だが……人類は死滅していなかった
199X年。世界は……って有名漫画のフレーズが頭に過ってしまう。
俺が転移した異世界エーレは、同じく転移した守護霊達の手によって瞬く間に戦争を悪化させていった。
セージュが五歳になる頃、遂に村へ魔物達が接近してきた。
五年経って初めて使う守護霊の権限。セージュに村から逃げるよう呼びかけ避難を促してみる。
とは言え相手は五歳児。危機感に気付かないかもしれないし、仮に気付いたとしても一人じゃ逃げられない。
当然両親に訴えかけ、生まれ育った村や家を捨ててまで避難できるかなんて考えたら期待は薄いだろう。親からすれば子供がありもしない恐怖に怖がっているだけなのだから。
ただ悪足掻きに一回やってみたに過ぎなかった。
俺の諦めとは裏腹に、セージュは伝えたとおりに動いてくれた。まぁ神から与えられた権限だから、ここまでは当然だろう。
予想外だったのはセージュの訴えに両親が即、応えたことだ。
俯瞰図から魔物の進行方向を確認し、逃げる方向を伝え一難を逃れる。
村が魔物に襲われている間に距離は稼いだものの、近隣の村まで危険はまだまだ点在している。
野生の獣、山賊、限られた食料に闇夜。
やはり無謀かと思った避難の旅だったけれど、危険が近付く度にセージュへ指示を出した結果全てをやり過ごすことに成功した。
よくもまぁ近隣の村へ逃げ込めたものだ。まぁその村も近いうちに壊滅の危機を迎えるのだけれども。
そんな逃亡生活を長年に渡って続け、セージュは心逞しく成長していく。
その間に守護霊達はドンドン戦火を拡大させ、核魔法をガンガンぶっ放し、そして瞬く間に数を減らしてゆく。
チャット欄にはエーレへの環境被害と守護霊達の断末魔が記載され、落ち着いた頃には悲惨な現状だけが残ることに。
エーレの大気汚染は深刻化し、エーレの生命は99%以上低下。広い地域に渡って人間は疎か、魔物すら生存できない状態に。
土壌だって荒れているので植物は育たず、カネという概念は消え去り、技術は消失し、ファンタジーだというのに魔法すら消滅した。
そんな異世界エーレで、俺とセージュはなんとか生き延びていた。一応守護霊も俺を含めて四人生き残っている。だからといって何の希望もないけれど。
「この結末にあの女神は何を思ってるんだろうな。頭を抱えて叫んでいるか、或いはトチ狂って哄笑してるか」
剣と魔法のファンタジーがバイオレンスな世紀末に早変わり、か。
「笑えねぇなぁ。環境悪化が進みすぎてもう、何もしなくても数年でエーレは滅んじまうんだから」
苦笑しながら十二歳まで成長したセージュへ視線をやると、振り返って微笑みを返した。
ボサついたショートの茶髪。赤い瞳に優しそうに垂れた目尻。陽に焼けた肌と線の細い体付き。
この先一人で生き延びるには心細すぎる。
「大丈夫、なんとかなるって」
楽観的だねぇ。っていうか俺の声、思いっきり聞こえてねぇか。
まぁできることなんてひとつしかないからな。この世界でセージュがどう生きるか、せいぜい見守らせてもらおう。