食料荒らしの冒険譚
割れて風通しのよさそうな窓から朝日が差し込んできた。照らされた木製の床は隅の方が一部抜けており、無事そうな場所も歩けばギシギシと軋む始末。
調度類はランプを含めて何もなく、まるで野営地のように日用道具が無造作に置いてある。
そしてボロボロの毛布に包まっていたセージュが陽射しに気付いて目を瞬ける。
「おっ、目が覚めたか」
聞こえちゃいないだろうけど声をかける。セージュは両腕をんー、っと伸ばしてから身体を起こした。
「いい天気だね。絶好の探索日和だ」
寝ぼけ眼で独り言を漏らすと、床に置いてあった道具から缶詰と魔力式コンロを取り出した。
セージュは魔力のようなものを流すとコンロに火がつき、缶詰を開けて温める。
質素な朝食だ。けどもう食べられる食料が残ってるだけありがたい世界になってしまった。
ゆっくりと噛み締めながら食べると火を消し、空になった缶詰を持ってドアから出る。
通路は玄関までのルートが開いているだけでそれ以外は天井が崩れたり壊れた調度類が山積みになったりで塞がれている。
玄関のドアさえも外れていて、歪んでいた。
ハッキリ言って寝泊まりするような環境ではないけれど、セージュはこの廃墟拠点にしていた。勿論無断でだ。
まぁ家の持ち主なんてとっくにいないだろうし、そういう法とか罪とか完全に機能しなくなってるから今更だけれども。
セージュが前屈みに玄関を潜ると、崩れ果てた街並み視界に映る。
家だった物はほとんど倒壊しており、瓦礫の山が辺り一面に広がっている。
元々王都の居住区だったエリアなのだけれど、魔族との戦いでこの有様だ。片付けようにも人がいない。
セージュが拠点にしている廃墟も充分に頼りないのだけれど、この惨状をみれば形が残っているだけありがたい。
因みにセージュの両親も他界済みだ。むしろ生き残っている方が異常なぐらいだ。
もうセージュ一人しか生きてないように見えるけれども、そういうわけでもない。俺の俯瞰図にしっかりと敵対する生命反応が確認できている。
セージュと同じように廃墟に隠れ潜んでいる人間も複数人いる。世紀末よろしくヒャッハーな連中なのだけれども。
油断は全く許されない。
セージュは缶詰のゴミを廃墟に放り投げる。見事なまでの不法投棄だ。地球、それも日本でやったら迷惑極まりない行為。
「まっ、スラム以下の治安でそんなことなんて言ってもしょうがねぇんだけども」
ゴミ箱もクソもあったもんじゃないし、ご丁寧に分別したところで業者がいるわけでもない。
「そろそろ食料も底が見え始めてるし、そろそろ新しい缶詰見つけたいな」
セージュは王都の中央にあった朽ち果てた王城を眺めながら呟いた。
これまでセージュが食いつないでこれたのは王城にたんまりと備蓄されていた缶詰のおかげだった。
エーレの缶詰技術様々だ。ついでに言うとこの付近一帯は戦場になってたわりに大気汚染が少ない。
噂では王城に大気を浄化させる魔道具が開発されていて、今なお起動されているとのこと。あわよくば見つけ出したいし、他の食料だって手に入れたい。
期待は薄いんだろうけども。
「んじゃセージュ、探索に行くか」
「えいえい、おー」
苦笑する俺に対して、セージュは意気揚々と右拳を突き上げながら王城跡地へ歩を進めたのだった。