付き添ってきた宿主
「セージュはどこを見ている? そこ……何もないけど」
レインが心底不思議そうに傾けていた首を反対へコテンと傾げながら問う。
「え?」
セージュと綾根の声が重なる。二人共、何に対して声を発したんだ。
「自然すぎて気付かなかったけど、あなたたち視線を合わせてた?」
先に疑問を口にしたのは綾根だ。
いや俺も疑問には感じていたけど、どうもセージュは存在を感じてるっぽいんだよなぁ。
「綾音さん達こそ見えてないの。12年一緒に付き添ってきたんでしょ?」
セージュが率直に疑問を投げかけると、レインは傾げていた首をググっと更に捻る。わけがわからないのを仕草で表現しているんだろうけど、俺たち守護霊はソレどころではない。
「ウソでしょ」
「マジかよ。俺どころか綾根も見えるのか」
今まで確認してこなかった驚愕の事実にド肝を抜かれる。しかもレインの仕草を見るに、宿主が全員守護霊を認識できるわけではなさそうだ。
「あれ? ひょっとしてレインには見えてないの。まぁボクも今初めて名前を知ったんだけどね。おじさん、尚弥って言うんだね」
名前を知ったことが嬉しいのか、セージュは無邪気な笑顔を見せてくれる。
「きっかり声まで聞こえてんじゃねぇか。守護霊と宿主の関係ってもっとモヤがかかってると思ってたから、自己紹介なんてしてなかった」
「見えてないと思ってたなんて思わなかったよ。妙に独り言が多いなって思ってたけども。じゃあ尚弥、コレからもよろしくね」
会話が成立してるし。手を伸ばされたから握手を返した。手を握った感覚こそなかったけれども。
改めて微笑み合う俺たちを、不思議そうに眺めるレイン。考えを放棄しているようだ。綾根は、大きく口を開いて静かに驚いていた。
「いやあなた達おかしいわよ。だって魔王軍が健全だった頃私の近くに四組の守護霊と宿主が近くにいたけれど、誰も認識なんてし合ってなかったわよ」
あー、そっか。俺は孤独にエーレへ降り立ったけど、学生の連中は集団で近くを選んで降り立ってたっけ。世界が滅亡に向かう前は交流があったわけか。
「尚弥、どういうこと?」
「つまりなぜか俺たちが特別ってだけで、普通はやっぱり見えねぇらしいぞ」
素朴な愚問に簡潔に答えてやる。理屈どうこうは俺もわかんねぇかんな。結果だけしか伝えられねぇ。
もしかしたら、生まれたときに憑いたのが影響してんのかも。
「そっか。綾根もレインも勿体ないね。せっかく一緒に生きているのに」
眉根を寄せながらセージュは悲しむ。勿体ないって感覚は、なんか斬新だな。
「よく……わからない」
「でも、いざっていうとき守ってくれる存在が近くにいたのはわかるよね。ソレが綾根。だから大切にしようよ」
目と瞑って首を横に振るレインへ、セージュはがんばって伝えようとする。守護霊の存在は、目に見えないから説明もしづらい。
「わからない、けど……大切な事な気がする。セージュが、少し羨ましい……かも。一人は嫌いじゃない、けど……ぬくもりも嫌いじゃないから」
「レイン」
虚ろ気に見えるレインの眼差しに、綾根が思わず名前を漏らす。
「なぁセージュ。俺らも結構苦労してたけど、苦労って俺らだけのもんじゃねぇんだな」
「きっと積み重ねてきた物は苦労だけじゃないよ。楽しかったこととか、たくさんあったもん。ボクたちも、ね」
俺たちも、彼女たちもって事か。
やれやれ、おっさんはいかんな。子供に人生を諭されちまうんだから。
生きる希望を持った人間ってのは、芯が強くて俺は揺らいじまうわ。