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転生を許されなかった俺たちは守護霊として誰かを導かなければいけないらしい

設定だけ思い浮かんだので短めに書いていこうと思う。

たぶん更新はまばらになります。

 今日も普段通りの日常が始まるはずだった。

 スマホのアラームで目を覚ましては、まだ大丈夫と布団の中でウダウダと粘って起床。

 次の休日を恋しく思いながらスーツに着替え、鞄を持って家を出る。

 飽きてなお続けねばならない仕事を頭の片隅にギリギリまで追いやりながらバスに乗り込む。

 出勤時間と学生の登校時間が重なっているせいで狭苦しい車内。椅子に座るなど夢のまた夢、手すりにさえ掴まれるかも運次第。目を瞑ることさえも許されない。

 学生の談笑をうるさく思いつつ、羨ましくも思う。

 友人と気兼ねなく話し合える日常なんて学生時代までの特権なのだから。

 30超えたおっさんにまでなると、友人そのものが懐かしい思い出と化してしまう。

 疎遠になってしまうと、むりやり時間を作らない限り出会わない。

 そして出会わない時間が長くなるほど、遠慮や面倒くささが大きく育ってしまう。

 気がつけば孤立。

 いつの間にやら寂しい人生になったと思いつつも、友好の輪を広げたいとはどうしても思えなかった。他人との会話は気疲れしてしまうから。

 結婚生活に憧れがないわけでもないけれど、アレは相当相手を持ち上げる会話をし続けねばならない。

 ただでさえ慣れない事なのに、それを一生続けねばならないとなると気が重くなって仕方ない。

 結婚してからも気を抜けないのだから。

 俺に結婚は向いてないんだなと、とっくに自己完結済みだ。

 老後は心配だけれど、きっと現状なんて変わらず生活が続いていくんだなと思っていた。

 乗っていたバスが交通事故に巻き込まれるまでは。

 朝早い時間ということもあって半分眠っていた脳じゃ、何も理解できなかったけどね。


 気がついたら俺は空の上に立っていた。訳わからんけど二本の足をつけて立っていた。

 周囲には運転手を始め、バスに乗っていた面々が立っている。

 みんな驚いてキョロキョロと見渡したり、友人同士で慌てながら状況を確認し合っている。

 不意に天から神々しい光が射し込む。

 眩しさに手で庇を作りながら見上げると、見るも素晴らしい美貌をした女性が高くから見下ろしていた。

 作り物のように整った美しい顔に完成されたと言っていいプロポーション。変な言い方AIで描かれたような、人間の限界を超えた美しさをしている。

 絹のような純白のドレスを身に纏い、見る者全てを釘付けにする神秘性を兼ね備えている。

「私は女神レイケン。あなたたちは不慮の事故により肉体を失ってしまいました。突然のことで動揺もさぞ大きいことでしょう。心残りや無念も計り知れません」

 告げられた真実が心に染み渡っていく。俺は死んだのか、と。

 榊原(さかきばら)尚弥(なおや)として生を受けて32年。終わってしまっては呆気ないものだなと考えてみる。

 案外受け入れられるもんだな。まぁ俺も人並みに自殺願望はあったからな。ただ死ぬ痛みが怖いだけで、死そのものはある種の救いのようにも思っていた。現実という地獄から解放されるのだから。

 しかし周囲の学生達はどうだろう。彼ら彼女らは周囲の迷惑も考えられずに毎日を楽しんでいる、言わば自分がこの世界に産まれた主人公だと信じて疑わない無敵のポジティブを持っている存在だ。

 死なんて受け入れられるはずもなく、不満や文句を口にしたり悲壮に泣き叫んだりと阿鼻叫喚だ。

 神を相手に怒りをぶつける不届き者も少なくない。恐れ多い事なんだけど、錯乱しすぎて気付けないのかもしれない。

「英知ある者達の憤り、やるせなさも最もです。そこでせめて、私の世界エーレで人生の疑似体験をしてみませんか」

 女神レイケンの提案に周囲のざわめきが止んだ。

 コレはアレか。俗に言う、異世界転生というヤツか。

 このジャンルは最早有名な物語だ。原作は勿論、たくさんのアニメにもなっているから学生だって当然知っている。

 チート能力による異世界無双。やりたい放題、選取り見取り。当然学生からそのような声が上がる。

 飛び付かないはずがない、が少し事情は違っていた。

「残念ながら私には、あなたたちに肉体を与える権限はございません。ですが代わりに、守護霊となってエーレに暮らす人物の一人を導いてほしいのです」

 地味な妥協案だった。自身の手でちやほやされたい学生達は当然反感する。

「わかっています。みな誰もが自信の力で偉業を成し遂げたいことも。しかしどうでしょう。受肉をするということは当然、死の恐怖に再び苛まれる事となります。魔物に襲われれば当然、計り知れないほどの痛みを感じることとなります。身を切り裂かれる覚悟を持ってまで生まれ変わりたいですか」

 説得をしながら空に、魔物に襲われて死に絶える人々を浮かび上がらせた。生々しい光景に血の気が引いていく。悍ましい光景に悲鳴を上げる学生も少なくない。

「痛いのはイヤですよね。しかし守護霊ならば痛みとは無縁になります。側にいて導くだけでいいのですから」

 怖いぐらい美しい笑顔で俺たちを説得していく。いや、脅しを交えていいように誘導されている。直感が、警鐘を鳴らし出す。

「守護霊になれば取り憑いた者を誘導することができます。取り憑かれた者からすれば、虫の知らせを受けているような感覚でしょう。あなた方の世界に例えるなら、テレビゲームでしょうか。あなた方はコントローラを持って、取り憑いた者を操るといった感じです」

 実にストンとくる説明だ。ゲーマーとプレイヤブルキャラクター。主人公にはなれないが、主人公を操ることができる。確かに人生の疑似体験だろう。

「取り憑く相手は各々で決めて構いません。エーレの平和を守る勇者や魔法使いでもいいですし、絶世のお姫様や王子様なんかも存在します。望みを思い浮かべれば、近しい人物が浮かび上がるようになっているので是非試してみて下さい」

 説明を聞いた瞬間、我先にと考え込む学生が数人。決断力の速さは悪くないけど、何か見逃していそうで怖い。

「あそうそう。誰に取り憑くかは早いもの勝ちなので、人気の人物は急いで選んだ方がいいですよ。なんせあなたたちの世界と違って魔法がありますし、人間に敵対する魔族が存在しています。魔族に対抗できる人物を選ばなければ、為す術なく選んだ人物が殺されてしまうでしょう」

 妙な言い回しに疑問が降りてきた。取り憑いた人物が殺されたらどうなってしまうのかと。答えは間髪入れずに返ってくる。

「なんせ選んだ人物が死んでしまったら守護霊であるあなた方も消滅してしまいますから。恐ろしいかもしれませんが守護霊をするデメリットはそれだけです。どの道ここで誰かを選ばなければ自然消滅する身ですから、選ばなければ損ですよ」

 ははっ、やられたな。退路なんて最初からないじゃないか。

「どうか過ちを犯さぬよう、私の世界エーレを救って下さいませ。皆様のご武運をお祈りいたします」

 女神レイケンは言いたい事だけ言い切ると、微笑みながら透け通って消えいった。

 あの言い分だと飛ばされる異世界エーレは存続の危機を迎えているようだな。ただ選択を誤ったと思う。

 女神は日本人、それも学生の自由奔放な発想を甘く見ている。人間なんて神の望んだようには決して動いてくれないんだ。

 恐らくだけど、異世界エーレは滅ぶべくして滅ぶだろう。

 さて、俺はどうしようかね。誰も選ばずに消滅するのも一興だけれど、少しは余生を楽しみますか。

 どうせなら、ギャンブルでもしてしまおうか。

 独り微笑むと、一番手に該当した人物に魂をベットした。

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