第十九話 イネスとシィの絆②
イネスの体から白い光が放たれ、イネスを覆っていた黒いモヤが一瞬で消滅した。
そして空から降り注いでいた光の粒子も消え、空を覆っていた光の粒子が一粒一粒光って消えた。
黒く染まっていた海も、徐々に元の青い海に戻っていく。
オアリスはその様を見て、驚きつつも安堵した。
『…海が戻っていく…もう大丈夫そうね…良かった…』
『まだだ…』
『……えっ?』
アンゼスはオアリスの前に手を翳し、空間映像を創って見せた。
そこには、海底で大きな黒い渦と対峙するイネスの姿が映し出されていた。
『…っ!……これは…』
『海底の様子だよ。あそこにいるのが、私の言う「あの子」…名を「イネス」と言うんだ。可愛い子でしょ?あの子も私が創ったんだよ。』
『ぇ…アスが創った?』
『そう。私は創造神だから…あの子もこの神界も、リスが旅した宇宙も私が創ったんだ。まぁ、宇宙は創ったと言うより、偶然出来たと言った方が正しいけどね。そして、宇宙で起きた事…勿論地球で起きた事も、この神界で起きた事も全て私は把握している。
だから、あそこに居なくても手に取るように分かるんだ。凄いでしょ?』
サラッととんでもない事を話すアンゼスに、オアリスは驚き過ぎて思考が停止する。
『……えっと…アスが創造神で…此処も宇宙も創って…何でも知ってる…って事…かしら…?』
『さすがリスは賢いね。簡単に言うとそうゆう事だね♪驚いた?』
『…いや、驚いたも何も…驚き過ぎて…何言ったらいいか分かんない…』
『そう?でも、リスも創造神の素質あると思うよ。』
『…ええーーーっ!!私が?!ないないない…私が創造神な訳な…あ…』
『…ふふ…思い出した?だから「素質」があるって言ったんだよ。』
『……あぁ…なるほど…』
『でもまぁ、それについてはまた今度…って事で、今はこっちだね。』
『あ!そうね!!』
二人は目の前の空間映像に視線を戻す。
『……みんな、ごめんね…ありがとう…』
イネスは心の闇から這い上がり、正気に戻った。
『…さてと…この黒い渦はどうしたもんかしら…』
イネスは目の前の禍々しい黒い渦を見て、対策を考えるが正体が分からなくては対処が出来ない。
『…やっぱりシィに何とか話しを聞かなくちゃダメね。シィは何処だろう……っ!!……まさか…あの渦の中じゃないでしょうね…シィ!返事して!シィ!!』
黒い渦に向かってイネスはシィの名を呼び続けた。
しかし反応がない。
イネスは諦めずに何度も何度も呼び続ける。
すると、ほんの僅かだがシィの気配を感じた。
『やっぱり…渦の中に飲み込まれたのね。シィの大きな体を飲み込むって事は、渦の中は見た目以上の空間が出来てるのかしら…だとしたら…アンゼス様みたいね……あ…アンゼス様!!』
ここにきて漸くイネスは、この状況をアンゼスに報告してない事に気付いた。
『あぁ…アンゼス様にもイレス様にも報告してないわぁ……マズイわね…絶対イレス様に叱られる…ぅぅ…』
報告を怠る失態に気付き、頭を抱えるイネス。
その様子を見てオアリスは首を傾げる。
『……ねぇ、アス?あの子…イネスちゃんだっけ?あの子何で急に頭抱えてるの?』
『あぁ…私とイレスに報告してない事に気付いたんだろうね。普段から何か異変を感じたら直ぐに報告するように言ってあったから、それを忘れてしまった事に気付いて項垂れてるんだろうね。
後でイレスのお説教が待ってると思うよ…ふふっ』
『……また新しい名前が出てきたわ…イレス…さん?』
『ここが落ち着いたら、皆を紹介するからそれまではスルーしといてもらえるかな?』
『そうね。その方がいいわね。』
『……あぁ…でも、悩んでももう遅いから、一先ずここを何とかしなくちゃ。よし!やるか!』
イネスは自身の浄化の力を込めた流れを作り、黒い渦の流れに沿うように少しずつ近付ける。
ゴォゴォと渦巻く黒いモヤの流れに、イネスの浄化の流れが合流し渦の内側に入り込んでいく。
徐々に浄化の影響を受け出した黒い渦は、少しずつだが勢いが削がれていき、取り込まれていたシィの気配が強くなっていく。
『……っ…見つけた!!シィ!シィ!!聞こえる?』
『…………イ…ネス…様…』
『そうよ!イネスよ!シィ!聞こえる?シィ!!』
『……う……イ…ネス…様…』
『シィ!無事?そこから出られそう?』
『……う……イ…ネス…様…申し訳…ありませ…ん…』
『謝らなくていいから!シィ、怪我はない?大丈夫?動けそう?』
『……意識…が…保て…ない…哀しみ…の…感…情が…』
『シィ!シィ!!しっかりして!シィ!!返事をして!!シィーーーッ!!』
それを最後にシィとの念話は途切れた。
『……シィ…この気持ち悪い渦を早く何とかしなきゃ…シィ…待ってて。絶対助けるから!』
イネスはシィからの僅かなヒントを基に、頭を最大限使ったがなかなか決め手が浮かばない。
が、一刻を争う状況な為手当り次第試してみる事にした。
『…哀しみの感情って言ってたから、それをどうにかすればいいのよね…多分。哀しみの基が何か分かれば…待って…そもそも哀しみの感情って…誰の?シィの?
シィの哀しみ…最近何かあったかしら………』
イネスが悩んでいる時、渦の中のシィは…
『……く…イネス様の足でまといに…やはり私は…』
「貴方じゃダメね…」
「貴方じゃ役に立たない…」
「貴方じゃあの子になれない…」
『……うるさい…やめろ…黙れ…』
「貴方は役立たず…」
「貴方じゃ力不足…」
「貴方なんて必要じゃない…」
『やめろ…やめろ…私は役立たずじゃない…私は必要とされてる…私は…』
「役立たず…」
「力不足…」
「必要ない…」
「可哀想な子…」
『やめろーーーーーーっ!!』
シィは堕ちた。
シィの体がみるみるうちに小さくなっていく。
そして黒く染まる。
暗闇に閉じこもって小さくなったシィは、自ら外の声をシャットアウトした。
無音…誰の声も聞こえないそこは、今のシィにとって安らぎにも似た安心感で、心が落ち着くようだった。
『あぁ…ここなら何も感じない。考えなくていい。
……苦しくない…』
その頃渦の外ではイネスが必死にシィの名を叫んでいた。
『シィ!返事して!シィーーーッ!!』
しかし、暗闇の中のシィにはその声は届かない。
『……ねぇ…アス…このままじゃ…』
『……まだだ…あれでは届かない…』
『……そんな…何とか出来ないの?』
『……シィが自分から出たいと思う事。方法はそれしかない…』
覚醒させるにはね…という言葉は伏せて、オアリスの問いにアンゼスは答えた。




