表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
円満追放  作者: RINSE
プロローグ
3/14

第2話「準備段階」

 ロンディールは、オーディファル大陸の中で5番目に大きな国である。武具の生産が盛んであり仕事の7割以上が武具の製造と販売。ゆえにこの国は「鍛冶の国」とも呼ばれている。


 無数の武具屋が存在するこの国で生きていくには、鍛冶の技術、もしくは武具の知識が必須。そういった点から、ガーディアンの転職先としても機能している。


「冒険者……じゃないか。今はガーディアンって言うんだっけ。モンスター退治を生業(なりわい)にしてたのか、修練を積んでたのか知らないけど武具知識はあるだろ。まずは商品販売から────」


 といった感じで、すぐに働ける環境が整っている。

 だがそれは()()()()という暗黙の前提条件の上で成り立っている。


「ガーディアンで、しかも()()()()と一緒に働いていたのに、追放ねぇ」


 エグズの面接を担当する、長い灰色の髭を一つに結んだ鍛冶師は足を組んだ。

 一度大きく唸ると、咥えていた煙草をテーブルの灰皿に押し付ける。


「まぁクビ切られることなんか誰にでもあるぁな。ただなぁ」


 申し訳なさが3割、迷惑そうな感情が7割、といった瞳をエグズに向ける。


「片目片腕で鍛冶未経験はちょっとなぁ。まだ若いから別の道の方がいいんじゃないか」

「……販売訪問、とか、商品宣伝とか」

「ああいやさ。そっちの方は人が足りてるんだよ」

「な、なんでもします」


 鍛冶師は一度大きく鼻から息を吐いた。


「人手が足りてるから、今回の件はまぁ、お見送りってことで」


 作り物めいた表情を向けられ、エグズは口を閉ざすしかなかった。

 諦めずにもう一軒の鍛冶屋を訪れるが、門前払いのような扱いで拒否された。


「10年以上ガーディアンやって「ランク・サファイア」なんて、やる気がねぇ証拠だろ。そんな奴雇ったらウチの評判が下がっちまうよ。というか、なんで騎士の連中とつるめてたんだ? お前」


 ぞんざいな言い方をする店主に頭を下げ、エグズは逃げるようにその場を去った。

 街中を歩くだけで周囲の視線が気になった。誰もが彼もが侮蔑の視線を投げているように思ってしまう。


 エグズは大通りから外れた所にある人気のないカフェに入り、隅の席に座った。

 職と腕と目を失ってからすでに2週間。職を失った翌日は高熱と悪夢にうなされまともに動けず、片目片腕の歩行に慣れるのに1週間を要した。


「どうすんだよ……俺」


 大きく溜息を吐く。ガーディアンを辞めるため色々と動き回っているが、中々話が来ない。

 もっと目立つように動かなければならないか。


「相談してみるか」


 店員にアイスコーヒーを頼み、ポケットから琥珀箱(アンバーシェル)を取り出す。この薄い長方形の箱は生活に欠かせない魔法道具だ。

 魔力を流すとディスプレイに画像が浮かび上がる。エグズは画面に指を這わせた。


「エグズ・アルペジオ様でしょうか」


 顔を上げる。クリッとした大きな目が特徴的な、可憐な女性が見つめていた。

 慌てて頷きを返すと、彼女は一言断って、エグズの前に座る。


「はじめまして! 私はシルフィア・パラキートと申します」


 自分の胸元に手を置き名乗った女性は人懐っこい笑みを浮かべた。

 首を傾げるエグズに「あ」と言って頭を下げる。ピンクベージュのセミロングヘアが大きく揺れた。


「申し訳ございません。急に話しかけてしまって」

「い、いえ。構いません。あの、私に何か、ご用でしょうか」

「ぜひ私の話を聞いていただきたいのです。仲間から見放されたガーディアンというあなたにこそ、価値のある話かと」


 エグズは顔をしかめた。


「宗教関係の話なら、お断りです」

「まさか」


 シルフィアは苦笑いを浮かべ頭を振る。


「私が所属しているグループは追放されたガーディアンたちを集めているのです」

「それは、なぜ?」

「仲間に裏切られた、自分の能力不足で切られた……理由は様々ですが、追放処分という現実に絶望し自殺する方や、職を辞す方の数は年々増加しております。この国の兵士とも呼ぶべきガーディアンは蔑ろにされるべき存在ではありません」

「だから、あなたのグループが保護すると?」

「はい! 保護だけではなく皆様の潜在能力を引き出させていただきます」


 シルフィアは持っていた鞄から青い瓶を一本取り出した。


「もし自分の力を確かめたいと思うのであれば、これをお飲みください」


 あまりの怪しさにエグズは目に角を立てる。


「からかっているんですか? ふざけるな。こんなものに頼る俺じゃない」

「私は本気です。飲めば必ずあなたは生まれ変わる。失い続けたあなたにこそ試して欲しいのです。あなたはここで終わるべきガーディアンではありません。()()()()と呼ばれる凄腕のガーディアン達とパーティを組んでいたあなたが、無能なわけがない」


 エグズは険しい表情を崩さない。だが妙に自信に溢れた相手の言葉を信じてみたくなった。

 断ったとしても、結局のところ強がりなのだ。自分はもう、終わった人間だ。


「騙されたと思って飲んでみるのも一興か」


 眉間の皺を取る。飲んで小馬鹿にされても笑って許せる心の持ちようができた。


「後悔させません」

「毒でないことを祈りますよ」


 瓶を手に取り一気に流し込む。無味無臭の炭酸水だった。喉を鳴らし一気に流し込む。

 空になった瓶を置き肩を竦める。


「……満足ですか。笑うなら────」


 その時だった。猛烈に手の平が熱くなった。

 エグズは言葉を止め、目を見開き、左腕を見る。手の平が青白く染まっていた。


「なっ、えっ!?」

「魔法です……! エグズさん、そのまま! そのまま魔法を発動してください!」


 周囲に客がいないため、店員が怪訝そうな視線をエグズたちに向けた。

 そんな視線など意に介さず、エグズは魔法を発動した。というより勝手に発動した。


 一瞬世界が明滅し、大量の汗をかきながら手の平を見つめる。

 そこには、子猫のぬいぐるみができていた。


「なん……え……」


 困惑していると、それが体温を持っていることに気づく。まさか、と思っていると、動いた。


 ぬいぐるみなどではない。エグズは理解した。

 自分は今、生命(いのち)を創る魔法を発動したのだと。


「す……すごい」


 シルフィアが目を点にしていた。


「生命創造なんて……最高峰の難易度を誇る魔法ですよ! この世で1、2を争う希少な魔法です! き、禁呪認定されているかもしれませんが!」

「……マ……マジかよ」

「ほら、やっぱり! エグズさんにはあったんです! 才能というものが!」


 エグズは頬を上げた。驚きと嬉しさが混ざる表情をシルフィアに向ける。


「やり直せます。私と、いえ、私たちと共に同じ立場にいる仲間を救いに行きませんか。エグズさん」


 真剣な彼女の頼みを断る意味など、すでに消え失せていた。

 エグズは自分の力に気づかせてくれた彼女に感謝を示すように、頷きを返した。




★★★★★★★★★★★★




 宿に向かう途中、シルフィアとの会話を思い出す。


『今日の夜、集会があるんです。エグズさんには是非とも出席していただきたいと思ってます。実際にその力を見せることができれば、みんなの希望に繋がります』


 琥珀箱(アンバーシェル)を起動し、連絡先を確認する。しっかりと登録されていた。

 登録名は「追放者保護機関「ダヴフロック」」。


()()()()


 宿に到着し受付を済ませ、部屋へ向かう。すでに仲間には連絡を取っている。

 3階の角部屋に着き、呼び鈴を鳴らした。

 

 次の瞬間、木製のドアが勢いよく開けられ、誰かがエグズに抱きついた。


「おかえり! おかえりなさい!」


 この明るい声を聞くだけで安心する。エグズは微笑みを浮かべ────


「ただいま。ごめんね、待たせて」




 バルグボルグの頭を、優しく撫でた。彼女は嬉しそうに目を細め腕に力を込めた。





お読みいただきありがとうございます。


ブックマークや評価を頂けるととても嬉しいです。更新の励みになります。

よろしくお願いいたします!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ