳥の動きと放たれる鱗の強度、放たれた瞬間の皮膚の状態等を分析していた。
そして、怪鳥が火を噴く際、僅かな時間ではあるが表面の鱗が部分的に赤くなり消え、再生されるのを見た。鱗が燃料の様な役割をしていると推測した。鱗が再生される迄の僅かな時間、皮膚の表面が弱体化する。そこが堅い表皮を貫く絶好のタイミングでもあり、唯一のタイミングでもあった。
男性体は自身の攻撃を二段階に形成した。大きな氷の塊の中に怪鳥が放った鱗を忍ばせ、敢えて炎にぶつけて溶かし、その後衝撃波で加速させ瞬時に心臓を貫くという計算だった。それが見事成功したのだ。
ザ…ザ…ザ…ザ…
男性体は横たわる怪鳥の傍まで来ると、頭部に右手をかざした。
怪鳥の体全体がキラキラと光り始め、徐々にその光は頭部に集まり、一塊になると男性体の掌へ吸い込まれた。光を体内に吸い込んだ男性体の体が一瞬光る。
光が消えると、横たわる怪鳥の下の地面に黒い穴が広がり、その巨体をまるまる吸い込んだ。怪鳥が吸い込まれ姿を消すと、地面の穴も塞がり元通りになる。
そして男性体は、何事も無かったかの様にその場を後にして立ち去った。
共存エリアでの戦いで勝利した方は、敗者の能力を受け取り自身の能力にする事が出来る。しかし、吸収した能力が既に持っているものと同じ場合は上書きされるだけで、特別な変化は得られない。
それは「進化に繋がらない」という事と同義でもある。
百勝と五度の進化(新しい能力を発現させる)…これが「共存エリア」を出る条件だった。
共存エリアに送られた実験体は、超高性能AIを搭載したロボット(姿は様々)の様な感じ。経験と対戦相手から得た能力を自身の脳に常に上書きされ、必要に応じて瞬時に行動の最適解を導き出す…そんなイメージです。




