第三話 ラボの役割
ラボの地形は神界とほぼ同じ。
実はラボは神界の裏側にあり、地形だけは鏡の様にそっくりそのままに出来ている。そして、密かに神界と繋がっているのだ。
エンゼスの住居兼研究室はラボの中心に位置しており、神界のアンゼスのご神殿に繋がっている。
神界では御神木がアンゼスを象徴するかの如く聳え立つが、ここラボではエンゼスが管理を任されている事もあり、彼の好きなものが建てらている。
その建物は一言では言い表せないものだった。
一見すると大木のようにも見えるが、近付いてよく見ると表面が細かい棘で覆われた緑色の無数の蔓が、複雑に絡み合いながら上空に向かって伸びており、その先は雲で覆われていて下からは見えない。
また、雲の手前迄は途中幾つかに枝分かれしており、その先々に大きな葉の様な形をした平たい面がある。その其々にログハウスの様なシンプルな造りの建物がある。形や造りはシンプルだが、色はなかなかに奇抜だ。その色は濃い黄色でエンゼスの髪色によく似ている。
そして、雲の上には…
真っ白な雲海に黄色く光る建物がある。その形は球根の様で上空に向かって伸びる先端には、小さな球体が乗っている。
その小さな球体がエンゼスの寝室で、アンゼス以外入る事が出来ない場所でもある。
下にある球根の形をした建物は、アンゼスで言う「瞑想部屋」…エンゼスで言う「試作室」なのだ。当然ここもエンゼスしか入れない。アンゼスも入れるが、そこへはこれまで一度も入る事はなかった。
何故ならそこはエンゼスのプライベート空間であり、アンゼス自身も自分のプライベート空間には誰であろうと…たとえイレスであろうと入ってほしくない場所だと考えているからだ。
エンゼス自身は全く気にしていないが、アンゼスは頑なに拒んだ。
黄色の建物の周りは茶色の地面が広がり、更にその周りを囲う様に建物と同じ黄色の水が外側に向かってキラキラと光りを纏いながら噴き出している。
この雲の上の建物を上から見ると、太陽に向かって堂々と咲く向日葵の様だった。
黄色と茶色は正にエンゼスの瞳の色である。向日葵も同じく黄色と茶色で構成されている。そんな花を見て、アンゼスが何気にエンゼスの様だなと言ったのがきっかけで、エンゼスはこの向日葵という花が好きになったのだ。
だが、気に入ったのは黄色と茶色を有する花の部分のみで、茎や葉には興味は無かった。エンゼスは元々、華やかなものや明るいものが大好きで地味なものや細かい事は余り好きではなかった。その為、初めのうち雲海の下の部分は無かったのだが、実験等の関係で近場に研究室が必要になりアンゼスのアドバイスにより、一本の大きな向日葵に見立ててここが出来上がったのだ。
ラボはエンゼスの住まう塔…エンゼスタワー略してエンタワーを中心に、大きく四つのエリアに分かれる。
エンタワーの北から東にかけてのエリアを第一、東から南にかけてのエリアを第二、南から西にかけてのエリアを第三、西から北にかけてのエリアを第四と区分し、其々のエリアの中心には専用の小ラボが配置されている。
この小ラボの裏側(神界側)は…
第一小ラボの裏側にはイデス峡(御山麓)が、第二小ラボの裏側にはイレス湖(神界南東にある浄化湖)が、第三小ラボの裏側には御海産が、第四小ラボの裏側には氷海がある。
実は、ラボで基準値を得たもの達の体(器)は、この繋がりを通して神界へ送られ神界で意思が自ら器を選び誕生するという仕組みになっている。
ラボとは神界で生まれる生物の体(器)を造る工場でもあるのだ。
このラボでは、イレスの体をアンゼスと同じ様に劣化しない体に変える研究をしている。
地球上の生物の進化で、単細胞が細胞分裂を繰り返しより強い子孫を残す為に多細胞となり環境変化に対応しながら変化と消滅を経て、様々な個体に進化していく…アンゼスはその過程を見て、イレスにも適応するのではと考えた。
そう考えてからは、人型に限らずあらゆる種類のもので試し実験を繰り返してきた。残念ながらまだ明確な答えは出ていないが、それらの実験で得た結果を参考に進化を促す事は成功した。
ただ、覚醒は感情が大いに関係するであろうという事しか分からず、その感情に至ってはアンゼス自身も分からない部分が多過ぎて、なかなか決定的な成果を出す事が出来ていないのが現状だ。
とは言え、様々な実験の副産物として地球にはない生物を生み出し、神界を彩る事が出来たのはアンゼスにとっては嬉しい誤算でもあった。
加えて、飽き性で常にアンゼスに構ってほしいエンゼスには、これらの製造は丁度いい暇潰しにもなる。正に一石二鳥だ。
神界とラボを行き来するアンゼスは、自分がいない間はエンゼスにラボでの研究を任せていた。エンゼスは初めは一人は嫌だと文句を言っていたが、二レスを与えた事と新種の製造も思いの外楽しかった為、渋々承諾した。
新種を造る際のエンゼスの感性はなかなか奇抜で、それはアンゼスにはないものだった。
アンゼスはそれをとても喜び、エンゼスもまたそのアンゼスの喜びように嬉しくなり、次々と新種を造っていった。
アンゼスが素材を提供し、エンゼスが手を加え合成する。
そして、アンゼスとエンゼスが造った合成体に一定基準を設け、クリアしたものは共存エリアや神界に送られる。
神界行きの合成体は、小ラボ内にあるアンゼスによって創られたゲートを通し、其々の特性に合わせて神界各地に送られる。
御海産や御山麓などから生まれる生物達が「それ」だ。
神界へ送られたそれらは、各地へ行く前に「選択の間」と呼ばれる空間に集められる。そこで「意思」が自ら「器の選択」をし「意思と器の融合」が行われた後、各地へ送られ誕生する。
「器の選択」をする際、意思達は器の最終形態や可能性を見た上で、自分の好みの器を選ぶ。但し、この段階で人型は無い。人型は最終形態のその先にある可能性として扱われる為、人型以外の器から選択する事になる。そして、選んだ器と融合した時点で、自分がそれを選んだという漠然とした感覚以外の記憶を消されるのだ。
神界に誕生した後は、其々の意思に全て委ねられる。潜在意識(細胞)の中に最終形態とその先の可能性の情報はあるが、それを求めるかどうかは意思次第。
進化を求めるのか現状維持で終わるのか…
それはアンゼスの与り知らぬ事なのだ。




