エピソード1
赤報隊の影──日本民族独立義勇軍の誕生
1980年、ある地方都市。冬の澄んだ空気の中で、新聞が配られる音が響いていた。夜明け前の静寂を破るように、自転車のブレーキ音が軋む。
「すごい人がいるんだってよ」
高校2年の慎一が、仲間たちに興奮気味に話した。
「誰が?」
「正木のじいさんさ。元・大本営の参謀だったって
地元紙に掲載された記事には、戦時中に参謀本部で活躍した正木誠少佐の姿があった。大本営時代の上司とともに取材を受け、かつての作戦や戦後の日本の在り方について語っていた。彼は穏やかでありながら、国家のために尽くした誇りを持っている人物だった。
「すごいよな。こんな身近に、そんな人がいたなんて……」
「俺たちの町にも、本物の軍人がいたんだな」
中高生6人のグループは、正木誠の存在を通して、自らの国への意識を新たにしていた。
しかし、その静かな日常は突如として崩れ去った。
ある日、正木誠は自宅の書斎で首を吊って死んだ。遺書には、「私は間違っていたのか。許してくれ」とだけ書かれていた。
その背景には、朝日新聞の記者たちが関与していた。彼らは戦争責任を追及する活動を行っており、正木誠に対して執拗に「戦争責任を取れ」「腹を切れ」と迫っていた。彼らは学生運動の名残を引きずるヒッピー崩れの記者7人で、戦争の責任を個人に押し付けようとしていたのだった。
「何だよ、これ……」
祖父の遺影を前に拳を握りしめた。
「じいさんが何をしたっていうんだ。戦争は国の命令だったんだろ? それを今さら責めるなんて……」
「朝日の連中が追い詰めたってことか?」
「許せねえ……こんなの、正義じゃねえよ」
少年たちは怒りに燃えた。日本のために戦った男が、戦後40年も経った今になって糾弾され、死を選ばなければならない理不尽さに、彼らの胸は張り裂けるようだった。
「だったら、俺たちがやるしかない」
慎一は震える声で言った。
「何を?」
「復讐だよ。こんなふざけた連中をのさばらせておくわけにはいかない」
少年たちは顔を見合わせた。そこに迷いはなかった。
こうして彼らは、「日本民族独立義勇軍」を結成した。
彼らの標的は明確だった。朝日新聞。
「この国をダメにしてるのは、こういう連中だ」
計画は入念に練られた。彼らは各自の役割を決め、襲撃の日に備えた。拳銃や爆弾を手に入れる術はなかったが、彼らには確固たる信念があった。
「決行は3月」
朝日新聞大阪本社。彼らは社屋の前に立った。緊張に喉が渇く。
「行くぞ」
火炎瓶が投げ込まれ、炎が爆ぜた。社屋の一部が焼け落ち、新聞の印刷機が停止する。混乱に乗じて、彼らは立ち去った。
後日、犯行声明が新聞社に届いた。
──我々は日本民族独立義勇軍である。貴様らの売国行為を断じて許さぬ。正義は我らと共にあり──
警察は捜査を進めたが、彼らを捕らえることはできなかった。彼らは再び闇に消えた。
その後、日本民族独立義勇軍の名は歴史に刻まれることとなる。
彼らがその後どうなったのか、誰も知らない。だが、彼らの行動は、確かにこの国の歴史に爪痕を残した。
誰もが口にこそしなかったが、彼らの義憤に共感する者も少なくなかった。
──日本とは何か。戦争とは何だったのか。
彼らの思いは、炎と共に、確かに燃え上がったのだった。