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創造神と愉快な仲間たち  作者: 川森 朱琳
第四章 もう一つの神界〜ラボ〜
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第一話 アンゼスと仮面の子供①

 ウェネスとの戦いから暫くして、神界も以前の落ち着きを取り戻し、其々が自らの意思により暮らしていた。




―御神殿では―



『イレス、私は暫く休むよ。今度は少し長いかも知れないけど心配しないで。』


『アンゼス様?どこかお体の調子が良くないのですか?』


『いや、体は大丈夫。ちょっと考えたい事があってね。』


『……そうですか。分かりました。神界の事はお任せ下さい。』


『うん。

……あ、そうだ。念の為防壁の作り方教えておくから、何かあったらお願いね。』


そう言ってアンゼスはイレスの額に手を置き、防壁の作り方を伝授した。


『………よし。これでイレスも私と同等位の防壁は作れる筈だよ。じゃあ、私はそろそろ休むから後は宜しく。』


『はい。おやすみなさいませ。』


イレスは頭を下げ、スーッと退室した。


『……最近色々あったから、アンゼス様もお疲れになったのかな。ゆっくり休めると良いのだが…』


 イレスの心配は半分当たりで半分間違いだった。

 アンゼスが疲れているのは当たりだが、その疲れの原因がイレスの考えるものとは違っていた。


 アンゼスは確かに疲れていた。

 自分の領域に他者が介入する煩わしさに…



 イレスが退室してアンゼスが一人になると…


『…ふぅ……やっと一人になれた…』


 アンゼスはこのところ自身の思考に入り込む未知の感覚に、理解出来ず困惑し疲れを感じていた。


 それは「感情」だ。特にオアリスに関するものは、理解が出来なかった。


 アンゼスと同じ位の好奇心には、当然共感も出来るし好ましい。

 一方、他者の関係にわざわざ関わろうとする言動には、理解どころかある種不快にすら感じる。

 それがアンゼスの実証実験の妨げになるとなれば、尚の事不快だった。

 アンゼスはオアリスへの好感を不快が上回りそうになり、それを自身が望んでいなかった為距離を置く事にしたのだ。


 自身と同じ創造神で、イアレスとは違い好奇心も探究心も有る。また、ウェネスの様に卑屈な考えや執着心も無く、精神的にも自立していて話していて楽しい…そんな存在を快く思っていた為、嫌いにはなりたくなかったのだ。



 大きく息を吐いたアンゼスは、一度目を閉じ気持ちを落ち着かせると目を開く。


 目の前に無数のパネルが現れ、空間を埋め尽くす。


 それらは、アンゼスのこれまでの実験(経験)の全てだった。


 アンゼスは時間も空間も全てを自在に操れる。

 アンゼスは自身のこれまでの記憶全てを無数のパネルに映し出し、まるでアルバムを捲る様に振り返る事で、そこから新たな発見や見解を見出だし次の想像を膨らませる。


 この記憶の中には、箱庭内で起きた事も全て含まれる。

 アンゼスはこれまで箱庭を幾つも創造しており、その中にはイレスも知らないものも多くあった。

 いや、イレスが知る箱庭は地球がある箱庭と、廃棄の為の箱庭だけで、それ以外は存在すら知らない。


 イレス達が住むこの神界すら、アンゼスにとっては箱庭の一つに過ぎないのだ。


 そして、神界が一つではない事等知る由もない。




 アンゼスは一通り記憶のパネルに目を通すと、目頭に指を当て少し解す。

 しかし、新たな想像は浮かばず疲労感だけが残り、相当疲れているな…と呟く。

 そして、目を閉じる。

 アンゼスの体がキラキラ光り始め、やがてその姿が消えた。




 次にアンゼスが目を開くと、そこは神界を一望出来る御神木の上だった。


 しかし、その神界にはアンゼス以外の存在は一つもない。イレス達が住む神界と景色は同じだが、それだけ。風も吹くし海のさざ波の音も川のせせらぎもある。


 ここはアンゼスが創った神界のコピーである。


 滅多に来る事は無いが、アンゼスが一人で考えに集中したい時と休みたい時に来る為に創った箱庭だ。


 これまで何度か来た事はあるものの、全て集中したい時に来ていて今回の様に休みたいと思って来た事は一度も無かった。


『………ふぅ…』


 大きく息を吐き、言葉は発しない。

 ただ眼前に広がる神界の景色を見つめるアンゼス。


 そして、御神木の上で大の字になる。体の背面に触れる枝や葉は羽毛の様に柔らかく、アンゼスを優しく包む。

 そよ風がアンゼスの長い髪を揺らし、御神木の葉を何枚か攫って舞う様に飛んでいく。


 アンゼスはぼーっとその葉が舞う様子を眺めながら、ゆっくり目を閉じる。


 今のアンゼスは目を閉じても無意識に創造してしまう様な事はないので、本当にただ眠っている状態。



 暫く眠ると、ゆっくり目を開いた。



『……様子を見に行くか…』


 そう一言呟くと、アンゼスの体がキラキラ光り始めすぅっと消えた。




 アンゼスが目を開くと、そこは御神殿の中だった。


 しかし、そこはイレスと二人で住んでいる静かな御神殿とは違い、何やら騒がしい。


 アンゼスは特に違和感も無く、勝手知る場所の如くスタスタと進み最奥の部屋に辿り着いた。


 真っ白な壁の前で立ち止まり、徐に壁に手を当てる。すると手を当てた場所が一瞬光り、目の前の壁がゆっくり開かれる。



『…っ!パパっ―――!!』



 アンゼスの体にガバっと抱きつく小さな子供。

 身長はアンゼスの太腿辺りで、濃い黄色の長い髪は艶々していて、光の当たり具合で金色にも見える。

 子供らしく高い声で、男の子とも女の子とも言える。顔には黒猫の仮面を着けていて、表情は分からないが瞳の色は髪と同じ濃い黄色で瞳孔は濃い茶色…まるで向日葵の様な溌剌とした目をしている。

 服装もアンゼスと同じで、古代ギリシャ神話に出てくるキトン(大きな一枚布を体に巻くスタイル)の様なもので、後ろ姿はアンゼスとよく似ている。


『うん。』


 そう一言言って、子供の頭を撫でるアンゼス。


『今回は来るの久しぶりだね。僕寂しかったよ~。』


『そうだった?』


『そうだよ!パパは僕の事忘れちゃったのかと思ったよ!!』


『そうか、それは悪かったね。けど、私が君を忘れる筈がないだろう?此処も君も私にとっては大切な場所だからね。』


 にっこり笑って、愛おしそうにその子の頭を撫でるアンゼス。


『うん!パパが僕の事も此処も大切に思ってる事は分かってるよ。でも、あんまり間が空くと心配になっちゃうんだ…』


『そんなに間が空いてたとは思ってなかったよ。悪かったね。けど、今回は暫くいるから安心して。』


『本当に!!ヤッター!!』


『本当だよ。さぁ、パパにお話聞かせてくれるかな?』


『うん!あっちで座って話そう!今回は色々あるよ、パパ!!』


『へぇ…それは楽しみだ』


 二人は手を繋ぎ部屋の奥へ歩いて行く。



 この子供と話すアンゼスは、神界での無邪気な少年の様な雰囲気とは違い、落ち着いた大人の様な話口調で、声も少し低くなっている。

 傍から見れば本当の親子の様にも見えるだろう。


 この二人の関係は一体…





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