第十三話 イデスの悩み②
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イネスは成功するのか…
膝を着いて項垂れるイネスを、じっと見つめるアンゼス。
『イネス。立ちなさい。』
アンゼスの普段と違う硬い声に、イネスはビクッと肩が跳ね恐る恐る顔を上げ立ち上がる。
『……すみません…アンゼス様。私の力不足で…グス』
アンゼスの硬く冷たい声に、自分の不甲斐なさが合わさり涙が込み上げる俯くイネス。
『……イネス…』
そんなイネスに、イデスも何と声を掛ければいいか分からず次の言葉が出ない。
『イネス。顔を上げて。』
顔を上げたイネスの額に、アンゼスの指先が触れる。
すると額に触れたアンゼスの指先が光り、イネスの頭の中にある映像が流れ込む。
イデスとアンゼスが御山麓で語り合う場面が映る。
イデスが鍛錬したいと思った経緯を打ち明け、問いかけている。
『どうでしょう?もしあの鉱石に冷気が込められるなら、イネスに心配かけずに一人で鍛錬出来ると思うんですけど、そもそもあの鉱石に冷気は込められるんですか?』
そこで映像は途切れた。
アンゼスがイネスの額から手を離す。
『イネス、何故この石に冷気を溜めるのか…分かったかい?』
『…………はい。』
『本当はね、月はついでなんだよ。私はイデスの気持ちを汲んでやりたいと思ったし、イデスの為だけじゃなくてイネス、其方の為にもなると思ったから此処に来た。イデスが傍にいれば励みにもなるだろうと、無理やり連れて来た。』
『……はい。分かります。』
『アンゼス様?イネス?何の話をしてるの?』
『……イデス。』
『ん?どうした?』
『私、もう一度やってみる。
……イデスの役に立ってみせるから!』
『ん?何の事?…………イネス?……アンゼス様?』
目に光が宿ったイネスと、それをうんうんと嬉しそうに微笑んで見ているアンゼス。
自分の独白をイネスに見られたとは微塵も気付かないイデスは、一人不思議そうに二人を交互に見ては首を傾げる。
『よし!じゃあ、イネス。やろう!』
『はい!』
そして、とうとう冷気を込める事に成功した。
『ヤッターーーッ!!』
『やったな!イネス!!』
『うん!ありがとイデス!!』
二人は無意識に抱き合い、喜びを分かち合う。
そんな二人を見ながら、アンゼスは「感情が齎す力」に更なる興味を抱くのであった。
『それじゃあ、冷気も溜まった事だし、イデスの鍛錬に向かおうか。
イネスは今の冷気の感じを忘れないように、此処に残って練習してね。』
『『……え?』』
『何?不満?』
『いえ、不満とかではなく、何をすればいいのか…』
『そうだなぁ……とりあえず此処を氷で固めといて。この位の大きさなら出来るでしょ?』
『えぇーーっ!この島をですかっ!!』
『うん。何か問題ある?』
『いや…問題というか…何と言うか…』
『ねぇ…イネスの決意は一回きりで終わるものなの?』
『……っ!!』
『必要な時、直ぐに使える様にしたいとは思わないの?それに、月も創るって言ったでしょ?
雪にも興味あったんじゃないの?
此処が氷の島になったら、その後どうするか、どうなるか…は考えられない?可能性は一つじゃないよ。』
『……っ!!』
アンゼスの言葉に、ここ最近の悩みを思い出すと同時に、新たな可能性が頭に思い浮かび胸が逸る。
『アンゼス様!やります!絶対やってみせます!!』
『そ?じゃあ、後は宜しく〜♪』
『…イネス、大丈夫か?』
『イデス、任せて!何か私、ワクワクしてきた!!』
『……フッ……そうか。なら頑張れよ。』
『うん!イデスも鍛錬頑張ってね!!』
『分かった。じゃ、またな。』
『うん。お互い頑張ろうね!!』
イデスは再びアンゼスに腕を掴まれ、その場から消えた。
御山麓にあるイデスの神殿に着くと、アンゼスは暫く黙ったままじっとイデスを見つめていた。
イデスは何だろう?と思ったが待った。が、自分を見つめたまま何も言わない時間があまりにも長く、痺れを切らしたイデスは口を開く。
『あの…アンゼス様?』
『………………』
『アンゼス様?私の顔に何か…?』
『………………ふむ。』
『アンゼス様?』
『イデス。其方、覚醒した時の事覚えているか?』
『え?覚醒した時の事ですか?……はい。一応…。』
『覚醒した時、何を考えていた?何を思った?』
『覚醒した時ですか……?
……う〜ん、イネスが心配?…気になって、様子を見たくて海に入って…喋れなくなるといけないと思って口を隠して…それから…急に動けなくなって…』
その時の自分の行動を振り返りながら、何を思ってたかなぁ…と考えてみた。
『イデス…イデス!起きて!イデス!!』
(あぁ、イネスの声が聞こえた気がして、体が動ける様になったんだっけ……)
すると目を閉じていたイデスの瞼がピクピクと動く。そして、ゆっくり目を開けた。
イデスの視界に涙目のイネスが映り、涙を拭おうと手を上げる…が、動かない。
(泣いてるイネスの顔が見えて、涙を拭おうと思ったのに腕が動かなかったんだよな…)
腰まで浸かった時点で、右腕は水飛沫を受けて固まっていた。前回の様に顔まで濡れると喋れなくなると考えたイデスは、左腕は肘を曲げ二の腕と肘下を出来るだけ密着させ左胸に当てた状態で、掌を口周りに当て濡れるのを防いでいた。
その行動が功を奏して、言葉は発する事が出来るイデスはイネスを見る。
『記録更新だ。凄いだろ……』
『バカ、バカ、バカ!!イデスのバカ!!』
『……何で泣いてんだよ…。ここは褒めるとこだろ!
相変わらずバカだな…イネスは。』
(そうそう。腕は動かなかったけど、口は動かせるのを思い出して…凄いだろって言いたくて…褒めてほしくて?…でも、バカってまた泣きながらイネスが怒るから…でも何かちょっと嬉しくて…?)
つり目気味のイデスの目尻が少しだけ下がり、口元が隠れていても笑っているのが分かる。
偶に見せるイデスの優しい眼差しに、安堵と胸を締め付ける様な痛みを覚える。
イネスは横たわるイデスの体に覆い被さる様に抱きしめた。イデスの命を確かめながら、早く体を温めたくて強く強く抱きしめる。
(それで…イネスに抱きしめられた時は、温かくて…安心して…何かよく分からないけど…嬉しくて…泣かせたくないな…と思って…)
顔を覆っていた腕が動くようになったイデスは「バカだな…」と微笑みながら、イネスの涙を拭い頭を撫でる。二人は暫く横たわったままの状態で、互いの存在を確かめるかの様に抱き合う。
『……正直、自分でもよく分からないんですが……
ただ…イネスを守りたい…泣かせたくないって思って…イネスとはずっと一緒にいるんだろうな…って。
……胸の奥が温かくなった気がします。』
そう言った後、吊り上がり気味のイデスの目尻がほんの少し下がり、瞳の色が僅かに赤みを帯びる。
その変化はアンゼスにしか分からない、極僅かな変化であった。
『……そっか。やっぱり「感情」が伴う時、何かしらの力が生まれる?…のかも知れないな。』
『そうなんですか?私にはよく分かりませんが…。』
『私もハッキリとは分からないけど、イレスが覚醒した時も私と心が深く共鳴して起きた…と考えると、イデス達の時も二人の心が深く共鳴したからと考えてもおかしくない。
覚醒は私が何かした訳じゃないからね。』
『えっ!アンゼス様の采配で覚醒したんじゃなかったって事ですか?!』
『うん。私はあの時、何もしてないよ。
あ!レオン殿は仕込んだけどね…テヘ』
久しぶりのテヘペロ…にイデスは無関心だった。
『そうですか…。でも、イネスといる時にいつも以上の力が出る事は時々あった…ような…』
『地球で言うところの「火事場のくそ力」的なやつだろうか…』
『何ですか、それ?』
『ん?あ〜、緊急事態の時に思いがけない力が発揮する…みたいな意味だな。』
『なるほど…』
『よし!まぁ、この話は今すぐ答えが出るもんでもないし、一先ず終わりにして鍛錬始めようか!』
『はい!』
『………………あれ?アデスは?』
『……え?アデスはまだ帰ってきてませんが?』
『何っ!!彼奴は何処で道草食ってんだっ!』
『……道草?』
『アデスッ!!何処だ!さっさと帰って来いっ!!』
念話でアデスを怒鳴りつけるアンゼス。
『ビックリしたーーーっ!!』
いきなり頭の中に怒鳴り声が降ってきたアデスは、その場で飛び上がった。
『……っ!!……まさか俺、今飛んだ?!』
思いがけない飛躍…いや、跳躍だった。
……残念っ!!
どう見てもイデスはイネスが好きですよね。
でも、その「好き」がよく分からないんです。
そもそも「愛情」そのものがどうゆうものか、分からないので説明も出来ないんです。




