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円満追放  作者: RINSE
プロローグ
4/14

第3話「復讐開始」

「バルグボルグ?」

「ん? なに? どした?」


 耳にバルグボルグの息がかかる。


「あの、ちょっと力緩めて……折れる、折れちゃう」

「え、あ!! ごめん!!」


 バルグボルグが慌てて手を離した。

 エグズは肩で息をする。危うく背骨が砕かれるところだった。


「だ、大丈夫か?」

「全然平気だよ。中に入ろう」


 ここだと誰かに見られる心配があった。バルグボルグは頷いてエグズの腕に抱き着く。彼女の柔らかな体の感触が伝わっていくる。

 部屋の中に入ると、椅子に座っていたスイが立ち上がり深々と頭を下げた。


「先輩! お疲れ様です!」

「うん、お疲れ。色々と動いてくれてありがとな、スイ」


 頭を上げて頭を振る。


「先輩の苦労に比べれば自分なんて。2週間も時間をかけてしまい、申し訳ございません」

「むしろ2週間で引っかかってくれたんだ。重畳(ちょうじょう)だよ」


 エグズはベッドの上に腰掛けた。抱き着いたままのバルグボルグはエグズの腕を撫でる。


「傷は? まだ痛むか?」

「大丈夫。バルグが綺麗に落としてくれたし、スイの回復魔法は優秀だからすぐに痛みは消えた」

「本当ごめん。ごめんな……」


 バルグボルグが目尻に涙を浮かべ体ごと抱きつく。彼女の豊満な乳房が形を変えた。


「泣かないでって。こうするのも作戦の内なんだから」

「だけどさ」

「お願い。泣かないで。バルグに泣かれる方が腕落とされるよりも辛い」


 優しく頬を撫でる。彼女の頬が髪色と同じ朱に染まる。


「よぉ~っす」


 部屋のドアが開かれた。ビルジーだ。片手に持っている買い物袋には酒が大量に入っていた。


「お。エグズじゃ~ん。2週間ぶりだな。顔色も良くなってるな」

「おかげさまでね、ビルジー先生」

「先生だぁ? 煽ってんのかお前」


 ヘラヘラと笑いながら袋を置くと、ビルジーは胸ポケットから医療用ペンライトを取り出す。


「眼帯取ってみ」


 黙って従う。右目にライトが照らされているらしいが、その光を感知することはできなかった。


「よし。綺麗に潰れてるな。ちょっと眼球傷つけたくらいじゃ意味ねぇし」


 次いで左腕の傷口を確認する。


「あん? あ~……そっか。そういや肘からだったな」

「話は通してるだろ?」

「スイが伝えてるよ」

「怒ってた?」


 ビルジーが苦笑いを浮かべるとドタドタとした足音が部屋の外から聞こえた。


「ほら来た」


 ビルジーは肩を竦めエグズから離れる。

 勢いよくドアが開けられた。足で開けたらしく派手な音が鳴る。スイが溜息を吐く。


「大きな音立てないでください。バレたらマズいの理解してるでしょう」

「うるさい!」

「うるさいのはあんたですよ!」


 怒号をふりまくのは予想通り、エーセル・ヒールだった。

 エグズを見つけた彼女は目付きを鋭くした。


「バルボル!」

「だから、その略し方やめてろって」

「どうして作戦通りに動かなかったんだ? 左肩から切り落とす予定だっただろう!」

「だってさぁ」

「だってもクソもない!」


 バルグボルグは顔を下に向けた。エーセルは舌打ちし、毛先が緑に染まった茶髪を掻き上げる。


「まったく」


 エグズの前に行き片膝をつく。下から上に視線を動かす。


「これも運命ってやつかな。ボクとお揃いになるなんてね」


 彼女は自分の黒い眼帯を指差す。


「光栄だよ、エーセル」

「何言ってんだか。すぐ眼帯なんかいらなくなるくせに」


 エーセルはリュックを床に置き、中から白銀色の何かを取り出しテーブルに置く。


「用意していた機械体部(マキナフィジック)を加工して持ってきたよ。誰かさんが肩口から腕を落とさなかったせいで、急ピッチ調整だけども」

「おお、ありがとう!」

「それと義眼。これも加工してきた」


 義手の隣に眼球を置く。


「動作は確認済み。安心して」

「さすが仕事が早い。注意事項は?」

「義眼の耐久力は直接アイスピックとかで刺されたりしない限り大丈夫。義手の方は調整のせいで装甲が薄くなってる。あと共通で、長時間動かすとオーバーヒートするから注意して」

「魔力伝導は?」

「二の腕部分を除去しているからかなり伝わりやすい。だから暴走しやすくもなってるんだけどね」

「充分だ。ありがとう、エーセル」

「どういたしまして……オジサン!」


 義眼を転がしていたビルジーが肩を上げる。


「雑に扱わないでくれないかな。そいつは頭領の物で、ボクの自慢の作品なんだよ」

「へぇへぇすんませんね」


 謝りながらも転がす手を止めなかった。

 エグズはスイを手招きする。


「相手の組織名がわかった。ダヴフロック。スイがいた世界の言葉かな?」

「英語です。噂通りでしたね」

「意味は?」

「ダヴフロック。意味は「鳩の群れ」です」

「……ありがとう」


 口角を上げ立ち上がる。

 すると全員の表情が引き締まり、エグズに視線が集まった。


「みんな、機は熟した。これからが本番だ。10年以上待ち続けた俺の復讐に、もう少しだけ付き合ってくれ。軽い気持ちで話しているけど、普通に命を落としてもおかしくない危険な作戦だ。本当に注意して欲しい」

「任せてくれよ! 約束通りお前の復讐を完遂してやる!」

「先輩のためなら命張りますよ!」

「俺は金と酒が貰えればいいから。報酬はちゃんと払えよ」

「安心して、頭領。何があってもボクが守るから」


 その時、スイが声を上げた。


「先輩。テスタに関してですけど、時間通りになったら突撃するって意気込んでました」

「あの子は相変わらずだなぁ。心強いよ」


 苦笑いを浮かべながら言うと、エグズは一同の顔を見る。


 龍墜(りゅうつい)の騎士、バルグボルグ。

 獄白(ごくはく)の騎士、スイ・ミカヅチ。

 刃馬(じんば)の騎士、エーセル・ヒール。

 死染毒牙(しせんどくが)の騎士、ビルジー・アーミング。

 

 そして、ここにはいない黎明(れいめい)の騎士、テスタ・レフィノの姿を思い描き、大きく頷く。


「じゃあ────行こうか」


 仲間たちが声を上げ、答えた。


 10年以上待ち続けた。この時が来るのを。


 エグズの脳内に、これまでの出来事が走馬灯のように流れ始める。

 現実の時間にすれば一瞬の追思。


 だが彼からすれば、長い時間旅行が始まるようだった。


お読みいただきありがとうございます。

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