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円満追放  作者: RINSE
第1章「豪雪血閃「ヴァルターユ」-エグズ10歳-」
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第9話「過去よりも強くなる」

 体を締め付ける拘束具に、エグズは眉を顰めた。医者に「これ以上無理したら本当に死ぬ」と脅されベッドに固定されているのだ。

 鎮静剤と痛み止めを撃たれたが気分は優れなかった。眠気すら来ない。


「やかましい連中ばかりだ。本当」


 バルグボルグが舌打ちしながらズカズカと病室に入ってきた。まるでチンピラのようだった。


「まだクソ投げが趣味の猿の方が静かだぜ」

「口が悪いですよね、バルグボルグさんって」

「人間や獣人(ヴォルフ)共に払う礼儀なんて持ち合わせてねぇんだよ」


 傲慢な言い方だった。

 バルグボルグはベッドの近くの椅子に座る。


「聞かせろよ。私を馬車扱いしたんだ。つまんねぇことほざいたら背骨へし折るからな」

「その前に。もしかしてバルグボルグさん、ドラ・グノア族?」


 バルグボルグは右腕を見せた。そして力を込める。

 右腕が泡立ち、肌を覆うように緋色の竜鱗(ドラゴンスケイル)が展開された。


「よくわかったな」

「装備と態度、あと魔力でわかったんです」

「なんだぁ? 女の体ジロジロ見るのが好きなのか? マセガキめ」

「……今時マセガキっていうのかな?」


 見るがよい、と言わんばかりにバルグボルグは腰に手を当て胸を張った。非常に扇情的な光景だったがどこかおかしかった。


 ドラ・グノア族はサンクティーレ(この大陸)()()使()()と呼ばれているドラゴンに変身することができる希少な一族だ。成長すれば竜の顔や、翼、鱗を持つようになり、変身せずとも身長は3メータルをゆうに超す。

 彼女は180センタ前後であるため成人していないのだろう。


「本当に凄い魔力ですね。体に触れただけで、燃えるようでした」

「ドラゴンの血はマジで燃えてるからな。鎧溶かせるんだぜ」

「けどおかしいな。あなた達は戦いが嫌いなはずでは」

「大半はな。けど私みたいに戦いが大好きな悪ガキもいるってわけ。戦争したいとか大層な物じゃない。強い奴と喧嘩がしたいだけだ」

「そんなことしなくても、ドラ・グノア族は最強だって言われてるのでは」


 わかってねぇなぁ、とぶっきらぼうに言うと、バルグボルグは天井を見上げた。


「私の一族を腰抜け呼ばわりする命知らずが多いんだよ。そいつら黙らせてやりてぇ。認識を改めてもらわないとな。だから私は犯人を捜してる。アリオールが自分から、気づくのが遅れて犯人も取り逃したって言ったんだ。ランク・ダイヤモンドから逃げる奴だぜ? マジで戦いたい」


 一番聞きたかった、彼女の目的が聞けた。


「バルグボルグさんのランクは?」

「エメラルド」

駆け出し(パール)の次のランクですか」

「ガーディアンになってから、まだひと月しか経ってないからな」

「なるほど。あなたの目的はよくわかりました。僕の話を聞いて欲しい」

「やっとか。待ちくたびれた。その幼い(くちばし)で、なにをさえずってくれるんだ?」


 エグズの背に冷たい汗が伝う。

 賭けだった。彼女がアリオールの仲間だったら、ズタズタに引き裂かれるだろう。まな板の上で切られるのを待つ野菜の気分だが覚悟を決めるしかない。


「あの事件の犯人は、アリオールだ」


 余裕綽々という雰囲気を身に纏う女も、流石に同様を隠せず、表情を険しくした。


「どういうことだ?」


 エグズは経緯を説明した。説明する間、彼女は一度も口を挟まず黙って聞き続けた。


「憧れの騎士が殺人鬼だった?」

「はい。あいつは、僕の母親を殺した」

「動機は? なんでお前の母親を殺したんだ」

「それはわかりませんが、もっと気になることがあります。どうして僕を殺さずに他国に行くのかという点です」


 バルグボルグが頭の上に疑問符を浮かべる。


「僕はこの通り身動きが取れない。口封じのために殺しに来るなら絶好のチャンス。バルグボルグが来る前に殺すことだってできたはずです」

「お前をわざと生かしているとか考えられるな。目的は不明だが」

「あともうひとつ。兄さんのことが気になる。僕を見つけた部屋に誰かいませんでしたか?」

「お前だけだ。あの後ガーディアンと協力して掘り返してみたが、見つからなかった」


 バルグボルグは足を組み直す。


「お前は兄の死体を見てないんだな」

「はい。けど、僕が最後に襲われたのは兄さんの部屋です」

「ふーん」


 相手は生返事した。


「疑問だらけだ。お前の言うことを否定できないが、本当だと信じる材料も少ない」

「……ですよね」

「だが」


 バルグボルグは不敵な笑みを浮かべた。


「信じた方が面白い。事実だとしたらだぜ? 私の相手はアリオールと、一緒にいたシュービルだったか? そいつらになる。どっちも纏めて食っちまうってのもアリだ」

「そうかもしれません。ただ奴らは、家族の仇でもあるんだ」

「だから?」

「仇を取りたい」

「ご立派だな」


 バルグボルグは立ちあがった。


「さっさと元気になることを祈ってるよ」

「待ってください」

「話は終わりだろ?」

「違う!!」


 エグズの大声が室内に木霊する。


「言ったでしょう。()()()()()()()()()って。ここからが本番です」

「……なんだよ」

「僕を鍛えて欲しい。今の僕じゃアリオールに勝てない。けど、ドラ・グノア族の、腕っ節に自信があるあなたなら」

「断る! なんでそんな面倒くさいことをしなきゃいけねぇんだよ」

「僕は、必ず1日1日強くなる」

「うぜぇな」


 歯を剥き出しにし、エグズの胸倉を掴む。


「どんだけ金積まれてもそんな依頼は受けねぇ」

「僕は強くなる。1日でも弱くなったとか、成長してないと判断したらその時点で僕の前から消えて構いません」

「ふざけ────」

「僕は強くなる!! 強くなって、あなたよりも、強くなる! 強くなったらアリオールを倒して、次はあなたと戦おう」


 エグズの呼吸が荒くなる。バルグボルグは困惑し、眉根を寄せた。


「お前、何言ってんだ……?」

「強い喧嘩相手が欲しいんでしょう? なら僕がそうなるよ。ここで僕を見捨てたら後悔するよ。あなたはただの腰抜けだって言いふらしてやる」

「挑発のつもりか? 私が人間(ヒューダ)に背を向けるとでも?」

「けど、あなたを倒せると豪語している人間に、背を向けようとしているでしょう?」


 エグズは必死だった。自身の悔しさと弱さを誤魔化すために、あえて竜を怒らせ、糧にしようとした。

 バルグボルグからして見れば、あまりに稚拙な挑発。だが、彼女はセントラルでのやり取りを思い出す。


 もしエグズの話が本当だとしたら。彼は真犯人が目の前にいるのに、笑顔を浮かべ礼までした。屈辱という二文字が、よく当てはまる。

 それでも彼は生きて力をつける方を選んだ。

 それは確かな、認めるしかない強さだ。


「本気で私より強くなるのか?」

「……僕は本気です」

「そうか」


 バルグボルグはニッと笑い胸倉から手を離す。

 直後、エグズの顔面に拳を振り下ろした。


「……これくらいで気絶するな。明日までに耐えられるようにならなきゃ契約終了だ」


 血を吹き出す病人を見下ろしながら、彼女は静かに言った。


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