第六話 イアレスとブルートの決断②
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イアレスはどんどん格の違いを目の当たりにして何を思うのだろうか…
四人は御神殿を後にして、海へ向かって歩いてる。
神界は大きく分けて、御神殿を中心に東側に噴火山、西側に海が広がっている。
更に細かく言うと、東から北にかけて山脈が連なり、北に位置する辺りに湖がある。
そこは山脈の端に当たる低い山で、頂上が大きな窪みとなっており、その窪みにアンゼスが水を貯めたのが始まりだ。
その湖にアンゼスが定期的に水を補充し、溢れた水が流れ出る事で川となり神界のあちこちまで広がり、他の場所より少し低い場所に流れ着く。そこを海と呼んだ。
絶対鉱石を創ってからは、イデスの熱を込めた熱鉱石とイネスの冷気を込めた氷鉱石を使い、定期的に湖の上に雨を降らせ水を補給する様になった。
また、海から湖へと繋がる川は「帰湖川」と呼ばれ、湖がある山の麓にある「浄化湖」と呼ばれる貯水湖で一旦止まり、イデスの熱鉱石で煮沸されイネスの氷鉱石で更に浄化し、熱鉱石の熱を使い山頂の湖に汲み上げる…という一連の流れが出来た。
※因みに鍛錬の成果によりイネスとイデスは温度調節が出来る様になった為、鉱石毎に込めた温度を変えている。
それにより作業効率が良くなり、アンゼス、イネス、イデスの仕事が減り各々の時間が増えた。
仕事の時間が減る事で、イネスとイデスは己の鍛錬に時間を費やし能力アップに繋がり、アンゼスは二人の能力アップに伴い次の段階にいく為の構想を練る。
イレスは神界が整うにつれ巡回もスムーズに出来る様になり、イレスもまた自分の時間が増え、アンゼスと二人の時間も持てる様になり心が安定する。
……正に良い事尽くしだ。
イアレスとブルートは、近くを流れる川に沿って歩きながらアンゼスとイレスの話しを聞いていた。
二人は話の殆どを理解出来ないものの、アンゼスの凄さだけは理解していた。同時に興味が湧いて仕方なかった。
『あ!アンゼス様、イレス様!こんにちは〜』
『やぁ!元気そうだね。川の具合はどうだい?
何か気になる事はない?』
『今のところ気になる事はないです。寧ろ、いつも綺麗な水の中で暮らせて嬉しいです!』
『そっか♪喜んでもらえて私も嬉しいよ。何かあったら、子亀にでも伝えておくれ。』
『はい。ありがとうございます!』
そう言って川魚は泳いで行った。
『……何だ…あれは…』
『……さぁ…』
『あれは「魚」です。厳密に言うとあの子は「川魚」ですね。川を好んで暮らす魚を、私達は「川魚」と呼んでいます。』
『『……川魚…』』
イアレスはこれまで、草木等は自分も創った事がある為見ても然程驚かなかったが、泳ぐ魚は初めてで、ましてや思いついた事すら無かったので困惑した。
ブルートはと言うと、驚いたものの興味津々なのは目が語っており、口には出さないがあれこれ聞きたそうではある。
アンゼスもイレスもブルートのその様子には気付いていて、二人で目配せして微笑んだ。
『面白いでしょ?「意思」を持たせた水から、色んな生き物が生まれたんだ。これからも種類は増えていくだろうね。私はそれを見つけるのが楽しみなんだ♪』
『……水から…生まれる…?』
イアレスは生むのは創造神である自分で、自分以外のものから何かが生まれる等と考えた事も無かった。
それはとても信じ難く、納得出来るものではなかった。
『バカなっ!!あの魚とか言うやつも、アンゼス、ホントはお前が創ったんだろ?』
『違うよ。言ったよね?私は「きっかけ」を作っただけだと。魚も他のもの達も、自分の意思で生まれる事を…生まれる場所を選んだんだ。私が命令した訳じゃないよ。経験上、水は何かを生み易い環境って事は分かってたから、一際大きな水溜まり…海を創った。
でもそれは、あくまで素材を提供したに過ぎない。
それを使うかどうか、どう使うかは、選んだ彼等次第って事かな?』
『そんな話信じられるかっ!!』
『……ブルートを創ったのはイアレス、其方でしょ?
そして、創って直ぐに自分の複製ではなく別ものとして認め接してきたんでしょ?外見はソックリでも、其方とは違う…今のブルートになった。
それだって、体を創ったのはイアレス。つまり「きっかけ」を創ったのはイアレス。その後はブルート本人の意思で「個」が出来上がって今に至る。順序や方法は違えど、やってる事は私と変わらないんじゃない?イアレスだって、やろうと思えば此処みたいな…イアレス独自の世界を創る事だって出来ると思うよ。』
『……きっかけ?……ブルートが?』
『……イアレス…』
『其方は「壊す」事で気持ちの安定を保ってきたのかも知れないけど、折角創造神なんだから創り出す事に「楽しみ」を見出してみてはどう?「壊す」より「創る」方が私は楽しいと思う。』
アンゼスは背中に翼を広げ、地面を強く蹴り飛び上がる。そして空中で何度か回転しイアレスに向かって言う。
『私達は創造神だ!想像すれば何だって出来る!!』
空に浮かぶアンゼスはキラキラ輝いていた。
白金色の長い髪がふわふわと広がる。その様は、あの亀裂から漏れた眩しい光に似ていた。
『……創造神…』
イアレスはアンゼスの圧倒的な存在感に、ひれ伏したくなる様な気持ちと、格の違いをまざまざと感じ劣等感を覚え、悔しさと敗北感に包まれ歯を食いしばる。
『そうだよ!私も其方も創造神だ。』
アンゼスがゆっくり下りてくる。
『さ、海に行こう♪神界を色々見て、其方の思う世界がどんな感じか考えればいいんじゃない?
聞きたい事や分からない事があれば何でも言って。
分かる事は答えるし、分からなければ一緒に考えよう。ね♪』
『さ、イアレス殿、ブルート殿。行きましょう。』
アンゼスとイレスはニッコリ笑って先を促した。
茫然とするイアレスの背をブルートが押す。
『……行こうぜ、イアレス。』
ニカッと笑うブルートのその笑顔は、初めて見る…いい笑顔だった。
イアレスはその笑顔を見て何故か泣きたくなった。
『……あぁ…』
四人は再び海を目指して歩き始めた。
『……イレス。』
『……どうしました?』
『……イレスがイレスで良かった。』
『……ふ…何ですか、それ。
……でも、そう言ってもらえて嬉しいです。』
『……うん。ありがとう…』
『……こちらこそありがとうございます…』
ブルートに依存しながらも、まだ「孤独」から抜け出せないでいるイアレスを見て、アンゼスはイレスの存在に感謝した。
自分にはイレスが居たから「孤独」から抜け出せたんだろう…と。
イアレスとブルートは、お互い信頼してるのに思いの強さがブルートの方が上で、与えると与えてもらう形になってる様に見えた。
イアレスは与えてもらう事に慣れ過ぎて、与える事を疎かにしてる気がする…。
此処(神界)で暫く暮らせば、イアレスは気付くだろうか……ブルートの大切さに。
ブルートがイアレスの…アンゼスにとってのイレスの様な存在になればいいのにな…と思った。
敗北感と劣等感…自分は絶対的存在だと思っていたのに、同等になり、以下になる。
自尊心が強い人程、この劣等感はキツいですよね?
イアレスは立ち上がれるのでしょうか……




