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円満追放  作者: RINSE
第1章「賭博黄金「カロレイズ」-エグズ17歳-」
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第13話「豚」

 セントラルを出てホテルへ向かう。7年前、バルグボルグが住んでいた場所だ。

 エグズとバルグボルグは家を買って一緒に住んでいるが、重要な話し合いは毎回ここを使っている。

 適当な部屋に入る。エグズは舌打ちしてから装備を乱雑に脱ぎ捨てた。


「あんた自分の立場考えろよ。クラス・ダイヤモンドとして相応しい態度を取るべきだ。ジラーン副管理人に失礼な言動は控えた方がいいって」

「おい、助けてやったのに随分な言い草だな」

「確かに、結婚を機に国を出たオルクトさんの後釜で来たあの人は、いけ好かないさ。けど仕事はしっかりやってるだろ」

「そういやお前、また彼女と別れたの?」

「聞けよ!! 別れたよ!」


 バルグボルグはベッドに腰掛ける。


「3人目だっけ?」

「そうだよ。あんたのせいで別れたんだろ」

「そうだっけ?」


 3ヶ月前のことだ。バルグボルグと夜通し飲んでいる所を目撃され、2人でホテルバーに入る所を見られてしまい、激しい怒りに晒された。エグズが弁明しても聞く耳持たず。


『コイツ絡み酒でさ、中々寝かせてくれなくて参ったよぉ~』


 師匠の援護射撃は盛大に誤射し、見事にフラれた。


「まぁ半年以上付き合ってたんだろ? やることやって別れたからいいだろ」

「……」

「え?」


 視線を切ったエグズを見て、豪快に噴き出す。


「やってねぇの!? まさかお前、3人も付き合って童の者ですか!?」

「死んで?」

「お前男として終わってんな。サイズが小指くらいしかないわけ?」

「死ね」

「やだわ~。血迷って私を襲うなよ、エグズ」


 エグズはチラと視線を向ける。出会った頃の軽鎧から上半身の露出は増していた。水着を着ているようだ。クロスホルター・ビキニだったか、形状はそれに近い。

 逆に下半身は少し厚着している。太もも部分を少し見せているが。なんともヘンテコな装備だった。


「なにジッと見つめてんだ変態」

「師匠。太った?」

「あ~、また胸がデカくなったかも」

「頭の栄養そっちに行ってんだな」

「んだとこのクソガキ!」


 一瞬で距離を詰め、背後からエグズの首に腕を回した。


「ぐえっ! ちょ、入ってる! 入ってる!」

「許さん!!」


 2人ともベッドに倒れる。


「お前身長伸びたな本当。私と同じくらいか?」

「ひゃく……はちじゅう……さん、だよ!」


 エグズは拘束を逃れ、バルグボルグの両手を押さえる。押し倒しているような絵面になった。


「やだ~。犯される~」

「師匠。話って?」

「ん? 昇級おめでとう」

「ありがとう。で、本題は」

「直接依頼が来た」


 バルグボルグは仰向けになったまま昼頃のことを話した。

 言えない荷、というのが気になったが、エグズはなんとなく察しがついていた。それを確かなものにしようと口を開く。


「男が持ってた宝石の種類と形状は?」

「バフトップカットのファイヤーオパール。他はバゲットカットが多かった」

砂燼国家(さじんこっか)「フォルリィア」だ。その鉱石はあそこでしか取れないし、あの国で人気の加工方法だ。となると奴は奴隷商人だ」

「繋がるかも、な」


 拘束を解いて離れる。


「師匠。もう少し整理したら行こう。恨みを積み重ねる時間も終わりそうだ」


 あいつの情報が手に入るかもしれない。エグズは口許を歪めた。

 この7年、エグズは己を鍛えながらアリオールの情報を追っていた。

 といっても大きく立ち回ることはできなかった。セントラルにアリオールの仲間がいるかもしれないため、国外に出るなどもできなかった。


 エグズは見えない敵に見つからないよう、慎重に立ち回った。そして3年前、国外からやってきた男性商人から有力な情報を手に入れることができた。


『この人昔ウチの店利用したよ』

『本当ですか! 名前とか聞いてます?』

『ん? ああ。ピジョンだ。大量に火薬と燃料買ってさ。戦争でもするのかって量だった』

『それ、何年前ですか?』

『10年前。今まで見たことない受注数だったから覚えてるよ。こんな国に住んでたんだな。だからあの商人団体(キャラバン)とも仲良くやってたのか』

『あのキャラバン?』

『シュービルって男だ。そいつは、フォルリィアの凄腕商人さ』


 思わぬ収穫だった。アリオールが国外で偽名を使っていること。そしてシュービルの情報。エグズはシュービルを狙いに、多くの商人に話を聞いた。ほとんどが凄腕だの商売上手だのと、フワフワしたことしか言わない中、とある黒い噂を聞いた。


「鉱石が取れなかった時期も、あいつ率いるキャラバンは羽振りが良すぎた。裏で荒稼ぎしてるかもな。あ? 裏って────奴隷商売だよ。高く売れるのさ。人の形した物ってのは」


 だから今日の出会いは運命としか言いようがない。

 エグズとバルグボルグは男が指定したレストランに入る。ヴァルターユの中でも1番の高級レストランだ。

 ウェイターはバルグボルグを見ると即座に案内を始めた。武具を身に着けているのは2人しかいなかったため、変に目立っていた。


 2人はVIPしか入れない7階の部屋に案内される。部屋の扉の前には、浅黒肌の男がいた。


「お待ちしておりました。エグズ様に、バルグボルグ様。中で主がお待ちです」

「早速仕事の話ですか?」

「ええ。主は無駄な時間が嫌いなのです。ああ、それと、不快な顔はしないようお願いいたします」


 男は微笑み扉を開けた。中に入ると、2人は一瞬だけ顔を引きつらせた。


 ベッドの上で、グチャグチャと音を立てながら料理を喰らっていたのは、豚の面をした男だった。

 いや豚ではない。よく見ると、顔は丸々としている人面。全身が脂肪で肥大化している。どちらかというと蛙の方が形状は近いかもしれない。

 醜さを全面に出す主とやらは料理を口に運び続けている。彼の隣には、クローシュを乗せたキャスターが置いてある。


「我が主、ファット様。守護者様が謁見したいと」

「ん……おお。来てくれたんだネ。ちょっと待ってネ」


 ファットと呼ばれた男は皿を手に取りベロベロとソースを舐めとる。


「エグズ。この豚焼いていいか?」

「めっちゃ臭そうだからやめて」


 2人は小声を交わすとファットが皿を放り捨てた。顔の脂肪で潰れかけている小さい目が向けられる。


「はじめましてだネ。吾輩はファット。獣人奴隷商人をしてるヨ」

「正体明かすんですね」

「吾輩の商売道具などバレると思ったからネ。わからなかったとしても喋っていたヨ。獣人がどれだけ金になるか知って欲しいからネ」


 ファットは楽しそうに喋り始める。


「獣人は人間よりも知能も魔力も高イ。だが協調性がなく互いにいがみ合ってばかりで人間に追いやられていル。哀れなペットダ。だから捕まえやすイ。売れば愛玩動物にでも、執事にでも、ボディーガードにでも、なんにでも使えル。最高の商売道具だヨ」


 鋭い視線をバルグボルグに向けた。鼻でフゴフゴと音を立てる。


「だから気に食わないネ。竜とはいえ、獣人がランク・ダイヤモンドなんテ」

「私が強すぎるだけだ。文句は弱っちい人間に言えよ」

「生意気な態度だネ。けど綺麗ダ。どうだい、この仕事が終わったら吾輩の下で、1日従者体験をしてみないカ? ただ()()()()()()()()金を稼ぐだけの簡単な仕事サ」


 ニチャ、という擬音が似合う笑みを浮かべた。ファットのゲップ音が木霊する。


「仕事の話をしても?」


 エグズは淡々とした口調で言った。


「これ以上関係ない話をするなら去ります。私たち以外に奴隷運搬なんていう仕事を引き受けるガーディアンはいませんよ」

「この国だと禁止されているからな。奴隷商売。セントラルに堅物がいるから一瞬で通報されて国外追放されるぞお前ら」


 ファットが太い腕を軽く振る。


「わかったヨ。話をしよウ。だいたいのことはそこにいるティンバーから聞いてるだろウ?」


 浅黒肌の男が頭を下げる。


「途中で山を越えなければならなイ。舗装されているとはいえ人気のない場所ダ。高所も取りやすい細道があル。絶好の()()()()だと思わないかネ? だから守って欲しいんだヨ。今回は大口のお客様が相手ダ。商品に傷がついて欲しくなイ」

「わかりました。キャラバンにとって死活問題ですね。商人の護衛、喜んで引き受けます。時間は?」

「明日の正午ダ」

「かしこまりました。成功させれば報酬はいただけますよね?」

「いくら欲しイ。常識の範囲で頼むヨ」

「では獣人を一匹」


 下卑た笑みを浮かべている豚が表情を変えた。

 エグズの狙いは、情報よりも報酬の方だった。アリオールを仕留めるとしても、奴には多くの仲間がいる可能性がある。となると、こちらも手駒は多い方がいい。

 自分の言うことを忠実に聞く獣人がいれば、それだけで心強い。


「獣人を一匹、いただけますか」

「……いいだろウ。護衛完了後好きな子を持って行くといいヨ」

「よろしいのですか、主」

「構わんヨ。相手だって全部が欲しいわけじゃなイ。好みの数匹が欲しいだケ」


 ファットは人差し指を振る。


「残ったのはいつも通り、虎に切り裂かれるか、大蛇に絞め殺されるか────」


 まるで汚物が吐き出されるような豪快な笑い声が室内を揺らした。ファットは、キャスターに乗せられた銀の蓋を開ける。

 そこには、女の腕が置かれていた。犬毛があるため獣人の腕だ。


「吾輩に食われるかの道具にしかならないんだかラ。拾われる幸運な子が誰になるカ、楽しみだネ!」


 腕を鷲掴み、口に運ぶのを見届けてから、エグズたちは外に出た。


「……バルグボルグ」

「あ?」

「塩と胡椒で味付けするから奴の焼き加減は任せたよ」

「ああ。そんで副管理人にプレゼントしよう。泣いて喜ぶぜ」


 2人は鼻で笑った。仕事が始まるまでの間、両者の目許は怒りで染まっていた。


「おい」


 そんな2人に声がかかる。聞き覚えのある声に、エグズは振り返った。


「面白そうな話してんじゃねぇか」

「……ギーシュ!」

「俺も混ぜろよ。2人目の師匠、だろ?」


 相変わらず目立つスキンヘッドの大男に、エグズは笑顔で頷いた。

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