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創造神と愉快な仲間たち  作者: 川森 朱琳
第三章 新たな創造神
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閑話 空への憧れ③


イデスはまだ訓練場に居た。


『……翼以外で飛ぶ方法…アデスはさっき魚が鰭を使って飛ぶって言ってたよな…見た事ないな…』


イデスはこれまで、アデス以外との交流をあまりしてこなかった。その為、誰とでも仲良くなるイネスと違って見てる世界が狭かった。


イデスは何となく、自分が見てきた世界が凄く狭かったのでは…と思い始め、少しだけ周りに目を向けてみようという気になった。


そこへ丁度、一羽の蝶がヒラヒラと飛んできた。

イデスは其方に視線を向け、蝶が飛ぶ様をじっと観察していた。


考え事をしている時のイデスの顔は、無表情で此方を見ている様で見ていないといった感じで、イデスをよく知らない者からすると、睨まれている様に思えてとても恐ろしいのだ。


偶通りかかったその蝶は、イデスの視線に気付き「ひっ!!」と怯え、慌てて飛び去って行った。


『……あの蝶…優雅に見えて意外と早く飛べるんだな…ふむ…』


イデスは蝶が飛び去って行った方を暫く見つめ、徐に立ち上がった。


『……イネスのとこに行ってみるか…アデス!…あ…そうだ、アデスは今居なかったな……歩くか…』


ここのところイデスは移動の際、アデスの背に乗り飛んで行く事が多かった。その為、無意識にアデスの名を呼んでいた。


『……アデスに頼るのも…直さないとな…』


アデスと一緒に空を飛ぶのは、イデスにとってとても楽しい時間で、いつも空から目に映るものを二人で共有し、意見を言い合い時に喧嘩して過ごしていた。


それはイデスにとって日常で、当たり前の事だった。


しかし、ウェネスとオアリスのやり取りを聞いて、少なからず思う事もあり、自分の当たり前にしていた事を…自分の世界を見つめ直す機会にもなっていた。


アンゼスの思惑通りに、彼女達のやり取りを見せた事で、神界に生きるもの達に影響を与えていた。



イデスは海へ向かう途中、一羽の鳥に遭遇した。


アデスよりはふた周り程小さいだろうか。体の線が細めであまり筋肉質でもない。尾なのかアデスの様に長く…派手だ。


『……随分賑やかな色味の羽?尾?だが、あれも鳥の様だが飛べるんだろうか…聞いてみるか…』


イデスはその派手な羽の様な尾を持つ鳥に近付く。

イデスが近付いてくるのに気付いたその鳥は、チラっと此方を見るとイデスの無表情にギョッとして慌てて逃げようとする。


今にも飛び立とうとするその時、イデスが待ったをかける。


『オイ、そこの鳥!待て!!』


『ヒィッ!!』


真顔のイデスは怖かった…


『…何故逃げる。ちょっと話しを聞きたい。』


『は、話しとは…な、何でしょう…』


待ったをかけられ、ビクッと体を跳ねガタガタ震えながらギギギ…と振り返る。


『……お前は飛べるのか?』


『……へ?…と、飛べるのか…ですか?』


身構えた割に間抜けな質問をされ、思わず変な声が出てしまう。

内心では「コイツ、何言ってんだ?」と思いつつ、イデスの真顔に怯える。


『…え、えっと…一応…飛べますが…』


そんなの聞いてどうするんだ?と首を傾げ答える。


『…そうか。他の鳥に比べて体が大きそうだが、本当に飛べるのか?筋肉もあまり無さそうだし…』


イデスのその言葉に、少しばかりイラッとする。


『……長い距離は無理ですけど、少しは飛べますよ!』


『……ふむ…じゃあ、飛んでみろ。』


『……ハァ?』


その言葉と偉そうな態度に、不快感を顕にした。


『……さっきから何なんですか?鳥なんだから飛べるに決まってるでしょ!それに僕は飛ぶ事よりオシャレの方が好きなんです!最低限飛べれば満足なんですよ!何か文句あります?』


『……そう…なのか?鳥なのに空を飛ぶよりオシャレの方が好きなのか?』


『…ハァ?鳥が皆空飛ぶのが好きって誰が決めたんですか?空飛ぶのが好きじゃなかったら鳥じゃないとでも言うんですか!?』


あまりに失礼な物言いと、自分の好きな事を否定された様な気分になり、先程まで感じていた恐怖心より怒りが勝り、言葉遣いに遠慮が無くなる。


『…いや、そんなつもりでは…』


『そもそも、翼がないアンタに鳥の事とやかく言われる筋合いないんですけど!アンタ何様だよ!!』


フン!と鼻を鳴らし、その場を飛び去る鳥。


『……あ!…怒らせてしまった…何で怒ったんだろう…アデ…スは居なかったな…ハァ…』


イデスは何が悪かったのか分からないまま、とぼとぼとまた歩き出した。


『……飛ぶ事よりオシャレが好き…か。そんな風に考えてる鳥がいるなんて、思いもしなかったな…これも、視野が狭かったからの無知…なのか?』


う〜ん、う〜んと頭を悩ませ、眉間に皺が寄る。

すれ違うもの達は、その顔を見て一様に逃げ出す。

目の前のものを射抜く様なその表情は、元々の無表情に拍車をかけ、より恐ろしく感じるものになっていた。


漸く海に着いた。キラキラ光る広大な海をじっと見つめ、視線を空に向け太陽の光に目を細める。


『……この海の上…あの空を飛べたら…』


海鳥が眩しい太陽の下、広い海の上を自在に飛び回る姿がイデスは羨ましかった。


視線を海に戻すと、水平線に何かが飛び出すのが見えた。それが何かはハッキリとは分からなかったが、幾つものそれ等が等間隔に水面から飛び出し、数メートル浮いた後また海中へ潜る。


『……あれは…アデスが言ってた…飛べる魚…か?』


イデスはもっと近くで見たかったが、あんな遠くまでは行けない。鍛錬のお陰である程度の水に対する耐性は付いたものの、イネスの様に水中で自在に動ける訳ではなく、また長時間水中にいる事も出来ない。


イデスは、自分が飛べたら…と、この時ほど強く思った事はなかった。


アデスがいない一人の世界…今まで目を向けてこなかった周りに、分からないながらも興味が湧き、知らなかった事を知るという事に楽しさを感じた。


それなのに、手を伸ばしても届かない興味に苛立ちが募る。


ぐっと奥歯を噛み締め、せめて…と目を凝らし手を伸ばす。


すると伸ばした手の先に、無意識に炎が纏う。

イデスの視線は遠く先のトビウオ。そのトビウオが飛ぶ様が頭の中で繰り返される。


その間、無意識に出した炎は手先から徐々に肘、肩へと伸び背中に迄届くと今度は勢いが増す。

ボッと燃え上がると、イデスの両腕は炎に包まれた翼の様になっていた。


イデスは無意識に砂浜を蹴ってジャンプした。

そして高くジャンプすると同時に、炎に包まれた両腕を大きく振る。それはまるで鳥が羽ばたく様で、ゆっくり高度を上げトビウオに向かって飛んで行く。


この時のイデスは何も考えていなくて、ただトビウオを近くで見たい…トビウオの近くに行きたい…それだけだった。


トビウオに近付き、間近で彼等の飛ぶ姿を見て目を瞠る。


『……こんな感じなのか…なるほど…鰭をそうやって…』


真剣にトビウオを観察し、満足するとふと我に返る。


バシャーンッ!!


考えに夢中になり過ぎて腕を動かす事を忘れた為、そのまま海へ落下した。

あまりにも遠く迄飛んで来ていた為、自力で戻るのは難しいと判断出来るが、イネスに念話を送って間に合うのかと考えた瞬間、イデスの体がグイッと持ち上げられふわっと浮く。


『…っ!アンゼス様!!』


『イデス、大丈夫?危なかったね。』


『すいません!ありがとうございます!!』


『いいよ〜。それよりイデス、飛べたじゃん!』


『……はい!よく覚えてないけど、飛べました!!』


『うんうん…頑張ったね。とりあえず、陸に上がってからゆっくり話そうか?』


『はい!……あ、すいません…お手数をお掛けして…』


『気にしなくていいよ〜♪』


イデスはアンゼスにお姫様抱っこの状態で抱えられ、陸まで運ばれた。



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