ナゾの缶詰
「ところでソレ……何かわかってる?」
レインはセージュが手に持っていた缶詰を視線で示していた。
「何って、何かの肉だろ」
むき出しのスチール缶だから種類なんてわからなかったけども。そもそもラベルがあっても読める気しねぇけど。セージュも読み書きできねぇし。
「そうよね。わかりっこ、ないわよね」
綾根が気の毒そうに視線を落としながら言葉を漏らした。雰囲気怖いからやめてほしいんだけど。
「食べれるように魔改造された何かの肉で間違いないわ」
「一応、食べれる食料なんだよね」
セージュが不安に駆られながら手にしている缶詰を見下ろした。
「食べれるけども……食べようと思えない代物」
「あなたたちは最近見たことがあるかしら。害虫とか、人の死骸とかを」
思い返してみると不思議なほど見たことがない。争いで廃墟になった街だというのに人の成れ果ても、ゴミで溢れているのに集る害虫も。
「そもそも、缶詰なんて発明はエーレに存在していなかった。作ったのは、日本人という守護霊が取り憑いた宿主よ」
妙に納得いく答えだ。缶詰なんて文明、ある方がおかしい。保存食なんて普通干し肉ぐらいだろう。
って言うかみんなちゃっかり現代知識でチートやってたんだな。
「えっと、この缶詰はつまり虫とか人間のお肉って事?」
セージュのヤツ、聞いた話をそのままイコールで繋げやがった。いやまさか、人道的にそんな発明はせぇへんやろ。
「話が早すぎる。本当に、見守っている誰かの会話が……聞こえてるんだ」
驚愕している俺をよそに、レインが肯定の呟きを落とした。
マジかよ。なんて事実だ。俺だったら秒で吐いてる自信がある。
「ふーん、そっか。でもコレ以外食べれるものないから、しょうがないよね」
ただセージュは何の感慨もなく、缶詰を食料と受け入れた。
今度はレインと綾根が驚愕で目を丸くさせる。
「もっと、嫌悪感とか……ないの」
「なんでそんな淡々としていられるのよ」
そりゃセージュだって生き延びる為にハングリー精神を余儀なくされてたからな。タンパク質になりそうな物は何でも食べてたし。俺は目を背けたけども。
つくづく生体を持ってなくてよかったよ。食べる苦しみもないんだから。
「にしてもだ。どういう理屈でそんな物が缶詰になってんだ。今も誰かが作ってないと、缶詰がなくならない理由がわからねぇんだけど」
なんか、無限に製造されてるっぽいんだよな。
「いい質問ね。せっかくだからあなたたちにも見せてあげるわ。レイン、例の場所へ案内してあげて」
「セージュも、知った方がいい気がする……ついてきて」
綾根が声をかけるとレインが道案内を始めだした。正直怖い気持ちもあるけど、知った方がいいんだろうな。
「行こう、尚弥」
「だな、セージュ」
セージュもついてく気満々だし、知ってることを教えてもらうとしますかね。