エピソード2
謎の指示者「ミスターX」
それから数年後。慎一のもとに、一通の手紙が届いた。差出人は「ミスターX」。
「お前たちの行動は正しい。しかし、まだ足りない。真の敵を討て」
「……誰だ、これ?」
慎一は手紙を仲間たちに見せた。
「なんだこれ、誰かのイタズラか?」
「いや……書いてあることは間違っちゃいねえ」
手紙の内容には、朝日新聞が過去にどのように日本を貶める記事を書いてきたかが詳細に記されていた。さらに、慎一の祖父を自殺に追いやった7人の記者についての情報も添えられていた。
「この手紙の主は、俺たちが何をすべきか知ってる」
「お前、信じるのか?」
慎一は静かに頷いた。
「今までは俺たちだけで戦ってきた。でも、こいつは朝日の内幕に詳しい。つまり、中からの情報を持ってるってことだ」
「確かに……これは利用できるかもしれねえな」
「でも、こいつが何者かわからねえのが気になる」
「それは問題じゃねえ。大事なのは、この情報が俺たちにとって有益かどうかだ」
手紙の内容に従い、彼らはさらに過激な行動に移っていった。そして、ついに次の標的が決まる。
「朝日新聞大阪本社……ここを襲う」
「じいさんを死に追いやった朝日……俺たちの手で裁くんだ!」
その頃、「ミスターX」と名乗る男は、静かに手紙を書き続けていた。
彼の正体は、かつて慎一の祖父を取材した地元紙の記者だった。
「……彼らは、まだ真実を知らない」
男は独り言のように呟いた。
彼は若い頃、慎一の祖父に取材を申し込んだ。当時の大本営の内情を知る数少ない人物として、祖父は多くを語ってくれた。しかし、その記事が掲載された直後、朝日新聞の記者を名乗る7人が祖父に詰め寄った。
「戦争責任を取れ! お前が日本を戦争に引きずり込んだんだ!」
「切腹しろ! それがお前の罪の償いだ!」
記者たちは執拗に祖父を責め立てた。結果として、祖父は自ら命を絶った。
男はその光景を見ていた。
「俺は何もできなかった……いや、何もしなかった……」
罪悪感に苛まれた彼は、何年もの間、自分がすべきことを考え続けた。そして、慎一たちが動き始めたことを知ると、彼らを導くことを決意した。
「彼らに、俺ができなかったことをやらせる」
男は手紙を書き続ける。慎一たちを「赤報隊」と名乗らせ、朝日新聞襲撃を実行させるために。
1987年5月3日。
慎一たちは決行の日を迎えていた。
「行くぞ」
銃を手にした6人は、朝日新聞大阪本社へ向かった。
「じいさんの無念を晴らすために……!」
襲撃が行われた。銃弾が放たれ、朝日新聞社員が負傷した。慎一たちはすぐに撤収し、姿をくらませた。
しかし、彼らは知らなかった。
「ミスターX」が、その後の彼らの行動までも掌握していたことを。
「……これでいい」
影の男は静かに呟いた。
「日本を取り戻すためには、彼らのような存在が必要だったんだ」
彼の顔には、わずかに哀しみが滲んでいた。
「俺が直接手を汚すことはできない……だから、彼らを導いた。それだけだ」
しかし、慎一たちがこの真実を知る日は、まだ遠かった。完