第0話「円満の騎士」
「99羽の鳥が地面に降り立った。種族は鳩。連中は全員、いつも通り馬鹿っぽく頭を振りながら足を動かそうとした。
だが、誰も動かない。目の前に1羽の、白い頭の鷲がいたからだ。
鳩たちは困惑した。オスの鷲がいることにじゃない。その見た目にだ。
そいつは片目が抉られ、片足が欠損していた。よく見ると体中傷だらけで、飛べるのかと疑問に思うほどだ。
ここまで想像できたかな。
さて、キミに質問をしよう。
このあと鷲は鳩からどのような扱いを受けると思う? 攻撃されるか。侮蔑に塗れた視線を向けられるか。仲間外れにして全員飛び立つか。
正解は、鳩たちは彼を歓迎した。
なぜだと思う? 鷲であることに変わりはないからだよ。
傷だらけだろうと強く、恐ろしく、そして美しい。皆の憧れの象徴だからだ。
それから彼は群れに加わり、優雅に飛び続けた。餌を取る時も率先して動き、常に鳩たちのことを気にかけ、外敵との戦いは常に体を張り。長い年月を仲間と共に生き続けた。
ここまで聞いて。キミは疑問が湧いてるだろ。言ってみろ」
「……なぜ鷲は、片目と片足を失っているの?」
「そう! 知りたいよな。鳩たちも悪いと思いながら質問した。
彼は、仲間たちと仲違いしてしまった結果、失ってしまったと言った。つまり剛毅な鷲と喧嘩をし、破れたというわけだ。
鳩たちは納得した。
ああ、こいつは傷が恥ずかしくてここに来たのだ。自分より遥かに弱い者たちの輪に入り逃げている臆病者なのだ。しかしそうは言っても空の王者。せいぜいこき使ってやろう。
大半の鳩たちはそう思った。
だが一部の連中はこう思った。
彼の話は本当なのか?
そう疑問に思いながらも一緒に過ごすしか道はなかった。
さて、ここまで聞いて、キミはどう思う?」
「……嘘だと思う。喧嘩で負けたのなら、足や目を潰すより翼を捥ぐ」
「そう。その通りだ。鷲の話は嘘なんだよ。全てが嘘だった。
鷲はね、爪を研いでいた。脳味噌を使い続けていた。
そして爪を出す時が来た。翼を広げる時が来た。片目と片足を犠牲にした苦労が報われる時が来た。
わかるかい? 鳩の群れが来たのは、偶然じゃない。必然だ。
彼は最初から、鳩の群れが自分のところに来るよう動いていたんだよ」
「……鷲は……何がしたいの?」
「決まってる。自分の大切な物を犠牲にし、誇りすら捨てた者が、それでも成し遂げようとするもの。
復讐だ。
憎くて憎くて、殺したいほど憎くてたまらない相手が、鳩の群れの中にいる。鳩の皮を被った悪魔がいる。彼はそいつを殺すために生きて来たんだ」
「……それで、どうなったの?」
「ん?」
「復讐は……果たせたの?」
男は白い歯を見せた。
「今から話す。最後まで聞けば……円満の騎士の物語を聞けば、キミの求めていた答えが見つかるよ。
眠くなったら、寝ても構わない。
また明日話そう。
そう……時間は、たっぷりあるから」
新連載はじめました。
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