ダークエルフと女子高生
黒い肌にしなやかで長身のグラマラスなバディ。青白いショートの髪は艶やかだ。そして特徴的な尖った耳。
エルフってヤツだ。それもダークなエルフ。
守護霊という透明な存在に感謝してマジマジと観賞したいところだが、いかんせん白の眼光が剣呑すぎて俺にだらけることを許してくれない。
「気を引き締めて隠れろセージュ。お相手は殺気全力だ」
物陰に隠れるセージュを一瞥すると、気の引き締まった頷きが返ってきた。
大丈夫。俺が視線を切らさずに誘導すれば逃げ切れるはずだ。
にしても、どうしてこいつは食料庫に入るなり臨戦態勢に入ってんだよ。俺たちが入るところを見られたなんてのはあり得ねぇ。俯瞰図は常にチェックしていた。
俺が睨んでいる間にもジリジリと距離を詰めてきやがる。
「物音立てるなセージュ。ゆっくり奥へ歩くんだ。合図と同時に棚の裏側に潜り込め」
「驚いたわね。まさかこんな所で出会うなんて」
ダークエルフは喋っていない。出入り口の方から女性の声が聞こえてきた。もう一人いたのか。バカな、俯瞰図には捉えてねぇぞ。なっ。
姿を現したのは長い黒髪の少女だった。キレイな肌つやに童顔。そして着ているセーラー服。
「おまっ、まさか守護霊か。じゃあこのダークエルフは」
「私の宿主よ。レインっていうの。元魔王軍の魔法戦士部隊リーダーだったわ」
すまし顔で自己紹介をされる。魔王軍って人類の敵じゃねぇか。ってそりゃそうだよな。よくよく考えたらダークエルフだし。
それとセージュの位置がバレてるのにも腑に落ちた。お相手にも俯瞰図があるんじゃどうしよもねぇだろぉ。
ダークエルフ……レインは確実にわかって臨戦態勢を取ってやがる。まだまだ子供のセージュじゃどうしよもねぇ。
緊張感で胃が痛む思いだ。歯に力も入っちまう。
「なんだか必死ね。ひょっとしてあなたの宿主はあまり強くないのかしら」
涼しい顔で見下してきやがる。見た感じかなりの年下なのに、この絶対強者感はなんだ。レインはレインで無表情なまま粛々とセージュの処刑へ向かってるしよぉ。
「なんてね、冗談よ。やめてあげなさいレイン。相手は取るに足らないわ」
少女の声に反応したレインは肩の力を抜くと、短剣をしまった。ただし、視線はセージュの方を向けたままだ。
助かった、のか。
「驚かせてごめんなさい。私だって相手が屈強だったら困っていたもの。まっ、今のご時世にレインより強いヤツが残っているとも思えないけどね。コッチは警戒を解いたんだから、あなたも宿主を紹介しなさいよ。大丈夫、取って食ったりしないわ」
そうわ言ってるけど、俺たちを油断させる罠なんじゃ……いや、やめだ。どの道詰んでんだから信じる以外ないわ。
「かくれんぼはやめだセージュ。出てこいよ」
セージュを見下ろしながら促すと、棚の影からレインの前へと姿を表した。レイン達の目が驚きで見開かれる。
「子供……」
「驚いたわ。今この年だと、あなた誰を宿主に決めたのよ」
「セージュ。12歳だよ。お姉さんは?」
「俺が取り憑いたのは生まれたての赤子だぜ。さて、ついでに自己紹介だ。俺は尚弥だ。性は、まぁ今更要らねぇだろ」
もう俺たちは開き直りだ。とりあえず聞きたいこと聞いてやろう。
「私……歳……440くらい」
コテンと首を傾げながら律儀に答えるレイン。
「綾根よ。魔王軍を宿主に選んだ私が言うのもおかしいのかもしれないけど、赤子を選ぶ尚弥さんも相当な狂人だわ」
そして何がおかしいのか綾根は微笑みながら答えた。二人ともどこかヌケてて雰囲気がやわらかいな。
セージュ、どうやら俺たち、本当に助かったみたいだぞ。
横に並んで見下ろすと、セージュは視線を合わせながら微笑みを返した。