負けたら終わりのFPSみたいな地獄だった
セージュの成長を見守りながら、暇つぶしに女神からもらった権限を何度も確認する日々が続いた。
宿主が幼すぎてやれることもなければ、身動きすらとれないからな。例え代わり映えのない見飽きた光景でも、確認する以外できないんだ。
他になんか見れる物がないかなとなんとなく探りつつも、宿主を決めるときに聞こえてきた他の守護霊の会話を思い返していた。
「察しのいいやつから次々に勇者やその仲間、或いは国王とかに宿主を決めていってたっけれど、後半の方に魔王やその側近を宿主にするって聞こえてなかったか?」
エーレを救いたい女神がそんな暴挙を許すとは思わないけど、俺が赤子を宿主に選べた事を鑑みるにかなり杜撰な管理になってる気がする。
「しかも後半の会話と選択って、女神が帰った後だったしな」
よくよく考えたら、俺がセージュを宿主に選んだのも女神が帰った後だったっけ。
「まぁいいや。運次第では俺、早々に脱落しちまうからな」
今はまだ元気に成長しているセージュだけど、生存率はどの守護霊が選んだ宿主よりも低いだろう。
しかしそんな予想とは裏腹にセージュはすくすくと成長、気がつけば一歳になっていた。
「この村以外と平和だな。世界の危機が迫ってるから村自体も危ないと思ってたのに、魔物とかに侵略される事もなかった」
親子連れで散歩するセージュに憑いていきながら村の様子を見渡す。
発展しているとは言えないけど日々の生活は賄えている環境。人口もざっと五百人ぐらいはいる。木造の家も意外と頑丈そうだし、落ちぶれているわけではなさそうだ。
守護霊の残り人数も動く気配はないし、案外エーレは順調に救われているのかもしれない。
よちよち歩きのセージュを眺めながら、女神の権限で村を俯瞰していたら違和感を感じた。
「あれ、右下に変なアイコン増えてないか?」
アイコンに集中するとチャット欄みたいな吹き出しが出てきた。
「ついさっきまでこんなんなかったよな。って、とてもバイオレンスな事になってね?」
書き込まれているのは守護霊と宿主の行動、そしてそれでもたらされるエーレに対する影響だった。
勇者やその一向に憑いた守護霊が誘導して、魔王に支配された地を核兵器級の殲滅魔法で敵も囚われている人民も一掃したり、逆に魔王に取り憑いている側が勇者のいない手薄になった地をこちらも核兵器級の殲滅魔法で一掃したりを繰り返していた。
「無慈悲すぎねぇか。窮地に立たされている人間を救い出すとか、人間を捕虜にして働かせるとか、そんなこと気にもせずに殲滅してんじゃねぇか」
しかも核兵器級って、環境を思いっきり汚染してねぇか?
他にもまともな国王に取り憑いた守護霊が悪政に舵取りしたせいで大都市が暴動に包まれたり、優秀な冒険者がいきなり自分は真のサムライだと言いながら暴動を働いてはイーグルダイブしたりと滅茶苦茶になっていた。
「コレ、やばくね?」
守護霊の行動は目を疑うものばかりだ。女神だって気が気じゃないはず。いやひょっとかしたら、悲惨な現状を伝えて危機感を煽るためにこのチャット欄をアップデートしたのかもしれない。マジでゲームだな。
「あひょっとすると、このゲーマーみたいな立ち位置が守護霊たちの暴動に拍車をかけてんじゃねぇか」
もし転生とかの形で実際に生きている状態だったとしたら、いくら元が学生だったとしても慎重に動くはず。だけど俯瞰する立場でゲームみたいに操る側になっている。
そうなったら主人公に選んだ宿主だけが全てだ。何をやっても痛みに直結しない。操る事を文字通りゲームのように軽い気持ちで楽しんでいるのかもしれない。
しかも相手サイドにも守護霊はいる。言わば敵対している守護霊同士のチーム戦。いかに効率よく相手サイドにダメージを与えられるかしか考えていないのかも。
守護霊は痛みを感じないから多生の無茶を宿主にやらせてしまえる。危機感こそあるものの、自分でやるのと他人にやらせるのとでは踏み越える覚悟が全然違う。ブレーキが緩い。
「知らねぇ内に酷い陣取り合戦が行われてたし」
ふと視線を見えている景色に戻してみる。穏やかな青空。笑い合うセージュ親子。見慣れた村の光景。
「なぁセージュ。この村は平和だなぁ。信じられねぇかもしんねぇけど、エーレは今気軽にFPSみたいな戦争があちこちで勃発してんだぜ」
「あー、おー」
わかってかわからずかセージュがのんきな声を上げて小さな手を空へと伸ばした。
「俺の感じている憂いなんて、わかるはずもねぇか」
毒気を抜かれて溜め息が出ちまった。せめてセージュの平和が少しでも長く続くことを願うぜ。