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円満追放  作者: RINSE
第1章「賭博黄金「カロレイズ」-エグズ17歳-」
13/14

第12話「7年後」

 バルグボルグは行きつけの定食屋にいた。


鋸牛(ギロンズ)のステーキ。焼き方は適当でいい。コゲだけでもいいぜ」


 メニューも見ず即座に注文する。サラマンダー乗り場近くのビル3階に位置する店だった。長い間ヴァルターユに滞在しているが、ひとりの食事はこの店が一番だった。店内は狭く、客も多くないため静かだ。落ち着くピアノの音楽も好みだった。


 窓際のテーブル席に座り窓の外を見る。相変わらず白と黒しかない世界だった。


「相席してもよろしいでしょうか? レディ」


 テーブルを挟んだ向かい側に男が座った。堀の深い顔に浅黒い肌。服装はピシッとした黒スーツ。オールバックの髪型も相まってホテルマンのようだ。両指に嵌められたアクセサリーをチラと見る。


「宝石が下品だぜ色男。眩しくてしょうがねぇ。空いてる席に行け」

「そう邪険にしないでください」


 店員が男に水を運んできた。バルグボルグが「置かなくていい」と言ってそれを拒否する。店員は困惑しつつ引き下がった。


何者(なにもん)だお前」

「ただの貴族です」

「貴族がこんな定食屋に来るかよ」

「あなたに依頼を頼みたいのです、レディ・バルグボルグ」


 男は口許を歪めながら言葉を紡ぐ。


「5年前、ランク・ダイヤモンドに到達した超一流のガーディアン。流石竜の一族、ドラ・グノアといったところでしょうか」

「こんな寂れた国のダイヤモンドになったところで意味なんかねぇさ」


 バルグボルグは自嘲を浮かべる。

 この7年で、ヴァルターユ国のガーディアン事情は大きく変化していた。ガーディアンの数は激減しておりかつての賑わいは失っている。理由はこの国の暴雪(ぼうせつ)事情だ。年々吹雪は激しさを増しており、気温も下がっている。それが影響してか、国の周辺にいたモンスターの数も減っている。


 モンスター討伐を生業なのに、標的(タスク)がない。仕事道具は腐る一方。ゆえに、この国のガーディアン達は国家公務員でもある警備隊に転職するか、国外行きだ。「ライセンスを解除してくれ」と言うガーディアンが後を絶たないらしい。


「ですが凄腕であることに変わりはない。だからあなたに頼みたい。報酬に関してはご安心を」

「セントラルを通せ」

「なにぶん忙しい身でして。正規の手続きを踏む時間も惜しいのです。それに、この国のセントラル。まともに機能しているんですか?」


 ()()()()()の常套句だった。おまけに言い返しづらいことまで。


「うぜぇなお前」

「恐縮です。簡単に説明しましょう。私の主と荷物を隣国のドゥネパスまで護衛して欲しいのです」

「荷物の護衛?」

「私たちが扱う商品はなにぶん希少なのです。対人に特化したキャラバンガードナーも雇っておりますがとてもとても。モンスター達に襲われたら、ひとたまりもありません」


 バルグボルグは思案する。肘をついて窓の外を見る。


「できれば、お返事は明日に。あなたのお弟子さんとよくご相談ください」


 そういうと男は1万ガル札と、待ち合わせ場所が書かれた紙を差し出した。


「釣りは結構。私からの気持ちです」


 



 ★★★★★★★★★★★★




 エグズは白い息を吐き出し、敵を見据える。体長4メータルほどのイエティが森の中を練り歩いていた。

 街から遠く離れた森の中、久々に見る大物だった。

 

 仕掛けようと、エグズは口笛を吹く。イエティの巨大な耳がピクリと動き、首をグルンと向ける。

 自身より遥かに小さい存在を見つけ、咆哮で雪を吹き飛ばす。巨大な両腕と両足で地面を抉り飛ばしながらエグズに迫る。


 エグズが構えると剛腕を振った。横薙ぎの一撃を伏せてやり過ごす。


「元気だな、お前」

「ルゥウォォオオオオオオオオオ!!」


 両手でひとつの拳を作ったイエティの一撃が迫る。

 エグズは腰からレイピアを引き抜いた。抜刀と同時に一歩前に踏み出し、右腕を突き上げる。鈍色の細剣は雪を切り裂きイエティの顎下を突き破り頭頂部を貫く。


 レイピアを引き抜き、下から上へ、顎先を払うよう刃を動かす。モンスターの醜い顔が真っ二つになり、真っ赤な花を咲かせる。イエティはだらんと両腕を下ろし倒れ込んだ。


「よし」


 確かな手応えだった。剣を鞘に納める。琥珀箱(アンバーシェル)を使い試験官を呼ぶ。近場で監視並びに待機していた数人のガーディアンとジゼルがやってくる。


「ようやく合格か」


 ジゼルがガーディアン達に指示を出すと、絶命しているイエティを処理し始めた。


「17歳でランク・サファイア……パールになってから7年だ。遅咲きだな、小僧」

「努力はしてます」

「それは認めよう。このサイズはイエティのボスだ。3、4人のパーティで倒すことが推奨されておるが、お主は単独(ソロ)討伐。バルグの雑な指導の下でよく力を身に着けたの」

「ギーシュが優秀だったんです」


 エグズは無表情で言った。冬の冷たい風が頬を突き刺しても眉一つ動かさず。


「小僧呼びは今日で最後だ。エグズ。お主をサファイアのガーディアンに認定する。後日、簡単な手続きを済ませよう」


 試験は終了した。エグズは仇の背中を思い描く。

 まだまだその背中は遠い気がした。


 セントラルに戻ると後輩であるガーディアンに絡まれる。


「エグズさん! 試験合格おめでとうございます!」

「ありがとう」


 笑顔で答えると集まる人数が増えた。といっても4、5人程度だ。かつての賑わいは失せており、空きテーブルが目立つ。


 エグズのガーディアンとしての評判は中の上、といったところだ。実力に関しては他と比べて大きく劣っており、後輩の方がランクは高い。


「エグズ先輩なら絶対に昇格できると思ってましたよ!」

「ああ。みんなが応援してくれたおかげだよ」


 だが、境遇を乗り越える力と人柄の良さで、エグズはカバーしていた。 

 話を終え一息つく。7年あれば内装も大きく変わる。以前は荒くれ者が集う酒場のようであった。テーブルは少なく備品は破損している物が多かった。


 だが今は洒落たカフェのようだ。モノトーンの家具を中心としている内装はこの国によく似合っている。テーブルも椅子も数を増やし、清潔感が漂っている。優雅に珈琲を飲みながら読書や勉学に励む者もいるくらいだ。


 だが、そんな居心地のいい場所を乱す者もいる。


「エグズさん。帰ったら僕にいの一番に報告するべきでしょう」


 やけに早口な口調。セントラルの副管理人、ジラーンが声をかけた。丸顔に丸い眼鏡。頭もヘルメットを被っているように丸い黒髪。おまけに体も丸い。ついでに身長が低い。


「浮かれる気持ちもわかるけどサファイア程度で喜ぶのはどうなんですか」

「申し訳ございません」

「いいですか。ランクが上がってもエグズさんが勝手に依頼を受注することはできません。誰がどの依頼を受けるか決めるのは僕だ。報酬に関しても厳重にチェックするからお忘れなく」


 溜息が吐きたくなった。ガーディアンが減った理由はこの副管理人にもあるだろう。仕切りたがりで監視気質。行きすぎなほど真面目な性格。冗談を真に受けると目くじらを立て正論を返そうとするつまらない人間。運動もできなければ魔法も使えない。


 オルクトがいれば。エグズは眉を顰めた。


「……なんだその顔は」

「いえ? 特になにも」

「不満があるならハッキリ言ったらどうだ!! き、貴様も僕を馬鹿にするのか。いいんだぞ、ここからいなくなっても! 落ちこぼれのキミのかわりなどいくらでもいるんだ!」


 ジラーンは唾を飛ばしながら顔を真っ赤にする。体型も相まって赤いゴブリンのようだと失礼ながら思ってしまう。


「そんな態度なのはあの馬鹿女の影響か。いいか。ガーディアンは僕の言うことを黙って聞いてればいい! 僕はこの中で立場が上なんだぞ! キミらよりも優秀だから上司になってる! だから逆らえば────」

 

 戯言を遮ったのは爆音だった。2階の壁が破られ、吹雪と共に赤い影が飛び込んでくる。


「いよう! エグズ!!」


 片手を上げ呑気に挨拶する相手を見て、ようやく溜息を吐く。


「バルグ……お前は入口を使うってことができないのか」

「そうかっかすんなって」


 言葉は不快さを出していたが、正直ありがたかった。


「いやぁお前がランク・サファイアか~。この国のセントラルも終わりが近いな」

「ほざいてろ、脳味噌チョコチップ女」


 バルグボルグはエグズの肩に腕を回した。


「話がある。付き合え」


 声色が真剣だった。エグズは頷く。


「偉いぞ愛弟子。マジ愛してる」


 エグズの金髪を撫でると、ゲラゲラと笑いながらセントラルを出ていこうとする。


「ま、待て!!」


 ジラーンが声を荒げた。バルグボルグがジロリと睨む。


「んだよ? 馬鹿女に何か用か?」

「あ……な……ちょ、調子に乗るなよ。僕はキミが、貴様がダイヤモンドなんて認めないからな。粗忽で乱暴で痴女みたいな恰好で人間を誘惑する淫売の獣人め」

「あ~? 声はするけど姿が見えねぇなぁ。影でコソコソ言う弱者は声だけはデケェからタチが悪い。だよな? エグズ」

「師匠の仰る通りです」


 バルグボルグがゲラゲラと笑ってから2人はセントラルを出た。背後からジラーンの怒りや、数十人の怨嗟の視線が向けられた。


「嫌われてんなぁ、私たちは」

「もう慣れたさ。それに、話があるんだろ」

「ああ。良かったなエグズ。お前の求めてる情報なら、私たちもこのくだらねぇ国からおさらばできるぜ」

「それは嬉しいな」

「ま、とりあえず」


 バルグボルグはエグズの腕に抱き着く。


「ホテル行こうぜ! ホテル!!」

 

 まだ風も雪も強い外だったが、バルグボルグの燃えるような髪が、それらを振り払うように踊った。

 

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